新規のTCGはハードルが高い

 仕事を終え、一度帰宅して軽く汗を流して、行きつけのカードショップ『ミニダケラボ』にたどり着けたのは18時を少し回ったところで、閉店まであと1時間程度と、ギリギリ一回戦できる時間には入店できた。




「お、斬汽ざんきさん今日は来れたんですね」




 斬汽とはここで名乗っているPNプレイヤーネームのことである。


 声をかけてきたのは白檀びゃくだんこのカードショップに初めて顔を出した時からの付き合いで、今日ここに来た目的の『GET THE WORLD』通称GTWを伝授してくれた師匠である。




「今、初めて来てくれたお客さんにGTWの良さを語ってたんだよ。そしたらやってみたいってことだから一緒に教えないか?」




 白檀の隣にはまだ小学生と思われる男の子が申し訳なさそうに、三十路を超えた7人の大人に囲まれて座っていた。




「いいですよ、今からだと一回戦しかできませんし。それにしても新規ですか?ほかにも小学生向けのDFFドラゴオブフォールや星屑戦線とかあるのにGTWに興味持ってくれるなんてありがとう」




 GTWが世に出て10年経過し、ドラゴンのようにカッコイイ絵柄を主軸としたDFFや、宇宙を舞台としゲームセンターに置かれている筐体を使い戦う星屑戦線に押され少しずつ競技人口が少なくなっている昨今、新規のプレイヤーは大歓迎となっている。




「よし、今日から始まるならお兄さんが眷属をプレゼントしてあげようじゃないか」




「いいんですか?」




 目を輝かせて少年が食い気味に反応してくれる。




「まあ、見てくださいよ。おっさんが若い子に手を出してますよ」




「まあ、いやらしいこと」




「まあ、自分のことをお兄さんとか前回大会のときに『おじさん』と言われたことまだ根に持ってますわよ」




「まあ、先輩風を吹かせてなんてやらしいの」




 と、わざと聞こえるように内緒話にならない内緒話をし始めた店内にげんなりしながら、




「あのおっさん連中はほっといて眷属召還と行きますか。まずはこの筐体で9つの『色』を選択してその後、『攻撃』『防御』『魔力』のいずれかの数値を入力すると、入力した数値にあった眷属を選んでくれる。その眷属を基に色ごとにパックは分けられているから、色にあったパックを購入してデッキとなる可能性ポシビリティーを30枚から60枚で組むのが最初だね」




 GTWの筐体に300円を投入しながら早口でまくし立てると、




「あ、あの色は適当でもいいのですか?白檀さんとかと話しているときでもよくわからなかったので」




「色に関してはそれぞれメインとなるテーマだと思ってくれればいいよ。例えば『白』は『聖なるもの』をメインに掲げていて、モチーフは聖女や聖遺物などとなっている。ほかにも『黒』だと『悪しきもの』、『灰』だと『人間』、『茶』だと『動物』って感じに分けられている」




 こんな感じで説明していると、寂しくなったのか白檀が話に交じってきた。




「ほかにも、『黄』の『昆虫』、『緑』の『大地』、『青』の『自然』 、『赤』の『太古の』と続くんだけど、プレイヤーも運営もよくわからない『紫』の『高貴なるもの』って色も存在しているんだよね。あるだけで、使ってる人を見たことないけど」




「最初は『白』か『灰』がおすすめかな?全体のバランスが取れているから初心者でも問題なく取り扱えると思うよ」




 少年は少し考えた後、




「わかりました『白』にしてみます」




 と、わくわくした様子で筐体に入力を終えると、1枚のカードが出てきた。




「『聖女レイセ・ファンカレ』?って強いんですか?」




 出てきたカードは、白の鎧に旗を持ち群集の前で演説しているような立ち絵が描かれていた。




「初めて扱うには扱いやすいカードを手に入れたね。せっかくだからこれに合うデッキを上げようじゃないか」




 嬉しそうにテーブルに向って案内している白檀の後を、自分の持ってきている中でどのデッキが一番対戦相手として最適か考えながら後を追う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る