カンナ・ラビスタ

 平凡な歌が歌いたかった。

 沈むような夢を見たかった。

 走り出すよう幸福を噛みしめたかった。

 空に浮かぶ雲になりたかった。

 何にもなれなかった。

 何も慣れなかった。

 何一つもれなく何一つもう何も出なく。

 何者でもなく。

 可逆的な不可逆でもなく。

 空に浮かぶ湖のように。

 舟の沈んだ湖畔のように。

 まるで胡蝶の夢かのように。

 瞬く間にまた隈なく苦なく。

 池で泳ぐバッタのように。

 人の夢かのように。

 何かを見せてくれたのか。

 何も見せてはくれないのか。

 軋む腕を押さえつけながら。

 海の月これに尽き。

 すべてを失い得る物もなく。

 こうして夜が流れていく。

 洗いざらいなかったことにして。

 そこには確かに存在するのに。

 まるで何もないかのように。

 池塘春草の夢のように。

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