第19話 真実

 大村は装備を整えて、バイクで高岩海岸に向かうと、崖には明美が椅子に拘束され気絶していた。

 偶然にも、同じような光景を以前にも見たことがあった。

 あの時は大村が椅子に拘束されて助けられる側だったが。

 大村は警戒しながら崖の上の明美に近づくと、拘束具を外そうとした。

「それはずるいんじゃないか? アルファ」

 大村が慌てて顔を上げようとした瞬間、怪人メタモーのアッパーがマスク越しに大村の顎に決まる。

 背後に吹っ飛ばされた大村は、危うく崖から落ちそうになる。

「来てくれて嬉しいよアルファ、ようやく私の誘いに乗ってくれたね。嬉しいよ」

「起きろ……起きろ富士……戦うんだ……目を覚まして、怪人と戦うんだ!!」


「明美、起きなさい明美」

 明美の意識は星々の輝く宇宙を漂っていた。

 明美が渋々目を開けると声は再び語り掛ける。

「明美、彼が助けを求めています。私の力を使って、戦うのです」

「あなたは……?」

 明美の問いかけに声は答えた。

「私はあなたの中の怪人細胞の持つ意思。いい? 忘れないで。あなたはまだ特別じゃない。でも特別になれるチャンスがある。一歩、踏み出しましょう?」

 明美がそれに頷くと星々の光がだんだんと強くなっていき、まばゆい光が彼女を包み込み、覚醒した。


「あっけない最期だな。アルファ、明けからの転落死で死に際を飾るのはヒーローの中でもお前くらいだろう。さらばだ」

 崖から落ちそうな大村に向かって、サッカーボールをけるような動きで、怪人は蹴りを繰り出した。

 しかし、それはもう一体の怪人によって防がれていた。そう、短期的に怪人化した明美である! 

「待たせたわね、ここからは二対一よ!」

「小娘が一人増えたところで、なにが代わるというのだ!」

 だが、怪人化した明美は強かった。というのも、実は明美は人体強化薬の恩恵よりも、怪人化による恩恵の方が大きかったのである! 

 いよいよ、怪人メタモー駆除のための戦いが始まった! 

 大村は何とか自力で立ち上がると、怪人メタモーが二人に向かって液体を吹きかけた。

 大村は怪人の攻撃を避けながら機会を伺い、明美は液体を厚い外殻で受け止めてそのまま反撃に出る。

 そして大村は怪人の懐に入り込むと、思い切り腹を殴りつけた。

 だが、それは怪人が光の屈折によって作り出した幻影だった! 

 大村の攻撃は幻影をすり抜け、味方の明美の体に直撃した。

「ちょっと! 気をつけて!」

「悪い! こいつの幻影能力をどうにかしないとな……」

 大村はそもそもなぜ決戦の部隊にここを選んだのか考えた。怪人にメリットのある地形とは思えない。

 だが、怪人の動きを観察して、その特性を確信する。

「液体だ! こいつ、液体がないと幻影が作れないんじゃないか?」

「そう言えば会見の日も雨が降ってたわね。今は後ろに海があるし、辻褄はあってる」

 怪人の攻撃を避けながら、明美はそう返す。

「二人同時攻撃であいつを陸側に飛ばそう。いいな?」

 明美はそれを聞いて頷いた。

「なにをごちゃごちゃと言っているんだ? 無駄なことを、二人ともここで死ぬんだ。行き止まりなんだよ!」

「「黙れ!」」

 二人は同時にそう言うと、強烈な同時キックで怪人を海から遠く離れた土の地面の場所まで蹴り飛ばした。

「があああ! 水分が! 水分が吸われていく!」

 弱体化していく怪人に、二人は容赦はしない。

 大村はパンチ、明美は回し蹴りを放つ。

 二人の連携技が炸裂し、怪人メタモーは地面に倒れた。

 だが、それでもまだ生きているようだ。

 怪人メタモーは必死に起き上がろうとするが、足が動かない。

 明美が怪人メタモーの足を踏んで、動けないように固定していたからだ。

 大村がとどめを刺そうと、怪人の方に歩み寄っていく。

 その時だった。

「ま、待ってくれ!!」

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 もう聞こえるはずのない声。聞くはずのない声。

「父さん、俺だよ……」

 徐々に瀕死の怪人メタモー自体にかかっていた幻影が消えていき、声が低くなっていく。

 その正体は、大村の息子、秀明だった。

「お前、どうして……なんで……」

 明らかに動揺し、取り乱す大村だったが、秀明は質問に子供のように泣きながら答える。

「だって……富士博士が死んだとき、このままじゃ怪人がいなくなって父さんがもう変身できなくなると思ったから……少しでも長い間、ヒーローでいさせてあげたくて……」

「いつから? あなたが姿を隠して私たちの前に現れたのは?」

「トンネルであったのが、最初さ……富士博士に成りすまして、彼の遺体から作り出した怪人化アンプルを渡したんだ」

「まて、じゃあ富士博士の遺体を盗み出したのは……」

「そう、俺だよ、父さん。全部父さんのためだったんだ……自宅で死んだふりをして富士博士の目を欺いて……博士の亡き後は怪人を量産してさ……父さんだってできるならずっとこのまま戦っていたいだろう?」

 その問いかけに大村は一個人として真面目に答えた。

「そうだな、戦いたくないといえば嘘になる。でも、戦いが終わって欲しいと願うのもまた事実なんだ。秀明、帰ろう。治療薬があればお前も俺も人間に戻れる。そしたら罪を償って、またやり直せばいいさ。再出発、いつでも付き合うから。一緒にやり直そう」

 大村はそう言うと息子を抱きしめ、共に涙を流した。

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