第17話 会見
『それではこれより、大村英光による記者会見を行います。質問のある方は後ほどお時間を取っておりますのでその際にお願いします』
司会はそう言ってマイクのスイッチを切ると、横の扉が開き大村が入室する。
大村が怪人血球を注射した後、すぐに病院に運ばれ検査を受けた。
その結果、彼の体内で無事怪人血球の増殖を確認し、怪力を再び得たことで特殊隊員アルファとして戦線に復帰したため、こうして対特殊生物対策隊初の特殊隊員を表にたてた記者会見を行っているというわけである。
ちなみに明美は怪人の生みの親である富士博士の娘ということもあり、今回は登壇していない。
会見場に現れた大村の姿を見て、主に中年の男性記者たちがザワつく。
「本物か? 若すぎるだろ……」
大村は慣れた動作でマイクの高さを調整すると、静かに事のあらましを話し始めた。
息子に渡された人体強化薬を飲み、初めは怪人28号のスーツを着て活動していたこと。
息子や鮫島が亡くなり、その命がけの行動で自身が救われたこと。今は相棒である特殊隊員ベータと共闘していること。
怪人化できることに関しては話さないよう杉田から止められていた。全ての怪人に自我が残っているのではないかと無用な心配を招かないようにするためである。
「──以上です」
『それでは、これより質疑応答に移ります。質問のある方は挙手をしてください』
司会がそう言うと、会場に来ていたほとんどの記者が手を上げた。
その中の一人を、司会が指名してマイクが手渡される。
『黄昏新聞の茂本です。まず一つ目なのですが、先ほど人体強化薬の影響でそのような若い姿に戻られたとの話ですが、その薬を飲めば誰でも若返ることができるということでしょうか? 二つ目は、なぜ姿を隠して活動されていたのでしょうか?』
その質問に対して、大村が答える。
「一つ目の、人体強化薬を飲めば誰でも若返るのかという質問に関してですが、そのようなことはありません。
あくまでも体の若返る現象は副作用であり、必ず誰にでもでるものではないことが確認されております。現に、私の同僚に当たる特殊隊員ベータにはそのような現象が確認されておりません。
二つ目の質問に関してですが、なぜ姿を隠していたのかというと、活動初期は親族や知人に迷惑をかけないためにスーツを着用しておりました。対特殊生物対策隊に所属してからは、人体強化薬で強化された人間には攻撃力が上がる一方で、防御力に欠けているという欠点がありましたので、主に身体を守るためにスーツを着用しておりました」
『ありがとうございます』
記者がそう言ってマイクを返している最中、司会が口を開く。
『時間の関係上、質問される方は質問を一つに絞って下さい』
二人目の記者にマイクが渡され、記者が挨拶する。
『SFTテレビの斎藤です。怪人は人間が変身した姿だそうですが、それを殺してしまうというのは過剰な対応ではないでしょうか? それと、対特殊生物対策隊の出動や対応が遅いせいで亡くなられた方も多数いらっしゃいますが、その点をどうお考えですか?』
「過剰な対応かという質問に関してですが、私の所属している対特殊生物対策隊は治療できる余地があった場合に備え、まず捕縛作戦を実行しております。これはどの理性を失った特殊生物……以降怪人と呼称します、が現れた時も同じです。そのような中で、怪人をやむをえず殺さなければいけないケースが目立つのは、それを取り上げるメディア側の責任も大きいのではないでしょうか?
亡くなった方には申し訳ない気持ちでいっぱいです。我々の部隊もできる限り尽力しておりますが、現状今年度の防衛費予算の残りがわずかなことから、来年度まで人員を増やすことが難しいというのが現状です。どうかご理解いただけると幸いです」
そう言うと、大村は次の記者を手で指示した。
『質問はお一人一つまででお願いします』
再度司会者が釘を刺した後、マイクが記者に渡される。
「怪人が出た時は最初に捕縛作戦を実行しているそうだな。なら、私も捕縛してみるがいい」
そう言うと突然、一人の男性記者が立ち上がる。
その男の声は、大村がかつて戦い、たった一度の敗北を許した怪人と同じ声だった。
男性記者は不敵に微笑むと、一瞬にしてマントのような翼を持った怪人に姿を変えた。
記者たちはパニックを起こし椅子を倒しながら壁や出入口へと走っていき、壁際にいたカメラマンたちは一斉に怪人に向かってシャッターを切った。
大村は壇上から降りると、それに合わせるように両脇の扉が開き、捕縛部隊と駆除部隊が姿を現した。
「全員集合とは豪華だな。八時はとっくに過ぎているが」
「捕獲部隊、構え!」
捕獲部隊隊長の雉井がそう指示を出し、隊員たちが一斉に麻酔銃を構える。
その間に、大村は上着を脱ぎ捨てて下に着ていた戦闘用スーツをあらわにすると、駆除部隊隊員から手渡されたフルフェイスマスクをかぶった。
「撃てー!」
大量の麻酔弾が怪人目開けて飛んでいく! だが、怪人はそれを翼で払いのけると、再び喋った。
「これだけか?」
怪人が小馬鹿にしたようにそう言うと、突如怪人の体から無数の液体が噴射され、それが捕縛部隊にかかる。
捕縛部隊の隊員はその攻撃を食らった部分がじゅわじゅわと溶けていく音を聞いて、悲鳴を上げる。
「全員、射撃用意!」
今度はその前に出てきた駆除部隊が隊長の石原の命令で自動小銃を構えたが、避難誘導指示に従わない記者やカメラマンがいつまでも会場に残っており、完全に流れ弾が当たらないとは言い切れないため、大村が前に出た。
「覚悟しろ!」
大村はそう叫ぶと、怪人に取っ組みかかり、お互いに顔面を殴り合う。
大村のパンチが怪人の頬にめり込み、怪人のパンチは大村がつけているマスクを歪める。
思った以上の威力のパンチに大村は評価を見直し、怪人を大村は両足で蹴飛ばすと、一旦距離を取った。
大村が構えなおして怪人を睨みつけると、怪人は大村を嘲笑う。
「アルファ、以前よりも強くなったか? ますます興味がわいて来たぞ。やはり私と共に自然を守ろうじゃないか!」
「断ると言っている!」
二人が同時に突き出した拳がぶつかり合う。
大村は衝撃で後ろに下がると、怪人が追撃を仕掛ける。
大村は追撃のパンチを受け流し、その腕を掴むと一本背負いで怪人を投げ飛ばした。
怪人は空中で体勢を立て直すと、きれいに足から着地して距離を取った。
怪人の攻撃はどれも重く、そして素早い。
大村も負けじと反撃してきたが、そのことごとくは避けられ、防がれてしまう。
(このパワーとスピードの差……俺とコイツはなにが違う?)
大村は冷静に分析しながら、相手の隙を探る。
怪人の鋭い蹴りが大村の顔に迫るがそれを受け止め、逆に大村は怪人の頭にチョップを振り下ろす。
だが怪人もそれを読んでおり、大村の腕を掴んで攻撃を止めた。
(俺とコイツの差を埋められるもの……それは……)
怪人の踵落としが襲ってくる中、大村は呟いた。
「経験だ!」
大村は頭を下げ、それをかわすと、怪人の顎にアッパーを叩き込んだ。
「ぐおっ!?」
大村の一撃をまともに食らい、怪人は大きく後ろへ仰け反り、大きな隙が生まれる。
「お前に勝ち目などないぞ! 怪人!」
大村はそう言って更に追い打ちをかける。
怪人の腹部に強烈なボディーブローを浴びせ、怪人の体が浮かび上がると、大村は怪人の両方の足を掴んで、そのまま思い切り地面に叩きつけた。
怪人は地面をバウンドし、動かなくなった。
しかし、大村は警戒を解かない。
「まだ生きているはずです」
大村が接近しようとする隊員たちにそう注意を促すと、その言葉通り怪人が立ち上がった。
怪人は大村に背を向けると、翼を広げて大きく飛翔し天井を破壊した。
「待て!」
大村が大きく跳んで捕まえようとしたが、怪人はさらに上へ飛んで雨の中で笑みを浮かべた。
「私は諦めないぞ、アルファ。近いうちにまた会うことになるだろう。その時はもっと、お前に絶望を与えてやる」
そう言い残すと怪人は空高く舞い上がり、やがて見えなくなってしまった。
「逃げられてしまったか……」
大村はそう言って肩を落とすと、周りにいた報道関係者に視線を向けた。
みな、今見たものが信じられないという顔でその場にぺたりと座り込んでいた。
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