第11話 声
石ノ森病院。ここで大村は集中治療室内にて治療を受けていたが、なかなか思うようにいかず、虫の息だった。
「大村くん……」
ベッドの横の椅子に座った蒲池がそう言いながら俯いている。
「あなた、ヒーローなんでしょ? こんな簡単に死なないわよね?」
彼女は今にも泣きだしそうな表情で、目を覚まさずにいる彼にそう語りかけた。
大村の意識は絵の具を水に浮かべたような色合いの生と死の狭間の空間を漂っていた。
「大村……」
誰かがそう声をかける。
(誰だ……?)
大村はぼんやりとそう疑問に思った。
「目を開けろ、大村。私は君の中に眠る怪人細胞の持つ意思だ」
大村はそれを聞いてゆっくりと目を開けた。
「俺は死ぬのか?」
大村がそう問いかけると、怪人細胞は残念そうに答えた。
「今のままでは、な。だが助かる方法が一つだけある」
「それはなんだ?」
「それは、完全に怪人化することだ」
「そんなことをしたら、暴走してしまうんじゃないのか?」
「大丈夫だ。私の力を引き出し切る限界直前で止めることができれば、君は自我を保ったまま、理性的に怪人化できる。ただし……お前はもう二度と怪人の姿から戻れなくなる」
「なら、頼む。俺を助けてくれ」
「いいのか? お前はもう普通の生活を二度と送れなくなるのだぞ? それでもいいのか」
その問いかけに、大村は迷わずこう言った。
「ああ、構わない。俺は俺の仲間とみんなを守りたいんだ。それにもう普通の人生は七十七年も楽しんだ。十分だよ」
大村がそう答えると、怪人細胞の力が大村の全身を駆け巡り、肉体を修復させた。
「ではさらばだ、大村英光。君と一つになれたことを、誇りに思う」
一人きりの病室で目を覚ました大村は、自分の姿を見た鏡で見た瞬間、自身が怪人の姿ではないことに気がついた。
「どういうことだ……?」
大村は気がついてはいないが、実は怪人細胞は彼を試していたのである。
彼が人々を助けたいという強い意志を持っていた場合、怪人細胞は自身が死に大村の体から消える代わりに最後に一度だけ大規模な肉体修復を行ったのだ。
つまり、怪人細胞が言っていたこととは真逆に、大村は普通の人間に戻ったのだった。
──その後、色々な検査を経て対特殊生物対策隊の一般隊員として総合指揮部隊に改めて入隊した大村は、今日も怪人を捕獲、駆除するために仲間たちと団結し戦うのだった。
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