フレイム・クエスト
六野 璃雨
序章
ラタシリア帝国は約2500年の歴史がある国だ。2500年の歴史の中で領土を奪って奪われてを繰り返していたが、129代目皇帝が隠居し、現在130代目皇帝・カーマインの時代になってからは比較的落ち着きをみせている。
「……めぼしい者は三人じゃ」
カーマインの呟きに、控えていた軍服を着た三人の若い男女が居住まいを正した。
「まずイリシア・ウィンドミル。彼女は中等部でも首席で居続けた優秀な子じゃ。魔法属性は風。その腕前は確かなものだと言われておる。次にスティンガー。彼は大地魔法の使い手で大剣を扱う。……些か問題児なのが玉に瑕らしいがな」
カーマインがそう言うと、三人の男女はへえ、と顔を見合わせた。
「中等部とはいえ、首席で居続けるとはな」
「それに大地魔法が使えることすら珍しいのに、大剣まで扱えるなんて、希少種ね」
「ああ、これは期待できるな」
それを聞いたカーマインはゴホンと咳払いを一つして話を続けた。
「最後はルーン・フレイム。強魔法である炎を使う。こちらは魔法を使うことに関して優秀とは言えないが……両親がアマラントの勧誘を受けたことがあるという情報を得ている」
「アマラントの……!?」
アマラントとは近年ラタシリア帝国内で力をつけてきている組織のことだ。皇帝陣営とは敵対関係にある。
「では…」
「わしにも詳しいことは分かっておらん。しかし、アマラントについて何か知っているかもしれん。シンくんとティクスちゃんはこのまま変わりなく任務を全うしてくれ」
「「仰せの通りに」」
アメジスト色の髪をした大柄な男と紺色の髪をルーズサイドテールにした女が、右手の指三本を左胸に当てる敬礼をした。
それを見たカーマインは次に赤髪で黒縁メガネをした男に声をかけた。
「そしてティニーくん」
「はい」
「くれぐれもよろしく頼むぞ。アマラントに先を越されてはならん」
「もちろんです」
「ティニーくん」
「……なんですか?」
再びカーマインが名を呼んできたため、ティニーはきょとんとカーマインを見返した。
「実は彼ら三人とも中等部を退学してるんだよねぇ……」
「えっ」
さっき、イリシアは中等部の首席で居続けたと言わなかっただろうか。
「うん、三年生の一月に自主退学するまではね」
「じ、自主退学……」
「安心して、男の子二人は学校側から退学を勧められただけだから!」
「それのどこに安心できる要素があるんですか!?自主退学よりも問題ですよそれは!!」
「ぶっっは、明らかに問題児たちじゃねーか!」
「応援してるわ、ティニー」
シンは笑いを堪えきれずに吹き出し、ティクスは我関せずといった体でティニーに声をかける。
「いつものことだが、君たちの武運を祈っておるぞ」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、皇帝。ティニーはそんなヘマしませんって」
「どちらかというと油断しがちなお前が心配なんだぞシン」
「まあまあ。でも、カーマイン皇帝。シンの言う通りですよ。シンは意外と頭が切れるし、ティニーは言わずもがな堅物ですから」
「ティクス、お前それ俺たちを褒めているのか?」
ふふ、と笑うティクスを見やるが、天然なのか本気なのか微妙だ。
「では、ラタシリア帝国に栄光を」
「「「はっ」」」
時は25XX年──。
とある大きな屋敷の豪華な門の前に、二人の少年が立っていた。
「なあスティンガー、おれたちだけ何かの罰ゲームみたいじゃないか?」
「奇遇だなルーン。オレもそう思っていたところだ」
二人が空を見上げれば、当初頭の上にあったはずの太陽はずいぶん西へ傾き、オレンジ色の灯を伴って遠くの山の向こうへと姿を隠そうとしていた。
「久しぶりのクエストがお金持ちの家の警備とかつまんねえな」
平均身長を上回る茶髪の少年──スティンガーは、自身の背ほどもある大きな剣を背負ったまま、飽きてしまった子供のようにため息をつき、ガシャリと格子状の門に背中を預けた。
「別にいいじゃねーか。こうやって立ってるだけで報酬がもらえるんならさ。最初から罰ゲームだったと思えばこうやって三時間も立ち続けるのなんか……」
自分でそう言ったものの、やはり納得できなかったのか、夕焼け色の髪をもつ少年──ルーンは、こちらも拗ねたように地面に転がる小石を爪先で蹴り飛ばした。
「にしてもスティンガー。もっと高額なクエストなかったのか?魔物退治とか、薬草採取とか…!」
「これが一番高額だったんだよ!オレだって魔物退治とかの方が良かったけど、この辺は田舎だし魔物とはうまく共存できてるってよ」
ルーンはスティンガーの返答に頭を抱えた。彼らは現在金欠である。貧乏である。そのためクエストを選り好みしている場合ではないのだが、そもそもクエストが見つからないのだ。
「なんだよ平和すぎかよ。おれたちに仕事をよこせー」
「自警団も仕事しすぎだ、ちょっとはサボれー」
この町の住人に聞かれたら怒られるであろうことを言い合う二人であったが、二人のそんな声は背後からの衝撃でかき消された。
「ちょっと、なんてこと言ってるのよ」
「「へぶっ!!」」
黒い格子状の門が背後から開け放たれ、ルーンとスティンガーは頭から地面にダイブした。
「いってぇ…。お前こそなんてことするんだよイリシア」
若草を思わせる、美しく長い髪をポニーテールにしたルーンたちとそう変わらない身長を持つ少女──イリシアを、ルーンは非難げに見た。
「あなたたちがずいぶん楽しそうだったものだから、つい」
「ついじゃねーよ!楽しいわけあるか!!魔物は出ねーし不審者も出ねーし、くそ暇だったわ!!」
「平和で良かったじゃない」
「「良くない!!仕事もっと欲しい!!」」
「あら、じゃあ私と代わった方が良かった?貴族のおじ様の興味もない自慢話を三時間も聞かされてきたところだったんだけど」
金欠だからとにかく金を稼ぎたいルーンと、どちらかと言えば好戦的なスティンガーはイリシアに反論したものの、『貴族のおじ様の自慢話を三時間』という苦行を前にあっけなく黙り込んだ。
「これ、報酬ね」
イリシアは真っ白な封筒からもらったばかりの15,000
「一人5,000Rか…。安すぎる…」
「これ絶対オレとルーンで行った方が金になったぞ」
「仕方ないじゃない。私だってカフェが儲かってるわけじゃないのよ」
「おれたち貧乏人は少しでも稼ぎたいんですぅ」
「生活がかかってるんですぅ」
幼なじみ同士であるという二人がぐちぐちと言い始めたため、イリシアは呆れたようにため息をついた。
「分かった分かった。ほら、さっさと帰るわよ」
これは、とある三人の魔道士たちの物語である。
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