第28話 まずは小手調べ


バアル・ゼブルと、その部下であるフォルサイト、そしてレクス・マリスと戦う事となったタケミたち。


彼らは各々の相手と場所を移していた。


ユイの目の前で、海を統べるものレクス・マリスは、お菓子を頬張っている。


「お菓子うまーい!」


「喜んでもらえたようで良かった〜。そうだ!こういうのは好きかな?」

ユイは様々なお菓子を次から次へと出してきた。


「おおー!お菓子がどんどん出てくる!幸せだ〜~って違う!!」

お菓子を抱えながらマリスが怒鳴る。


「どうしたの?嫌なものでもあった?」

「そうじゃない!貴様!なあなあにして戦いを流す気だろ!!」

マリスはユイの真意に気付いたようだ。

それまでにかなりの量の砂糖を摂取する事になったが。


「あ、バレた?凄いね、正解したから飴あげる」

「ムッ!ガリガリ、この飴食べと終わったらマジで戦うからな」

鞄から渦巻き状に巻かれた虹色の飴を取り出しマリスに渡す。


「えー、どうしても戦わないとだめ?」

「何いってんだ、当たり前だ!」


飴を頬張りながらマリスはそう言う、水を魔法で手を洗いながら。


「なんかあなたからは敵意が感じられないというか……」


「関係ないね、そんなのっ!」

マリスは突然彼女の背後から水の弾丸を打ち出す。


「いきなり!?」

咄嗟にその攻撃を避けるユイ。


(こいつさっきから私の魔法を避けやがる。魔法を放つ直前まで感知できないように魔力を抑えてるのに)


杖を構えるユイの顔は先ほどとは変わって真剣なものになっていた。

「じゃあやるしかないね。逃げ回れるような相手じゃないし」

「なんだ、そんな顔も出来るじゃねぇかよ」


ニヤリと笑ってマリスも杖を構える。

二人の魔力に反応してか大地が震え始めた。




一方その頃、先見のフォルサイトと死神ネラ。


二人は焼けた森林で戦っていた。


「ハァ、クソっ!らちが明かねえな」

「ふふふん、中々楽しいですね、読み合いしながらの闘いも」

互いの鎌と棍棒がぶつかる音が周囲に響く。


「読み合い?なんのことだ?」

「ふふふ、誤魔化すのがお下手ですね」

攻撃が衝突しお互いを弾き飛ばす。


「あなたも見えているのでしょう、未来が」

「……はっ、なーに言ってんだ、お先真っ暗だよ」

笑って返すネラ。


「ふふふ、相談くらいなら乗れますよ」

「だから余計なお世話だっつーの!」

ネラは斬りかかったがそれを棍棒で防ぐフォルサイト。


(よし、反対からッ!)

防がれた瞬間に反対側からもう一振りの鎌で斬りかかる。


「私が棍棒を使うのは防ぐ為ではありませんよ」

フォルサイトは片腕で鎌の一撃を弾いた。


「テメェの身体そのものが棍棒かよ。硬すぎだろ」


(魔力で強化してる分タケミよりも硬え。大領主くらいまでは取っておくつもりだったが、やむを得ないな)


ネラの足元から黒紫のエネルギーが噴き上がる。


「おお!本気になってくれるのですね」

嬉しそうに笑みを浮かべるフォルサイト。




その頃タケミと大領主バアルは街から少しばかり離れた所で戦っていた。


「ふぅむ、本当に頑丈だな」

銃口から煙が上がっている、先程から絶え間なく発砲したようだ。


「はぁ、はあ、ちくしょー本当に速いなッ!」

「銃弾をあれほど食らってまだ倒れんか」


タケミは息を整えながら、相手が持つ銃に目を向ける。

「その銃は魔法を撃てんのか。爆発したり、凍ったり、電気になって拡散したり。効果も軌道もころころ変わるから避けづらいな」


「興味深いだろ?この銃は私の趣味だ、名をカラム。どうだね、この全体に施された装飾は?私はこれがとても愛おしいのだ」


バアルは銃の全体がよく見えるようにゆっくり回して見せる。


「装飾?ああ、確かにすげぇ凝った感じだな。武器として使いづらくないのかよ?」


「鋭い意見だ。実際使いづらさはあるな。持ち手自体は非常に手に馴染むのだが、それ以外は正直言って無駄で機能性を損なっている」 


銃を撫でながらバアルは答えた。


「銃とは無駄を省いた武器だ、如何に正確に対象を撃ち抜くか、効果的に損傷させるか、その答えを模索し無駄を省いたものだ。しかしこの銃はその歴史を否定するような作りをしている」


「使いづらいのになんで使ってんだ?それねぇと魔法使えねぇの?」


タケミの質問をきいて小さく笑うバアル。


「ふっ、冗談を。道具に頼らずとも魔法は使える。寧ろ我程の実力もあるとこの銃を使ったほうが魔法は弱くなるのだ」


そう言って銃をみてうっとりしている。


「ああ、しかし、これを作った者はきっと様々な葛藤があっただろう。銃として【無駄を削ぎ落とした機能美】と【装飾という無駄】、このせめぎ合いが感動的なのだ。だから私はこの銃をどうにか使いたいのだよ。その思考を重ねた結果がこれだ」


「まあ、銃とか芸術に詳しくねぇけど、そういうもんなのか。あれ、つーかそれって手加減だよな?魔法をわざと弱めてるんだろ?」


タケミがそういうとバアルはなるほどと顎に手を当てる。


「ふん、そう言えるかもしれん。だがこう言い換えたらどうだ?こだわりと」

「こだわり?」


「貴様が武器を持たずにその両拳だけで戦うのと同じではないか。死神の鎌を一本借りれば良いだろうに、あれならば貴様の腕力にも耐えられるだろう」


そう言われると納得するタケミ。


「確かに、おれのもこだわりか」

「武器が無理でも身体を守る頑丈な鎧ぐらい買えばよいだろう。貴様は他の者のように魔力で身体を守れる訳でもないのだから」


「ああ、全くできない!なんかユイが言ってたけどおれめっちゃ魔力すくないらしいからな」

タケミは胸を張ってそう言った。


「威張って言うな。確かに貴様の魔力量、一体どうなっているんだ?そこらの小動物レベルだぞ、とても人間量とは思えん。衰弱した一般人といい勝負だ」


「そうなのか。まあ、今ん所は困ってねえけど」

「ふむ、魔力量を犠牲にしてその肉体の機能を作ったのか?だとしてなんと勿体ない事か」


小さくため息をつくバアル。


「?」

バアルの発言に首を傾げるタケミ。



「気にするな、じきに分かる。さて、そろそろ再開するか随分と話すぎた」

「お陰でしっかり休めたぜ」

タケミの身体は赤く変色し、体から白い蒸気が上がり始める。


「行くぜ!!」

赤鬼になって突撃するタケミ。


バアルは発砲するがタケミはその弾丸を避けながら突き進む。


「オラッッ!!!」

相手を間合いに捉えたタケミはようやくその拳を叩き込む事に成功する。


「ッ!!」

勢いよく飛ばされるバアル。


空中で身をひるがえして着地する。



「ほぉ、興味深い、なんだその状態は」


「赤鬼だ!これでお前に追いついてやる!」

構えるタケミを興味深そうに観察するバアル。


「ふん、追いついてやるか、やってみろ」

バアルが後方に跳び下がり、銃を発砲。


「逃がすかッ!!」

踏み込んで近距離を保つタケミ。


「随分と速く動けるようになったではないか」


素早く飛び回るバアルにタケミはしっかりと追いついて来ている。

しかしバアルはそれでも冷静にタケミの動きをみていた。


時折タケミの攻撃がバアルを捉える。


「防いでもかなり飛ばされてしまうな。腕力は本物だな」


「まだまだ行くぜ!!」


タケミが突撃しようとしたがバアルの周囲に突如吹きすさぶ突風で突き返されてしまう。


「うお!!?」


「そのドーピングには欠点があまりにも多い」

バアルは一瞬でタケミの背後にまわる。


「え?風?」


次の瞬間タケミの全身から血が勢いよく噴き出る。


「ガハッ……!?なんだこれ?」

タケミは辛うじて倒れずに立っている、しかし全身に現れた無数の切り傷から血が噴き出ている。


「魔力を扱えないという事がどれほどデメリットなのか。その身で学べ」


バアルの周囲には可視化出来る程の強烈な魔力がうねりをあげていた。


空が暗くなり雷雨が降り注ぐ。


「魔力……解放」

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