第27話 見合って見合ってバトルスタート


戦いによって荒らされた街に到着したタケミ。


そんな彼らの前に姿を表したのは大本命、この領地を治める魔神軍大領主であるバアル・ゼブルだ。


「タケミ!そいつが大領主バアル・ゼブルだ!」

「だろうなッ!!!」


勢いよく殴りかかるタケミ。

しかし、弾き返されてしまう。


そのまま建物に追突するタケミ。


「出会い頭に殴りかかってくるとは。まあ、礼儀には欠いているが正しい行動だ」

バアル・ゼブルの手には銃があった。


恐らくこれで撃たれたのだろう。


「がぁ!撃たれたのか?いつの間に銃出したんだ?全然見えなかったぞ。早えな」


「良かった、今ので死なれたのでは拍子抜けも良い所だからな」

壊れた建物の中からタケミが飛び出してきた。


「さて、では改めて自己紹介を。我が名はバアル・ゼブル!魔神王様にこの領土を統治する任を与えられし大領主が一人!」


「自己紹介どうも!」

タケミは再び殴りかかる。


バアル・ゼブルは飛び下がり宙に浮く。


「おや、3人で来ると思っていたが。ふむ、悪いが貴様らしばし待て。部下をもう一人呼ぶのでな」


「あー!いえいえ!私は戦わないので!この大勝負を観にきただけですので!どうかお構いなく!」

ウェルズが手を振って自身は戦わない事をアピールした。


「ほう、ならば好きにするが良い。だが巻き込まれても責任はとらんぞ」


「流石!大領主様の中で唯一最初期からその任を遂行され続けているお方!懐の深さは底なしでございますね!!」


そう言われて髪の毛をかき上げるバアル・ゼブル。


「まあそう褒めるな、事実だがな。これは駄賃だ、吟遊詩人のように我らの勇姿を後世の民草に語り継ぐが良い」


「あららー!こんなに頂いてしまって宜しいのですか?!では一瞬も見逃すことは出来ませんねぇ!」


ウェルズは一礼して下がる。


「おーい、そろそろ良いか?」


「そうだったな。待たせてしまったすまんな」

準備運動を終えて構えているタケミにバアル・ゼブルが顔を向けてそう言った。


「ネラ、こいつはおれに任せろ」

「何いってんだ!流石に今回ばかりはそうはさせねぇぞ、タケミッ!」


ネラが鎌を握り、バアル・ゼブルに急接近。


しかしその攻撃を止められてしまう。

「ぐっ!?」

「どうもお久しぶりです、ネラ様」

突如現れたフォルサイトがネラの攻撃を受け止めた。


「くそっ!テメェらもいるのか!」

「ふふふ、ご存知でしたでしょ?白々しい態度を取らないでくださいませ」


鎌の攻撃を両手で掴み捕えた状態で話すフォルサイト。


「フォルサイトは死神か」


「ええ、先に決めていた通り【襲いかかって来た相手と戦う】ルール適用ですね。良かった、皆さんが一斉にゼブル様に襲いかかってたら、待ちぼうけくらう所でした」


バアル・ゼブルとフォルサイトのやり取りを聞いたネラは苛立ちをみせた。


「いいえ、本気ですよ!」

「遊びのつもりか!!」

ネラが口を開くよりも先にフォルサイトが答える。


「おっと失礼。先に答えてしまいました。さあ、思いっきり暴れられる場所に行きましょうか!」

「なにいって……っ!!バカ!一旦離せ!」


鎌を摑んだまま一踏み、突風と瓦礫が舞う。


二人は建物を吹き飛ばしながらどこかへ行ってしまった。



「はぁ、これは1から再建だな。後で必要な資材などを見積もって貰わねばな」

額に手を当てて眉間に皺を寄せるバアル・ゼブル。


「マリス!」

バアル・ゼブルの呼び声の直後、ユイに何かが飛来。


「うわっ!」

咄嗟にそれを避けるユイ。

地面が衝撃で抉れている。周囲が濡れている所を見るに水の玉が高速で撃たれたのだ、とユイは気付く。


ユイは見上げる、屋根上に何者かが立っていた。

三叉の槍を携えた蒼い鱗が煌く身体の魔法使い、マリスだ。


「なるほど、残った私達で戦うぞって事ですか」


「ユイ!そっちは頼んだぞ、コイツは任せろ」

「分かったよ、無理しないでね!」


タケミは頷く。

「ああ、やるだけやってみる」


その言葉を聞いたユイは宙に浮かび、マリスと同じ高さまで上がった。


「それじゃあ私達も行きましょうか」

マリスは飛んでその場を離れていく。


「ああちょっと!何か言ってから飛んでよ!」


ユイもその後についていく。



フォルサイトとネラは街からかなり離れた場所まで来ていた。

遠くに辛うじて街が見える。


「さぁて、ここなら大丈夫でしょう!」

「こんなところまで連れてきやがって」

ネラが体についた土埃を払う。


「改めまして死神様、私フォルサイトと申します。大領主バアル・ゼブル様の直属部隊、その第一部隊隊長を現在は務めています。今日こうやって対峙できる事を嬉しく思っております!」


そう言って嬉しそうに笑うフォルサイト。


「ふふふ!さあ貴方は何を求めますか?」

「お前を殺して、大領主を殺す。そして魔神王も私が殺してやる」


ネラが鎌を握り直し、構える。


「それと女神たちもですよね?ふふふ、随分とやることが多いのですねぇ。どおりでそんなに焦っているわけだ」

「……」


睨みつけるネラ。


「でも焦りは視界を狭めます、より良い選択肢を見失なっちゃいますよ」


「余計な、お世話だッ!!」

ネラが両手に持った鎌で切りかかる。



同時刻、ユイとマリスもまた街から遠く離れた場所に来ていた。

岩山に囲われ、もう街は見えないような所だ。


「ふう、だいぶ遠くまで飛んできたね」


(この人平然と飛んでたし、さっきの魔法と良い、絶対強い……!)

話ながらも相手に注意を向けるユイ。


「やるな、人間」


「え?えへへーどうも。あ、そう言えばあなたは?初めましてですよね?」

照れるユイ。


「なッ!?この前あっただろ!」


「……?」

まだピンと来ていないユイに対してマリスはフードを深くかぶった。


「あああ!この間の!確かに魔力も一緒だ!あの時は遠目でしか見れなかったから、その人の妹さんか娘さんかと思った!えらいねぇ~まだ子どもなのに」


ユイの言葉に青筋たてるマリス。


「んなッ!?こ、子どもだとぉ!?このマリス様に向かってなんて口の聞き方を!!人間風情が!」


「マリスっていうのね」

ユイはマリスに視線を合わせる為に前かがみになった状態で話す。


「この前街で会った時に自己紹介しただろ!!レクス・マリス!!」

「え、そうなの?ごめんなさい、全然聞こえてなくて」


くーっとマリスは唸る。


「むうぅ、私を甘く見ているな!私はフォルサイトよりも年上なんだぞ!!つまり貴様なんかよりもずっとずーっと年上なんだ!」


「ふーん、そうなんだ!すごいねー!」

子どもっぽい言い草に思わず微笑んでしまうユイ。


「つーかやめろ!その目線を合わせるように屈むやつ!せめて跪け!でっかい胸を強調すんな!このっ、ムカつく!」


マリスはユイの胸を横からはたく。


「いたッ!ちょっ、ご、ごめんなさい!あ、そうだお菓子あるよ?食べる?」


ユイは鞄からお菓子を取り出した。


「ん!?お菓子は好きだぞ!そこまで言うなら貰ってやろー!」

お菓子を貰い嬉しそうにするマリス。


(うーん、やっぱり子どもっぽい)



その頃タケミとバアル・ゼブル。


「思いの外、嬉しそうではないか」


「そりゃあ、あのソウトゥースやフォルサイトの親玉とこれから闘えるんだからな。まさかアンタがそうだとは思わなかったが」


構えるタケミ、その顔は隠しきれない笑みで満ちていた。


「ふん、なるほどあいつらが気に入る訳だ」


バアル・ゼブルは銃を構える。


「挑ませて貰うぜ!」

「いいだろう」



「さぁ!皆様お待たせいたしました!!いよいよ始まります!!大領主バアル・ゼブル率いる先見のフォルサイト、海帝レクス・マリス!」

丘の上でウェルズが声を上げる。


「彼らに挑むは死神ネラ率いる勇ましすぎる少年カヅチ・タケミ、紅蓮の魔法使いイトウ・ユイ!」


「それでは!開始ですッ!!!」

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