第10話 商人のじいちゃんと旅支度
初めての街でタケミが行った最初の事は地下闘技場のトーナメントだった。
ネラと共に出場し優勝する事で賭け金と優勝賞品を獲得しようというものだ。
「はーい、それじゃあ景品な。それと賭けで勝ったのもだぞ」
ネラは早々に受付へと向かっていた。
「いやー!まさかあのキングとクイーンをやっちまうなんてな!そら、これが我らが新しい王と王女の取り分だ!!」
受付の男は気分良さそうに大きな袋をいくつも持ち出してネラ達の前に並べる。
ネラがその袋の一つを受け取って中身を取り出す。
それは綺麗な石だった。綺麗と言っても宝石のように研磨されたりしているものではなく、その原石と言った方が近いだろう。
「うひょーッ!ザックザクだ!これがあったら次の街どころか当分贅沢できるな!」
嬉しそうにその石を眺めるネラ。
「それが金なのか?綺麗な石ころにしか見えねぇけど」
となりからその石を見るタケミ。
「これは魔石、この世界に造幣技術ないからね、色んな動力源になるこの魔石が主な通貨。これの質や量で物を交換する、まあ物々交換とそこまで変わらないかな」
後ろから石を取り出してユイはタケミに説明する。
「よし、それじゃあ旅の備品用意するから、行くぞお前ら」
こうしてタケミ達は地下闘技場を後にした。
外に出たネラ達は備品を揃えられる場所に向かっていた。
「備品揃えるって言っても、もう必要なもんは全部揃えて貰ってるんだがな。あとは支払い終わらせるだけだ」
先頭をあるくネラはそう言って魔石の入った袋を揺らす。
「用意が良いね、意外」
「もっと行き当たりばったりな奴かと思った」
「お前らの中で私の評価どうなってるんだ」
話をしていると目的地に到着。
そこは他と同様にボロ小屋で、本当に商売が行われているのか怪しい所だった。
「おーいじーさん、支払いに来たぞ~」
中に入ったネラが呼びかける。
すると奥からカツカツと音を立てて高齢の男が現れた。
「はいよー、ネラか、何やら闘技場ではご活躍だったじゃねぇか」
カツカツと音を鳴らしていたのは杖だ、男は目元から頭までを黒い布で覆っている。
「まぁ、あんくらい楽勝よ」
「ユイと、えっともう一人いるデカいダンナは?」
タケミの方に体を向ける男。
「タケミだ、カヅチ・タケミ。よろしくなじいさん」
「ああ、あんたが。オイラはダイゲン、見ての通りの老いぼれ商人さ。にしても随分と、岩みたいにでけぇ手だ」
ダイゲンは探りながらタケミの手に触れそう言う。
「さて、ネラとユイに頼まれたものはっと。おい!お前たち!」
ダイゲンが杖で地面を数回コンコンと叩く。
すると部屋の奥から淡い光を放つ球体みたいなものが出て来た。
「なんだ?」
「光苔魂、珍しい植物で育ててくれた者を主として認識して付き従うの」
ユイがその光苔魂をちょんちょんとつつく。
「へぇ、つーかユイって色々と詳しいんだな」
光苔魂が奥から物を運んで来る様子をみているタケミ。
「まあ私はずっと本に囲まれたから……タケミは」
「ずっと木々に囲まれてた、だからなんも知らねぇや」
そう言って笑うタケミ。
「そっか。まあ少しずつ慣れれば良いよ」
ユイはそう言って微笑み返した。
(なんだ最初は警戒されたけどやっぱ良い奴なんだな)
「……なに?どうかした?」
「いや、なんでもねぇ。それより何頼んだんだ?」
タケミ達は光苔魂が運んで来た荷物へ目を向ける。
「私は杖、ネラも武器だったよね」
「杖?足悪いのか?」
「違うよ、魔法に使うの」
話しているとダイゲンは光苔魂が持って来た箱を開けて中身を取り出す。
「ほらよ、ネラ、お前さんの鎌は柄の部分を改良しておいたぜ。耐久性とグリップ性上がっている。鎌の部分も手入れはしておいたぜ、まあ要らねぇ手間だろうだがな」
「おお!こりゃいい!手に馴染むな」
ネラはさっそくその折り畳み式の鎌を手に持って展開してみる。
「それとユイの杖だ。注文通り槍として扱えるようにしておいたぜ。使用している魔石はお前さんの魔力量にも適応できる代物だ、こいつは手に入れるのに苦労したぜ」
「ありがとー!」
杖を受け取ったユイ。
杖の長さは彼女の身長程もあり、先端には十字の形をした刃がついており、十字の中心に淡く光る石がはめ込まれていた。
「へぇ、先っぽが十字になってるな」
タケミがユイの杖を見てそう言う。
「私は魔法メインなんだけど近接戦闘に備えてね」
ユイへ自分の武器を見て嬉しそうにしている。
「さて、ダンナだな、ダンナの武器は依頼されてなかったからなぁ」
「まあ元から武器持たねぇから。いいよ」
タケミはそう言って拳を自分の掌に打ち付けた。
「はっはっは、確かにそれ以上の武器は用意できねぇな」
ダイゲンが笑っていると横からネラが入って来た。
「お前は服を用意してもらえ」
「おお、そう言えばそうだった」
改めて自分の服装を見直し、タケミは服を見繕ってもらう事になった。
ダイゲンが店の奥から服を持ってくる。
タケミの巨体にあうサイズとなればそう多くはない。
「とりあえずこれ履いてもらって、これ羽織って貰うしかねぇな」
取り出して来た服を包みから取り出しタケミ渡すダイゲン。
「へぇー裾長い割に動きやすいな。上は普通のシャツだな、生地が軽くて着心地よさそうだな」
下はサラサラとしておりストレッチの効く素材で出来ていた。
そして上のシャツを羽織りボタンをしめるタケミ。
しかし、ボタンをしめ終え、元の姿勢に戻るとボタンが弾けとんでしまった。
胸元があらわになる、因みに弾けたボタンはユイの所まで飛んでいた。
「あ、ボタン弾けちゃった、ごめんなさい」
「はっはっは!気にしなさんな、どうせ服買う奴なんてこの街じゃあいないから。それよりすまねぇな、うちに今あるのじゃあそれが一番デカいサイズなんだ」
そう言ってダイゲンは笑う。確かにこの街で服に金を使う奴は珍しい部類だろう。
「腕周りが動かしやすければ十分だ。ありがとな」
タケミは腕をグルグルまわしながらそう言う、ボタンは弾けたがシャツ自体は彼にあっているようだ。
一通り買うものを揃えた所でネラが魔石の入った袋をダイゲンに渡す。
「よし、じゃあそれで。ほらこれ勘定な」
「あいよ」
「これで全部か?食料どうすんだ?」
大事な食料が用意されたものに含まれてない事に気付いたタケミ。
「え?次の街までそう遠くないから要らねぇだろ?」
「遠くないっても馬使って2日はかかるぞ」
ダイゲンの言葉に反応してタケミとユイが身を乗り出す。
「えー!!二日飯抜きは嫌だぞ!」
「私も!」
二人はネラに向かってブーイングし始める。
「えー、2日くらい我慢できねぇもんなのか?」
そう言うネラにため息をついてダイゲンが口を開く。
「じゃあ食料もあとで送るらせて貰う、少し時間でも潰してまっててくれ」
「わりぃな、お代は?」
ダイゲンは首を横に振る。
「要らねぇよ。今回はたんまり稼がせて貰えたからな、じじぃからの”すぺしゃるさーびす”だ」
「ラッキー、そんじゃあこの魔石でよ!さっきの闘技場で賭けでも……」
おまけして貰えたネラはニヤっとして袋の中を覗き込む。
しかしその袋をユイにとられてしまう。
「絶対ダメ、それよりご飯行こう」
「あれ、ユイさっき食べた無かったか?」
「この街にいるとお腹減るの」
ユイとタケミがそんな話をしながら外に出る。
小屋の前には武器を構えた者達がズラッと並んでいた。
「出待ちか?サインでも書いてやろうか」
ネラが待ち構えていた連中にそう言う。
「その魔石は返して貰うぞ!」
「闘技場からつけて来てたのお前らか、なんで返さねぇと行けねぇんだ」
恐らく先ほど闘技場の経営側の人間なのだろうか。この街にいる者には似つかない鎧や武器を持っている。
「うるせぇっ!!黙れッ!!」
相手がタケミ達に怒鳴る、すると
「黙るのはてめぇらだぜッ!!」
タケミ達の背後から別の声が。
その直後目の前に並んでいた集団の一部が宙に飛んでいた。
身体をバラバラに切断された状態で。
「な、なんで……?!」
突然味方がバラバラになった事に怯える相手。
「情けねえ!情けねえ!負けた癖にグズグズ言いやがってよお!そんな軟弱な勇者がいてたまるかッ!!」
直後、そう叫びながら何者かが上空からその場に飛び降りて来た。
「なんだ……あいつ?」
タケミは構えながらネラにきく。
「へ、さっそくかよ……魔神様のご登場だ」
ネラが汗を一筋垂らしながら答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます