第5話 卒業試験はじまります

実戦訓練が終わり、おれは山頂を目指していた。

恐らくそこでこの山最後の試験が行われる。


山頂に近づくにつれて霧が深くなる。既に5m以上先は霞んでよく見えない。この霧は晴れたところを見たことがない。


ヤバくなった時に何度かこの付近に逃げ込んだことがある。


魔獣たちはどうしてこの場所を異常に嫌っていた。どんな魔獣も霧がみえた途端に足を止める。おれも霧の中に隠れはすれど、魔獣が去ったのを確認したら足早に霧から退散した。


ここまで来たのは初めてだ。霧は一層濃くなりギリギリ手が届く範囲が見えるだけ。足元に見える山頂へと続く開かれた道と定期的に聞こえるあの咆哮を頼りに進んだ。


なぜだろう、こんな深い霧の中なのに常に誰かに見られているような感覚がする。


そしてようやく山頂に到着した。そこだけは何故か霧が薄くなっている。

うっすらと霧の中で目立つものがあった。


それは大きな紫色の石。

自分よりも大きい、無骨ながらもとても綺麗な石だ。


おれは近づいてその石を見ていた、すると。


「ッ?!」


石の中で何かが動いているのに気付く。


急いで飛び退いて構えた。

先程まで全く感じ取れなかったが、あの石から強烈な気配が放たれる。


石の中から咆哮が。


その瞬間まるで全身に刃物を突き立てられたかのような感覚が走った。


「そこにいたのか」

無意識に拳に力が入り、鼓動が高まる。



一瞬たりとも石から目を背けずに構える。

石が揺れる、ヒビが入り、一部が砕けた。


砕けた部分から何かが飛び出てくる。


「シィィィヲオオオオ」

先ほどと違い咆哮が言葉のように聞こえた。


現れたのは今までみた事がない異形な姿をしたモノ。


人間と同様の腕を6本生やし、下半身は蛇、頭は頭蓋となっていた。頭蓋の眼の部分にある穴は真っ暗闇で、眼があるのかすら分からない。


「初めて見るタイプだな」

魔獣なのか?にしては余りにも異形。


山には様々な魔獣がいた、だがどれも自分がいた世界の生物に類似した外見だった。この眼の前にいるものは……一体何だ?


相手はその真暗な頭蓋の穴からこちらを警戒している。眼自体は視認できないが、視線は感じる。


「お前が試験か?だったらそろそろ始めようぜ」


「シヲ、シヲォォォォッ!!!」

突然雄叫びを上げる異形の者。


より強い殺気を感じて跳びさがる。

寸前に立っていた所で重たい風切り音が。


「また刃物かよ」


相手の六本ある手にそれぞれ刀を握っていた。

いつのまに刀を出したのだろうか。


刃こぼれが激しい刀を振り上げる異形な者。


「シヲオォォッ!」

再び雄叫びを上げ、相手は斬りかかってきた。


相手はその六本の刀を自在に操り攻撃してくる。

流れるような剣術、ネラとどことなく似ている、まあ恐らく自分が戦った相手で刃物を使うのは彼女しか今の所しらないだけかもしれないが。



おれは刀の一撃を腕で払いのけ、体勢を崩した相手の胴体に拳を叩き込む。


「よし、アイツの刀防げるな」


多少の傷は付くが、かすり傷程度だ、気にする程でもない。


殴られた相手は何事も無かったように起き上がる。


「体がクネって力が分散したか」


あの蛇のような体は殴る側からしたら良い相手ではない。頭だ、あの頭蓋のような部分なら固く衝撃が逃げないはず。



「よし、じゃあもう一度ッ!」

おれが跳びかかると同時に相手は後方に飛び退いた。


そして木を足場にして横方向へと跳躍。

次から次へと木々や地面を跳び渡る。


戦闘訓練の際にネラが見せたあの動きにそっくりだ。


(でもネラよりも更に疾いッ!)


まずは感覚を研ぎ澄まし、相手の動きを追わないと。


すると、ペキッ!と枝が折れる音が。

「ッ!」

音の方に構える。


カカン!

今度は後ろから木を叩く音。


周囲から不定期でこれらの音がする。

ワザとだ、こちらの判断を鈍らせる為にやっているんだ。


音で判断するのはもうできない、だが目で追うには木々が邪魔だ。


「やりづらいなッ!なら!」


おれは木に目掛け走り出す。

まずは相手の足場である木をなぎ倒す。


だがそれが不味かった。


足の裏に違和感を覚え下がる、何か付着していた。


「なんだこれ?!」

足の裏には深緑のベトベトとした液体が。


その液体に気を取られた瞬間を異形なモノは見逃さなかった。


すぐさまおれの前に現れその六刀を振るって来る。


「ぐっ……!!」

攻撃をかわしきれず、右わき腹を貫かれてしまう。


「ッッぐ!!クソッ!!」

殴り返すがヤツは大きく後ろに跳び下がり回避。


相手の刀は自分には大して効かないと高を括ったツケだ。

まだ本気じゃなかった、相手の剣速は増し、その切れ味も上がっていた。


刺された感覚でなんとなく分かる、まだ致命傷じゃない、ギリギリ内蔵は外れた。

今まで散々怪我をしてきた経験をもとに、おれはそう思った。


「はぁ、はぁ、なに、即死するような怪我じゃねぇ……あれ?!」

しかし、構えた途端視界が大きく揺らいだ、まるで足元の地面が大きく揺れるような感覚。


最初は地震でも起きたのかと思った、だが違った。


なにが自分の身体に起きているのか、それが分かったのは相手の刀を見た時だった。相手の刀から緑の液体が地面に垂れているのが見えた。


猛毒だ。

さっき足についたのもそうだ。

足裏と刺された部分の感覚がなくなっていく。


「とことん戦い辛いやつ……」


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