第4話 訓練終了のお知らせ
戦闘訓練が始まってからというもの半年間隔で死神ネラは現れ、1週間の戦闘訓練を行った。
そろそろ3回目の訓練の時期だ,
この山に来て2年半が経過した。
「タケミ……お、おまえ……」
久しぶりにあったネラは口をあんぐりと開けていた。何かにひどく驚いているようだ。
「どうした?」
おれは彼女のもとに歩いていく。
あれ?ネラってこんなに小さかったか?
おれは見上げるネラの頭よりもさらに頭一個分以上の高さから見下ろしていた。
「いや……育ちすぎだろォ!!!半年前は私より少し高いくらいだっただろ!30cm以上は伸びてるだろ!?何があったんだよ、この半年間で」
「まあ、色々とな。それより早く始めよう」
準備運動を終えて、おれは構えた。
2回目の戦闘訓練から素手で戦うようになっていた。どうせ武器を作ったところであの鎌に簡単にバラバラにされてしまう。
それに素手のが使うたびに鍛えられ強くなる。思えば自分の体は鍛えれば鍛えるほど強くなるんだ、なんでこんな単純な事に気付かなかったのだろう。
「まあ、いいかそれじゃあ行くぞ!」
ネラは切り替えて訓練を始める、人型相手の戦いも要領を掴めてきた。
「デカイのによくそんな軽快に動けるもんだ!」
攻撃を避けるおれを見てネラはそういう。
以来なるべく素手で地面を掘り、木を切り倒すようにした。拳の傷は絶えなかった、だがおかげで……
ガキィンッ!!
「ッ!堅さ増したな!」
ネラの鎌を弾けるくらいにはなった。
(まったく、ここまで素手で徹底するとはな)
「最後の訓練だし、もう少し実戦に近づけるか」
彼女は地面に伏せるくらい低い姿勢を取る。
初めてみる構えだ。
「対応してみろよッ!」
そういって彼女が地面を蹴り距離を詰めてきた。下から来る、そう思って一歩跳び下がり構える。
だが彼女はいなかった。
「こっちだ!」
背後にいたネラの斬撃、咄嗟にそれをガードする。
皮が斬れ血が滲み出す。
「そんだけしか斬れねぇのか」
彼女は嬉しそうに言って再び低姿勢になる。
おれは後方に跳び下がり視野を広げ、相手の動きを全体的に見られるようにした。
素早く動く魔獣たちにもこうやって対処してきた。
今度は見逃さない、最後までしっかり追ってやろう。
そして全身の感覚を研ぎ澄ます。
視覚だけでなく、匂い、周囲の音、空気の微妙な揺れ、相手の意識、感じ取れる全てを総動員させる。
ネラは地面を強く蹴り直進するとすぐさま横方向に跳んだ、木々がある方向だ。
なるほど、彼女は木を足場にして背後に回り込んだのか。凄まじい疾さだ、魔獣たちでもここまでの奴はいなかった。
だが見える、追える、だったら……
「そこだッ!!」
背後に回ってきたネラに向けて拳を放つ。
彼女は瞬時に鎌でガードした。
「攻撃を受け止めるだけで腕が痺れれたぞ!?どんな馬鹿力だ!」
鎌を股に挟んで、手を振りながら彼女は言う。
この隙きを逃さず、おれは拳を構え仕掛ける。隙きを晒した標的に攻撃をしない理由はない。
「待ったなしだよなッ!」
おれの拳が地面をえぐった。ネラは空高く跳び上がっていた。
「ハハハ!その通り!」
彼女は高速回転し、その勢いを持って斬りかかってきた。これ流石に受けるとマズイ。だがチャンスでもある。
おれはネラの腕を掴んだ。
「あ……」
宙ぶらりんになった対象に拳を叩き込む。
「ボベェェェェッ!!」
なんとも拍子抜けな声を上げてネラが吹き飛んでいく。
木々をなぎ倒して飛んでいった先でネラ飛び起きる。おれはその側まで近づいて次の攻撃の準備をしていた。
「続行か?」
おれは構えながら聞いた。
「いや、訓練は終わりだ。痛ってぇ、顔取れたかと思ったぞ。おい、本当に訓練終わりだって、拳下ろせ」
殴られた右頬を抑えながらネラは答える。
「エッホン!さて、よくここまで生き抜いたな。カヅチ・タケミよ」
一度咳払いをしてネラは話し始めた。
「今日を持って訓練は全て終了だ」
「え?まだ一日目じゃあ」
ネラは頭をポリポリかく。
「戦闘訓練だけじゃない、全体ひっくるめての話だ。予定では3年って話だったが、すまん」
「おれはこの山から出ていくのか?」
そう言われた彼女は首を振る。
「いや、まだだ。この山からの卒業試験がある」
卒業試験、初耳だ。
「今までの全てを持ってこれを突破しろ。いいか、一瞬も気を抜くなよ」
彼女がいつになく真剣な顔をする。
戦闘中とはまた違う雰囲気だ。
「色々と言いたい事はあるだろうが、無事生き抜いたらそんとき聞いてやるよ」
「試験は……いや、始まれば分かるか。なんでもない」
「それじゃあな。死ぬなよ」
いつものように彼女は黒紫の煙と共に消えた。
卒業試験の事を伝えネラはいつも通り去った。
しばらくして日が沈む。
おれは横になっていた。
試験とやらに備えて身体を休ませる。
顔を湿った柔らかい物が撫でる。目を覚ますと魔獣達が自分の顔をなめていた。
起こしてくれたのだ。
いつからだろうか、夜通しで魔獣達と戦っている間に彼らは自分を慕うようになっていた。
群れの中で最も大きい魔獣がおれの顔をなめ回す。
「わかった!わかったから!起きたって」
起き上がって魔獣を撫でる。
食料の魚を取りに行く。山にある一番大きな川、これがあったから生き延びることができたようなものだ。
その道中突然、どこからか咆哮が響く。
全身の毛が逆立つ感覚が走る。
魔獣達が吠える、彼らはみな山頂に向けて威嚇している。だが彼らの体が微小ながら震えているのに気付いた。
恐れている、この咆哮の主に。だがそれでも威嚇してくれているんだ、おれの為に。その証拠に彼らはおれを庇うように囲んでいた。
「試験か、これで間違えないだろうな」
威嚇する魔獣たちをなだめて、おれは山頂をめざす。
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