No.3 この転校生は少し変わってる
「どどどど、どうしましょ!鬼丸君が!ハッ!もしかして誘拐!?」
「落ち着けイエナガ。どうせ何かに興味を引かれ外に行ったんだろう。そんな動揺しなくても……」
「とにかく探しています!もし見つからなかったら警察に連絡するので!」
フドウが話を終える前にイエナガはその場を飛び出していた。
「だから落ち着けと。全く」
一方、カラ・ジーナがいる教室では先生が学校に男子生徒が来ることを改めて説明していた。
「先日お伝えした通り、我が校に男子生徒が入学されます。これは大変名誉あることです!」
「男子って、あの拘束された奴のことでしょ?どう考えても普通じゃないよね」
ジーナは隣に座っているハナに小声で話す。
「でもほら、男性ってすっごくレアじゃん?あれくらい保護は当たり前なんじゃない。こけて怪我でもしたら大変でしょ」
ハナはジーナと同様に小声で答えた。
(レアって、そうなんだろうけど……)
ジーナがそのような事を考えているとイエナガが教室に現れ、担任の先生に耳打ちをした。
「ッ!!」
顔が青ざめた先生はイエナガについて教室を出る。
「あれ?先生たちどうしたんだろ?」
「さあねー。自販機で飲み物買ってくる」
ジーナは先生たちが教室を離れたのを確認し教室を出た。
「飲み物持ってくるの忘れちゃった。何飲もっかなー。ん?」
自販機に向かって歩いていると外に何やら人影が。
「おーい何してんの……て男子じゃん。なるほど先生たちが血相変えて教室を出た理由はこれか」
花壇の前にユキチカがいた。隣にウルルも立っていた。彼らはしゃがんで何かを観察しているようだ。
「何みてんの?」
ジーナが彼のもとに行き、視線を彼と同じ方向に向ける。
オレンジの綺麗な蝶だ。
「ベニシジミですね」
無機質に名称を伝えるウルル。
「そうだね、ちょっと変わってるけど」
ユキチカは蝶をみながら立ち上がる。
(男子ってなんか不思議、この人が特別なのかも知れないけど)
ユキチカをみてそんな事を考えるジーナ。
「のどかわいた!」
「ちょうど私も自販機行くところだから。一緒にいこうか?」
「いこー」
ジーナについて自販機へと向かうユキチカ。
「私ジーナ、カラ・ジーナ。男子ってデカイんだねー。何かやってるの?スポーツとか」
ジーナも女子では背が高い方だがユキチカは更に高い、その上体格もある。
「ユキチカ、鬼丸ユキチカ!おばあちゃんはもっと大きいよ!みんなと遊ぶのが好き」
「へー!凄いね、うちのばあちゃんは小さいよ」
二人と一体は自販機で飲み物を買い、教室へ。
「カラさん!鬼丸君を見つけてくれたのですね!ありがとうございます!」
「いや、たまたま会っただけなんで」
先生たちがカラ・ジーナに感謝する。
「さ、鬼丸くん更衣室でこれに着替えてくださいね。あなたの制服です」
ユキチカとウルルは更衣室に入り着替えを済ませ、教室へ入る。
生徒達は初めて見る【男子】という生き物に興味津々だった。
「ユキチカ、鬼丸ユキチカ!鬼丸はおとうさんと同じです。よろしくおねがいします」
ユキチカが深々と頭を下げた。
「鬼丸くんはまだシティに越してきたばかりです。分からない事もあるでしょう、そのときは快く助け合って行きましょう!」
先生も声が若干上ずっており緊張しているのが伺える。
「それでは質問がある方挙手してください」
みんなが一斉に手を上げる。
「朝はお騒がせしました」
「君は、もう少し落ち着いて行動する事を覚えた方が良いな」
学園長室でイエナガがフドウに諭される。
「すみません、次からは行動の前に深呼吸でもしてみます」
さっそく深呼吸をした彼女はタブレットを操作してフドウにそれを見せる。
「そうだ、フドウ学園長、鬼丸君の編入試験に関して、改めて学園長の意見をお聞きしたいのですが」
そう言って彼女は映像を再生した。
そこにはユキチカが試験問題を説いている様子が映っていた。どこも不自然な部分はない。だが試験開始から10分が経過した辺りで彼は何かを思い出したかのように、動き出す。
「ここで彼、答案内容を書き換えているんです。この時点で彼は全問正解していました。それなのに書き換えて、最終的な正答率は75%どういうことなのでしょう」
「ちょっと借りていいか?」
フドウはイエナガからタブレットを借りて何かを探し始めた。
「もしかしたら……ああ、やっぱりな」
何かに気付いたようだ。
「平均的にしようとしたな。みてみろ」
彼女が画面をイエナガにみせる。
そこには他学生の答案とその正答率が並んでいた。まだ要領が得ない様子のイエナガは首を傾げる。するとフドウは回答の一部を拡大する。
「鬼丸ユキチカは他生徒の多くが間違えたところを間違え、正答率も他生徒の平均値に限りなく近づけたんだ。みろ、問題の所に小さく数字書いてるだろ、これ全部正答率だ」
ユキチカが間違えたところはいずれも全体で見たときに正答率が低いものだった。そしてその間違えた彼の回答内容も、他の生徒にもっとも多くみられた間違え方そして答えになっていた。
「カンニングですか?!でないとこんな事……」
「彼が持つ特権を使えばどんな学校だってフリーパスだってのに、そんなセコい真似するか」
「た、確かにそうですね」
フドウがそういうとイエナガはそれもそうかと納得する。
「さ、そろそろ最後の授業が終わる時間だ、正門まで行くかね」
建物から外に出たフドウ達、すると何やら上が騒がしいことに気づく。
「なんだやけに騒がしいな」
「あー鬼丸くんの教室ですね、きっと共に下校しよう的な話で生徒が押し寄せてるんじゃないですか?……え?」
イエナガが教室の方向に目を向ける、そして表情が固まった。
彼女の視線の先には窓から身を乗り出すユキチカの姿が。
「い、いやァァァ!!」
イエナガが叫ぶ。
時間は少し巻き戻り下校のチャイムがなった頃。イエナガが話す通り生徒が他教室からも押寄せてきてユキチカと帰ろうとしていた。
「すごい人気だねー」
「そりゃそうだよ、ジーナちゃんはいいの?」
ハナにそう言われるがジーナはカバンを肩にかける。
「ああ、いいよいいよ。それじゃあお先にー」
そう行って立ち上がるジーナ、この時ふとユキチカの方に目を向けた。
その時彼が窓に向かって行くのが見えた。ジーナは非常に嫌な予感が覚えた。
ユキチカが窓に足をかける。
「バカ!なにしてんだ!」
ジーナは気付いたら他生徒の合間を縫ってユキチカを捕まえようとしていた。
「さよーならー!」
ユキチカは窓から飛び出す。
「な……!」
教室にいた者達、そして外で観ていたフドウ学園長とイエナガから血の気が一気に引いていく。
「ぴょーん、ちゃくち!」
彼は硬直していたフドウ学園長とイエナガの隣に着地した。
「みんなもほらー!」
振り向いて教室の方に手を降るユキチカ。
「できるか!」
窓の所からジーナが思わずツッコむ。
「鬼丸ユキチカ様ー、私の構造的にこの高さからの落下には大きな損傷を伴う可能性があります。階段を使用しますので、正門の所でお待ちくださいませー」
ジーナの隣から淡々とウルルがそう伝える。
「わかったー!。あ!がくえんちょう先生にイエナガさん!さようならー!」
「学園長、ひょっとして男性ってみんな……」
「イエナガ、もしそうなら男性はもう人ではない」
手を振るユキチカに手を振り返すイエナガとフドウ。転校生はどうやら少し他の人とは違うようだ。
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