アゼリアの匂い③

 ベルロンドは共感できないわけではなかった。九歳の頃に父親を戦争で亡くしてから、サリエルの家族は次々に死んでいった。殉教、戦死、失踪、不審死。いろんな死に方だった。


 そうして一人になったサリエルを、親戚であるベルロンドの家が引き取った。それから長い間、同じ部屋で暮らしてきたが、事あるごとにサリエルの死生観を聞かされるのにはうんざりだった。そしてまた一つ更新された。サリエルの叔父が死んだのだ。三日前。死因は病気だった。


 さっそく葬儀に取り掛かったのだが、みんなが悲しむなか、サリエルだけ無駄死にだと言い張った。葬儀から帰って来た途端、ベルロンドの父親はサリエルを庭に連れ出し叱った。そうしてサリエルが部屋に戻ってきて今に至る。


「ああ、俺は死にたい。死に場所を見つけたい。よく生きるために」


 サリエルがつぶやいている。


「死に様はコンパスなんだよ、人生の。終わり方を決めれば、今を大事に生きられる。だからあの死に方が気に入らないんだ。まるで……」


「無駄死に、か」


 ベルロンドが冷めた声で被せる。でもそんなことよりこの羊毛の掛け布団、なんて心地がいいんだろう……


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