ショートショート『侵略者』

「今日はここまでにするか」


お父さんが言った。


「うん」


僕は額に浮かぶ汗を拭いながら返事をし、荷物を片付け、お父さんと一緒に家路に向かった。


「あの感じだったら来週にはトマトも他の野菜も収穫できそうだね!」


お父さんに向かって僕は言った。


「そうだな、次の収穫が楽しみだ。母さんには腕をふるってもらって、来週は友達も呼んで宴会だな!」


僕は食卓に並ぶ豪華な食事を想像し、お腹がくるると情けない声を上げる。それを聞いたお父さんが言った。


「ははは!お腹の虫も鳴き始めたし急いで帰らないとな!」


お父さんは僕を抱きかかえ、背中に乗せ走りだした。


僕はもうおんぶされるような年齢ではないので、正直恥ずかしかったが、お父さんの背中から見える普段より少し高い景色とお父さんの大きな背中の温もりを感じて、恥ずかしいことは言わなかった。


この島の暮らしは大変なことも多いが、不満はない。島民はみんな顔見知りだし、島民は誰の子供でも自分の子供のように世話をする、


僕はこの島が好きだった。


決して豊かではないが、貧しくはないこの島を。


「そういえばあの人たちまた来るかな?」


僕はお父さんに聞いた。


実は先日この島に珍しく本土から人が来たのだ。


「どうだろうな?村長は納得して帰ってもらったとは言ってたけど」


本土から来たその人たちは、この島から採れる金が目当てだった。その金を採掘するための必要な人間を本土から呼び、大がかりな採掘作業をさせてほしいということが今回の訪問の目的だったらしい。


本土から来た人たちの代表者は、金を採掘させてもらう事で本土との繋がりもできて、この島にも色々といいことがあると村長に言っていた。


僕は難しいことはよく分からなかったけど、僕たちの生活には金なんか必要ないから、別に良いんじゃないかと思った。


しかし、村長はその人たちの申し出を断り、本土に帰らせた。


「この島は長年、外との関わりを断つことでこの平和な生活を維持してきた。その考えはこれからも変わらない」


という事が村長の考えだった。


そんなに難しく考えなくても良いんじゃないかとは思ったけど、僕も本土の人たちの横柄な態度は少し嫌だった。


「さあ、もう少しで家に着くぞ」


お父さんが言った。


僕は今日のご飯はなんだろうと思いながら、ご飯の支度をするお母さんの背中を想像した。


「ん?なんだあの煙は?」


お父さんが言い、顔を向けたのは村のある方向だった。お父さんの視線の先には何か異常があったとしか思えない程の煙があがっていた。


お父さんは僕を背中に乗せたまま足をはやめた。


僕たちがそうして村の入口に着いた時、村は轟々と炎をあげ燃え、家々は焼け落ち、辺りからは悲鳴が聞こえてきた。


その様子はまるでお父さんから昔聞いた地獄のようだった。


「・・・なんだこれは?」


お父さんは僕を背中から下ろし、一緒に家のある方へと向かって行った。


家に向かう道中、何人もの死体が転がっているのを見た。


いつも遊んでくれた隣の家のお兄さん、よく夫婦喧嘩するけど実は仲良しなおじさんとおばさん、僕のことをいつもからかってきたいじめっ子・・・。


その死体のどれにも、鋭利な刃物で切り裂かれたような傷があった。


ようやく家に着くと、お父さんと僕は急いで家の中に入っていった。僕たちの家は幸いにもまだ火はついていなかったのだ。


「お母さん!!」


僕がそう言って家に入ると、かつてお母さんであったそれは天井から逆さまにぶら下がっていた。


そこからの記憶はあまりない。


僕が最後に見たのは、お父さんがまだ家にいた犯人に対し向かっていき、相手の振り下ろした刀によってお父さんが左右に分かれ倒れていく様。


そして犬、猿、キジという三匹の動物を引き連れ、家に火を放つ侵略者の姿だった。





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