-20- 引越し
紗良の家、「あおい荘」には、軽トラックで、紗良の両親が迎えに来ている。
紗良の母が、木村に声をかけた。
「本当にお世話になりました。なかなか来られない所に行っちゃうけど、たまには連絡してあげてね。あと、紗良こんなところで一人暮らししてたでしょう。この美術部が好きだったみたいなのよね。どこの学校にも美術部ってあると思うじゃない。でも、紗良にとって、この高校の美術部が紗良の居場所だったのよね」
「……あの、佐藤に」
「あら、ごめんなさいね。紗良ー。」
紗良が、「あおい荘」から出てきた。
「誰も知らないところだから心配だけど、親が猫をもらってきたらしいから、心強いよ。……動画コンクール、いい結果だといいね。」
木村が、紗良に動画のデータのSDカードを渡した。
「え……。」
「コンクールには、出さなかった。俺、佐藤のためだけに撮ってたんだと思う。佐藤だけに観て欲しかったんだと思う。」
「…。」
木村は、真剣な顔で、紗良を見た。紗良は最初は戸惑ったが、思い直したようだった。
「……うん。ありがとう。あ、ちょっと待ってて。」
紗良は再び「あおい荘」に入り、絵を持って出て来た。木村に絵を渡すと、こう言った。
「今年の文化祭に展示しようと思ってたんだけど、文化祭より前に引っ越しちゃうから。木村くんが持ってて欲しいな。」
「ありがとう。……佐藤、画家になれるよ。」
「実は、ちょっと憧れてるんだ。」
紗良は、お茶目な笑顔を見せた。
「紗良―。行くわよー。」
「…じゃあ。」
「…じゃあ。」
紗良が手を振ると、木村も手をあげて挨拶した。軽トラックが走り出し、みるみる小さくなっていった。木村は、軽トラが見えなくなっても手をあげて立ちつくしていた。
「この人、ずっとおんなじポーズして立ってる。」
「置き物かと思うよなー。」
子供たちにからかわれていることにすら、木村は気づかなかった。
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