-18- ファースト・シーン
二学期の始業式の日。紗良が登校して下駄箱に行くと、封筒に入った、宛名のない手紙が入っていた。
「試写会のお知らせ。本日放課後、視聴覚室にて。題・『ファースト・シーン』」
放課後、紗良が視聴覚室に来ると、木村がプロジェクターの準備をしている。
「これ、大丈夫なの?」
「バレなきゃ大丈夫」
木村が、映像を流した。
「ファースト・シーン」
という文字とともに、映像がスクリーンに映し出される。紗良が笑っていたり、急に泣き出したりする様子が映る。遊園地、ソフトクリームを笑顔で食べている。笑顔で話しているかと思えば、急に大人びた表情で遠くを見つめていたりする。様々な短い映像の切り貼りだが、全て観終えると、一人の女の子が大人になっていく様子が描き出されている。
「側にいるのに、一人でいる時よりも孤独になる。恥ずかしくて言えないような言葉も、君の前でなら言えてしまう。ずっと、それが僕らだった。時間は美しい。そして、残酷だ。この映像は、いずれ終わってしまう青春の一コマ。青春と、孤独の、不可分な関係。」
最後にその字幕とともに、映画が終わった。紗良はじっと映像を見つめていた。
「佐藤は気持ち悪くないよ。」
「木村くん、優しい人って、残酷なんだよ。」
紗良は、木村に向かって腕を伸ばし、二人はハグをした。
「俺、佐藤が初めて出来た友達だよ。」
紗良は、ハグをやめて木村のことを見た。木村のあごに、指先を当てて木村を見上げる。
「じゃあ、私は木村くんが初恋だよ。」
紗良は、指を木村から離す。
「なんでもいいから、答えてよ。ケジメがつかないじゃん。」
木村は、頭をかく。
「……ありがとう。……俺、そういうの、よく分からなくて。でも、佐藤と一緒にいて楽しいから、ずっとこの映像撮ってられたらいいなって思ってた。」
「それは私も一緒だよ。」
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