-5- 接近

二人が河原にいる間に、日没が近付いてきた。

「もう、こんな時間になっちゃったね。」

木村が、太陽を指差す。

「綺麗だね。」

と、紗良。


次の日の放課後、教室で、二人は撮影の打ち合わせをしていた。

木村は、

「本当に、佐藤さんちに行っていいの?」

と、言った。

「うん。うちに来て撮影してくれれば、私の気持ちの整理にもなるから。」

と、紗良。


二人で道を歩いていると、紗良が、

「今の家に人呼ぶの初めてだから緊張するー。」

と、言った。木村は、すでにカメラを回し始めている。



「こんな家ですが、一人暮らししてます。」

「あおい荘」と書かれている、木造の古いアパートに二人は着いた。

鍵は一応あるが、泥棒もすぐ入れるような、形だけの鍵だった。

木村は、驚いたのかもしれないが、常人が木村の表情を読み取るのは難しい。

「このお風呂、知ってる? バランス釜って言うの。あ、でも、冷房は新しいよ。で、寝るときは、ここにお布団敷いて。ナメクジと一緒に寝てる」

「お風呂入ってる時が一番幸せなんだ。入る度にお風呂洗いしてるから、綺麗だし」

木村は、カメラで部屋を撮影する。そして、考え込む。

「あ、お父さんとお母さん? お父さんが転勤でお母さんと引っ越したんだけど、東京のが住み慣れてるし、ここの高校がいいから、わがまま言ってここで一人暮らしさせてもらってる」

「……無理してない?いつもとテンション違うけど」

黙る紗良。

「……」

泣き出す紗良。

「なんでもないの。ただ、なんか安心して」

「一人で生活するのって、大変だよな」

「それだけじゃないんだけどね。今、ちょっと友達と色々あって」

「……忘れられなかったら、無理して忘れなくていいと思うんだ。でも自分で抱え切れなくなったら、俺に撮らせて。そうしたら、何かが少しいい方向に変わるかもしれない」

「木村くんって、そういうこと言う人だったんだね。やっぱり、優しいね」

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