嫌でも陽は昇る
佐薙縋
一話 再生の風景
あの日見た朝焼けだけはいつもと違って見えた。
話は一ヶ月前に戻る。
名前は柊。24歳だ。僕は全てを失った。仕事をクビにされてから恋人にも飽きられ、貯金をしていなかった。一ヶ月職を探している間の家賃くらいはあったけど、いっその事全てを無くしてみたかった。前から、画面の先にある小さな世界に縛られているのが好きではなかった。もっと外の風景、人が行き交う街を目に焼き付けたいと、心から思っていた。
ーもっと五感で世界を感じて楽しみたいー
起きたらすぐに不動産屋と携帯のお店に行き、全てを解約した。余計にお金がかかってしまったのがとても心残りだった。
唯一心配なのは後先考えずに勢いで行動してしまったこと。
当分はネットカフェに泊まって過ごすことを決めた。持ち物にお気に入りのCD5枚とCDプレイヤー、お金と最低限の衣類、そして自転車を用意した。出かけようとした時、雨が少しだけ降っていた。何故か僕の心が少し潤った。少し歩いた先のコンビニに入った。彼女がよく吸っていたハイライトのメンソールを買った。その煙は心の中の色を表しているような、汚い灰色をしていた。でもそれが落ち着いた。慣れた匂い、近くにいるんじゃ無いかという錯覚をした。
とりあえずその日はネットカフェに入り行き先を調べていたところ、どうやら綺麗な離島があるらしい。名前は読めなかったが、そこに向かうことを決めた。行き方や場所をプリントしてスケジュールを考えた。どうやら1週間で着くみたいだ。着いて1週間くらいゆっくりとしてから帰ろうかななんて考えて気分が高揚していた。何かに縋るしかない、そんな焦燥感に追い詰められていた。心の中はまるでカプセルに閉じ込められた、そんなようだった。
その日はCDプレイヤーにCDを一枚入れ、掛けながら寝ることにした。
【the cabs /再生の風景】
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