22

ミーティングが行われる建物内の一室には、この那覇駐屯地の第15旅団長である井川いがわ友一ゆういち陸将補が待っていた。


鬼頭おにがしらやフランクは井川と握手を交わし、一心たち対魔組織ディヴィジョンズの面々と軽く挨拶をした後に、早速作戦会議に入る。


過越の祭パスオーヴァーの潜伏場所は特定したが、調べていた者たちと連絡を取れなくなった。おそらくはすでに始末されているだろう」


「そうですか……。向こうの戦力はどの程度かわかりますか?」


鬼頭が沈んだ声で訊ねると、井川は答える。


「殺された隊員の最後の無線報告によれば、カモッラ……イタリアンマフィアが悪魔たちに協力しているようだ」


「えッ!? な、なんで!?」


井川の言葉に、一心いっしんは思わず声を出してしまった。


マフィアは人間なのに何故悪魔に協力しているんだと、信じられないと一人喚き出す。


「マフィアって人間だろ!? いくら犯罪者集団だからって、なんで過越の祭パスオーヴァー側についてるんだよ!?」


「一心、今はミーティング中だ。私語は慎め」


「でも鬼頭さん!」


鬼頭に静かにするように言われたが、一心は止まらなかった。


その様子を見ていた虎徹こてつしずかは呆れ、ゆきは苛立ちをわかりやすく顔に出している。


そんな一心を鬼頭が止めようとすると、先にもみじが動いた。


「あなただって人間なのにあいつらといたでしょう」


もみじは一心に耳打ちをし、たった一言で彼を黙らせた。


ホッと胸を撫で下ろした虎徹は、静とゆきに呟くように言う。


「さすがはお嬢だな。なにを言ったかはわからんけど」


「きっと言われたくないことを言ったんじゃない?」


静が虎徹と同じく小声で返事をすると、ゆきは誇らしげに口を開く。


「当然です。なんていったってもみじお姉さまなんですから。あんな空気の読めない奴を黙らせるくらいお手のものですよ」


ふふんと口角を上げたゆきを見て、虎徹と静が「なんだかな〜」とそれぞれ固まっていた。


そんな部下たちを見た鬼頭は、彼ら彼女らに声をかける。


「お前たちも気が緩んでいるんじゃないか。ここはもう戦場のようなものなんだぞ。気を引き締めろ」


虎徹、静、ゆきは、静かながら力強い鬼頭の言葉に背筋を伸ばし、謝罪をする。


「井川陸将補。それにフランクも、ミーティング中にうちの者たちが申し訳ない」


「ワッハハハ! 相変わらず固いな、桃次とうじは」


フランクはディヴィジョンズのメンバーたちのことが気に入ったのか。


それとも昔から知っている鬼頭が変わっていないことが面白かったのか。


とても会議中とは思えないほど大笑いし、笑みを浮かべながら井川の肩に腕を乗せる。


「いいじゃないか。若者はそのくらいのほうが覇気があっていい。なあ、井川?」


「アーヴィング大佐……。あんたも大概だな。まあ、同意はするが……」


ドンッと肩に腕を乗せられた井川は、苦い顔をしながら返事をすると、すぐに話を戻した。


過越の祭パスオーヴァーとカモッラのいる潜伏場所は国際通り。


国際通りは那覇の中心部を通る沖縄県道39号線の一部であり、沖映通りやマチグヮー商店街などとともに商業エリアになっている文化的な中心地でもある。


沖縄戦後、那覇の中心部は戦前に整備された新県道周辺から復興が始まったが、ここには1948年に建設されたアーニーパイル国際劇場があったことから国際通りと呼ばれるようになった。


戦後の焼け野原から目覚しい発展を遂げたこと、長さがほぼ1マイルであることから“奇跡の1マイル”とも呼ばれている


「国際通り? そこって沖縄観光のメインスポットじゃ……。敵はそんなところに潜伏しているんですか?」


もみじが訊ねると、井川は説明する。


土産店がずらりと並ぶ国際通りは昼は多くの観光客で賑わっているが、深夜はガラリと雰囲気が変わりスラム街のようになる。


クラブもあるので米軍の人間の多くが頻繁に出入りし、怪しい人間もたくさんおり。ドラッグや大麻なども横行しているようだ。


米軍だけでなく現地の人間や観光客、移住者も犯罪に手を染めている場所である。


さらに深夜でもメインストリートには人が多くいるが、裏道に行くと途端に人目に付きにくく地元の人間でもあまり出歩かないと言う。


「それにゲストハウスが多いのもあって、観光客や移住者に交じりやすいのだろう。外国人が歩いていても不自然ではないしな。敵の立場からすると絶好の潜伏場所といえる」


「木を隠すなら森の中といったところでしょうか。市街戦は免れませんね」


鬼頭が口元を歪めながらそう言うと、フランクはニカッと白い歯を見せた。


「そんな心配するなって。そのために俺たちがいるんだ。作戦決行前には一般市民は秘密裏に避難させる。なあ、井川」


「鬼頭隊長らが目標に接近する前に、自衛隊と米軍で国際通りを封鎖する。被害のことは気にしなくていい。私と防衛大臣が責任を持つ。存分に暴れてくれて構わんよ」


井川の言葉を聞いた鬼頭は、彼に敬礼をした。


「感謝します、井川陸将補。では数時間後に奪還作戦を決行。ディヴィジョンズのメンバーは各自突入の準備をしておけ」


「了解!」


そして鬼頭に指示を出された一心たちは、力強く部隊長の声に応えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る