20

――一心いっしんは、鬼頭おにがしらら対魔術組織ディヴィジョンズのメンバーたちと共に沖縄へ向かった。


他の観光客に紛れての一般航空での移動だ。


初めて飛行機に乗った一心は、どこかソワソワした様子で椅子に座ってからも周囲を見回している。


「なあ、鬼頭さん。沖縄まではどのくらいで着くんだ?」


「二時間と二、三十分ってところだ」


「へぇーそんなに早く着くのかぁ。やっぱ飛行機ってスゲーな」


まるで修学旅行にでも行く学生のように落ち着きのない一心を見て、ゆきは顔をしかめていた。


「ゆき。あんた、あいつにいちいち反応し過ぎだよ。まあ、気持ちはわかるけど」


「ですがお姉さま! あいつ、本当にわかってるんですかね! あんな浮かれていて。わたし嫌いです! あいつが嫌いです!」


これは旅行ではなくれっきとしたディヴィジョンズの任務だ。


これから到着後にミーティングをし、魔導具を持ち去った過越の祭パスオーヴァーとの命懸けの戦闘が開始される。


そんな現状で、いつまでも観光気分でいる一心の態度にゆきが苛立つのもしょうがない。


もみじはゆきの気持ちをわかっていながらも、妹をなだめていた。


そんな一心と姫野ひめの姉妹の様子を、彼らの後ろの席に座っていた虎徹こてつが心配そうにしている。


「なあ、しずか。大丈夫かな、あんな感じで……」


「うん? 別に問題ないと思うが」


虎徹が隣に座っている静に声をかけると、彼女は読んでいた本に視線を向けたまま答えた。


それが他人事のように聞こえたのが気に入らなかったのか、虎徹は不機嫌そうに言う。


「いや、あれは問題だらけだろ。ったく、お前はいつもそうだよなぁ。あの状態で戦場に入って問題ないって正気かよぉ」


「あれは私たちが心配することじゃない」


静は虎徹とは違い、ゆきの一心に対する苛立ちに無関心だった。


もみじは高校生でゆきはまだ中学生だったが、すでに対魔組織のメンバーとして、彼女たちと共に何度も実戦を経験している。


だからいらぬ心配だと、不安そうにしている虎徹をさとす。


「それにゆきちゃんはまだ若いといえプロ。現場に入れば雑念も消える。もみじお嬢のほうは言うまでもない」


「そうかなぁ……。オレにはそうとは思えないけどぉ……」


その後、ディヴィジョンズ一行は沖縄に到着。


現地の者が車で迎えに来ていたのもあって、それに乗り込み、一心たちは那覇駐屯地へと向かう。


那覇駐屯地とは、沖縄県那覇市字鏡水679に所在し、陸上自衛隊第15旅団司令部等が駐屯する陸上自衛隊の駐屯地である。


那覇空港に隣接しており、第15ヘリコプター隊は那覇空港#航空自衛隊航空自衛隊那覇基地の滑走路を使用するため部隊は航空自衛隊の基地に機体を駐機している。


空港から駐屯地まで歩いて三十分もかからない距離だが、どうやら気を回して車を寄越してくれたようだ。


「おぉッ! 暑いな沖縄! スゲーな沖縄!」


雨の多い時期だったが、幸いなことに今日は晴天だ。


高い気温と湿度にグッタリとしてしまいそうだったが、まるで南国のような沖縄の光景を目の当たりにし、一心は車の窓を開けて声をあげていた。


子供のようにはしゃぐ彼に対して、やはりゆきは顔をしかめて苛立っていた。


そんな空気の車内で、鬼頭が皆に声をかける。


「今回の任務には、現地の自衛隊が協力してくれる。あと米軍のほうも手を貸してくれるそうだ」


「まあ、マテリアル·バーサーカーが現れたら怪獣映画ばりの戦闘になりそうですしね。お国の連中も対魔戦はできないとか言ってられないっしょ」


虎徹が気の抜けた返事をすると、一心が彼に訊ねる。


「なあ虎徹さん。怪獣映画ってなんだ?」


「一心、お前……。怪獣はわかるよな?」


「ああ、なんとかサウルスとかなんとかトプスとか恐竜のことだろ」


「ちょっと違うが、まあいいか……。要するに恐竜が暴れる映画のことだよ」


「なんかまんまだな。もうちょっと説明してくれよ」


「説明って……。まあ街を踏み潰したりとか建物を破壊したりとか……ていうかお前は知ってんだろ? 新宿であった戦いをもっと大きくした感じだと思っておけばいいよ」


「あれよりも凄いヤツか……。それはヤバいな」


虎徹の言葉を聞き、一心は思い出す。


新宿――東京都庁舎でトゥルーとホロが出した魔獣――マテリアル·バーサーカーのことを。


魔獣の数は数えるくらいしかいなかったが、新宿の街は火の海になっていた。


あれよりも大規模な戦闘になると思うと、この沖縄がなくなってしまうんじゃないかと、一心は考えたが――。


「でも軍隊が出てくれるんなら安心だな。戦車とかも出すんだろ。大砲でドカーンって感じで」


「いくら彼らが協力してくれても、マテリアル·バーサーカーや悪魔と正面切って戦えるのは私たちだけよ。あんたもそのことは覚えておきなさい」


突然一心と虎徹の会話に入ってきたもみじがそう言うと、鬼頭も口を開く。


「敵もこちらの動きに気がついているだろう。これは奪還作戦だが、被害が少なくなるか俺たちの活躍次第だ」


鬼頭の静かながら力強い声を聞いた一心は、思わず息を飲みこんだ。

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