19

鬼頭おにがしらと話していた白人の男は、一心いっしんのほうへ視線を動かした。


そしてまるでそういう打ち合わせだったかのように、他の部隊長たちも一心のことを見る。


画面ごしとはいえ、鬼頭に負けず劣らず厳つい大人たちに見られたことで、さすがの一心もその身を固くしていた。


一体この面談とやらでどんなことを言われるのかと、正直あまり居心地よくはいられない心理状態だ。


それもそのはず、そもそも一心は、対魔組織ディヴィジョンズの敵である過越の祭パスオーヴァーのメンバーだったのだ。


利用されていたとはいえ、もみじの妹であるゆきがそうだったように、彼のことをよく思わない人間がいてもおかしくない。


静まり返った雰囲気の中、鬼頭がモニターに映っている部隊長たちに声をかける。


「こいつが今度からうちに配属される楠木くすのき一心だ。もう知ってるだろうが、絶縁者アイソレーターであり、ここ数日間で見た感じ、すぐにでも戦力になる」


鬼頭が一心について説明を始めると、部隊長らは、それぞれ手元にあった携帯情報端末を操作した。


おそらく鬼頭が送った資料に目を通しているのだろう。


そんな彼らの姿を見て、もみじは今さらかと言いたそうに顔を歪めていた。


「実戦経験こそ浅いが、うちのチームメンバーと上手くやれているのもあって連係なども問題ない。まだもみじのような特殊能力は使えないようだが――」


《ちょっといいか、鬼頭》


鬼頭の説明を遮り、先ほど話し出した白人の部隊長が口を開いた。


なんだと訊ねた鬼頭に、彼は威圧的に言う。


《説明よりも大事なことだ。もし、もしだぞ。そこにいる少年、楠木一心が我々を裏切った場合はどうする? 何か対処は考えているのか?》


もみじが歪めていた顔をさらにしかめ、鬼頭を見た。


彼女はやはり訊かれたかと思いながら、上官の言葉を待つ。


だが鬼頭が何か言う前に、一心がモニターの前に立った。


「俺は裏切りませんよ。チームのみんなのことが好きだし。あ、でもゆきのことはちょっと苦手かな。嫌いってほどじゃないけど」


《楠木一心……。私は鬼頭に訊いているんだが》


「えッ? でも裏切りませんって俺。だからその対処ってヤツもいらないと思うんだけどなぁ」


何故理解してくれないんだと、一心は小首を傾げていた。


白人の部隊長と一心のやり取りを見て、他の部隊長からは笑い声が漏れ始めている。


「責任は俺が取る。何かあれば軍律による裁き受けよう」


「ちょっと待ってくれよ鬼頭さん!? なんだあんたがそんなことしなきゃなんねぇんだ!?」


一心は納得がいかなかった。


話を聞いた途端に怒鳴り始め、先ほどまで笑っていた部隊長たちの空気も変わっていく。


そして、白人の部隊長が鬼頭に向かって口を開く。


《もちろんお前には責任を取ってもらうが、それでは対処にならないだろう。絶縁者アイソレーターはたった一人でも脅威となる。何か具体的な対処法を考えてもらわねば困るぞ》


「だから俺は裏切らねぇって言ってんだろ!?」


一心が再び声を荒げると、もみじは彼の前へと出てきた。


それから強引に彼を下がらせ、部隊長たちに声をかける。


「もし楠木一心が裏切った場合は、私がその場で殺します。怪しい素振りを見せた瞬間に、問答無用で始末するのでご安心を」


「おいもみじ! だから俺は裏切らねぇって言って――」


「あんたは黙ってなさい!」


もみじのあまりの迫力に一心は怯んだが、それでも彼は黙らない。


「いいから聞けって! こいつらが俺を信用できないなら、俺の身体に爆弾でも毒薬なんでもいいからつけりゃいいだろ!」


「あんたって奴は……。なんで話をややこしくするんだよ!? せっかく話がまとまりそうだったのに!」


一心が自分が裏切ったときの対処を提案すると、もみじは声を張り上げ返した。


そこから二人のまるで子供の喧嘩のような言い合いが始まり、場が一気にしらけていく。


それを見かねた鬼頭は二人を引き離すと、部隊長たちに声を訊ねる。


「今二人が言った対処法でいこうと思うが、それで納得できるか?」


《ああ、少なくとも私は彼が気に入ったよ。命をかけて証明するっていうとこがね》


白人の部隊長がそう言うと、他の部隊長たちもコクッと頷いた。


鬼頭は苦い顔をしていたが、どうやら一心を対魔組織ディヴィジョンズに入れる話は、これで解決しそうだ。


《それでは日本国内にいる過越の祭パスオーヴァーの始末を頼む。連中があの魔導具を何に使うかは知らんが、こちらにとって喜ばしくないことであるのはたしかだろうからな》


「すでに逃げた敵の潜伏場所は把握してある。安心してくれ」


《心配などしていない。では、これにて面談は終了する。その前に楠木一心》


「へッ?」


《最後に何か言いたいこと、訊きたいことはあるか》


「ああ〜......別にないかなぁ。俺が知りたいことをあんたらは知らなそうだし」


一心がそう答えると、部隊長たちから失笑が漏れた。


そして、彼らはモニター画面から消える。


「面談っていうか、なんか品定めって感じだったな」


「ちょっとあんたわかってんの!? これであんたの身体に爆弾か毒薬を埋め込むことになったんだよ!?」


「騒ぐようなことじゃないだろ? 動きづらくなるようなもんじゃ困るけど、そこは最新技術でさ。知らんけど」


「あんたねッ! そんな簡単に自分の命を!」


面談が終わり、もみじが一心に喰ってかかると、彼はあっけらかんとした態度で返事をした。


再び不毛な言い争いが始まるかと思われたが、鬼頭の発した一言で二人は黙る。


「これから沖縄に飛ぶぞ。そこに魔導具を持ち出した過越の祭パスオーヴァーの悪魔がいる」

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