17

――拘束から解放された一心いっしんは、鬼頭おにがしらに連れられ、これから彼が過ごす家に来た。


共用エントランスにオートロックが採用されたどこにでもあるマンションだ。


当然監視の意味や未成年ということもあり、鬼頭と二人で暮らすことになる。


「皆集まっているな。伝えていた通り、こいつが新たな絶縁者アイソレーター楠木くすのき一心だ」


家に入ると、部屋には三人の男女がいた。


休日だったのだろうか。


三人ともスーツ姿の鬼頭とは違い、パーカーやシャツにパンツとカジュアルな格好をしていた。


彼ら彼女らは鬼頭と一心に気がつくと敬礼をする。


「紹介しておこう。ここにいるのが対魔組織ディヴィジョンズのメンバーだ」


鬼頭がそう言うと、若い男性が口を開く。


越前えちぜん虎徹こてつだ。絶縁者アイソレーターが入るかもって聞いてたけど、まさかあのときの奴だったとはね。歳はお嬢と同い年くらいか? オレのことは虎徹って呼んでくれよ。ま、仲良くやろうや」


気さくに挨拶をした男の腰には、そのカジュアルな格好には合わない日本刀が見えた。


手を伸ばれたのもあって、一心は戸惑いながらも虎徹と名乗った男と握手をした。


三条さんじょうしずか。よろしく」


次に自己紹介をしたのは若い女性。


物静かそうな表情通りの愛想のない言い方だったが、彼女も虎徹と同じく一心に握手を求めた。


彼女は握手をする前に、虎徹と同じく、その格好にはそぐわない薙刀を持っていた。


一心は壁に立てかけた薙刀を見て、二人の武器は刃物かと思わず顔をしかめる。


地下で戦った特殊部隊らしき男女らは、誰もが短機関銃を使用していた。


まさか過越の祭パスオーヴァーとあんな武器で戦っているとかと、時代錯誤もいいところだと思う。


姫野ひめのゆきです。わたしとは別に仲良くしなくていいので」


最後に名乗ったのは、一心よりも幼い少女だった。


先に握手をした虎徹や静とは違い、小柄な彼女がとても戦えるようには見えない。


(なんか生意気なヤツだな。まさかこいつも絶縁者アイソレーターか? 待てよ……。姫野ってたしか……)


一心はゆきと名乗った少女の苗字から、ある人物のことを思い出した。


それは、先ほど鬼頭と共に自分の前に現れた髪の短い少女――姫野もみじのことだった。


まさか身内かと、一心はゆきと名乗った少女に訊ねる。


「おい、お前。まさかあのもみじって女の妹か?」


「そうですけど」


「じゃあ、お前も絶縁者アイソレーターなのか?」


一心が訊ね続けると、ゆきはわかりやすく不機嫌そうになり、静かながら怒気のこもった声で返事をする。


「初対面の相手にお前、お前って言われるのってすっごく不快なんですけど」


「うん? なんでだよ? 俺は別に気になんないぞ」


「鬼頭さん! わたし、この人嫌いです!」


ゆきは突然大きな声を出し、鬼頭に向かって不満を口にした。


声をかけられた鬼頭は呆れながらため息をつき、その横では虎徹が腹を抱えて笑っている。


すると笑っている虎徹の脇腹に、静が肘打ちを喰らわせた。


「がッ!?」


「虎徹。笑い過ぎ」


「今のは……けっこういいところに入ったぞ、静……」


呻きながら自分の受けたダメージを説明する虎徹だったが、一方の静は何事もなかったのようにただ立っているだけだった。


そんな二人の様子を見て、一心はなんとなく二人の関係を察した。


恋人か、またはかなり近しい関係なのだろう。


そして、静には逆らわないほうがよさそうだと内心で誓う。


「……とまあ、以上がうちのメンバーだ。今はもみじがいないが、後でちゃんと会わせる」


「ちょっと鬼頭……さん。俺はこのちっこいのがもみじって女の妹なのか知りたいんだけど」


「ちっこいのはなんですか! ちっこいのとは!」


一心の言い方が気に入らなかったのか、ゆきは不機嫌な状態からさらに激高。


突然一心に飛び掛かろうとした。


だが、静が無表情のままゆきの首根っこを掴んで彼女は宙づりにされてしまう。


「離して! 離してください静さん!」


空中でバタバタと暴れるゆきに静が言う。


「どんなに失礼なことを言われても暴力はよくない」


「レディがちっこいのと言われて黙ってられますか!」


「いいから落ち着きなさい、ゆきちゃん。鬼頭さんが見ている」


宙づりの状態でもまだ飛び掛かろうとするゆきのことを、静はただ無感情にたしなめていた。


「ったく、暴力はよくないってどの口が言ってるんだか。がはッ!?」


静の言葉をにボソッと苦言を呟いた虎徹の脇腹に、再び彼女の肘打ちが入った。


どうやら先ほどよりも深く突き刺さったようで、虎徹は腹部を手で押さえながら苦しそうにしている。


そんな今にも胃液を吐き出しそうな彼に向かって、静が訊ねる。


「なにか言った?」


「いえ……な、なにも言ってません……」


「そう。それならよかった」


宙づりになりながらもまだ喚いてるゆき。


無表情で虎徹の脇腹に打った静。


一心はその光景を見て「大丈夫かこのチームは……?」と、苦い顔をする。


そんな中で、鬼頭がまるでその雰囲気をかき消すようにコホンと大きく咳払いした。


「顔合わせはここら辺にしておこう。必要以上に仲良くしろとは言わないが、彼らとは上手くやるようにな」


「あぁ、わかった……」

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