2222年、カイト&シオン14歳
チェシャ猫亭
絆というもの
西暦2222年、3月25日。
カイトは14歳の誕生日を迎えた。
「おめでとう」
「おめでとう」
年齢通りのロウソクでは穴だらけになるから、小さなケーキに4本立てて、吹き消す。祝福の拍手とハッピーバースデイの歌。
「ありがとう」
カイトは黒い瞳をキラキラさせた。額にかかる黒い巻き毛が愛らしい。
隣には大好きなパパ、とカイトが呼ぶ育児アンドロイドのシオン。青年の姿なので、年の離れた兄のように見える。
祝いに来たのは近所に住む7つ上のナツキ兄さんと10歳年上のサナエ兄さんだ。この街ではカイトが一番幼く、同世代の少年は見当たらない。身寄りはなくシオンに頼るしかないカイトを不憫に思うのか。年長者たちが、わざわざケーキを持ってきてくれた。
ふたりが帰ると、部屋は急に寂しくなった。もともと2DKの小さな住まいだ。
「ジュリもリノもいなくなっちゃったね。どこへ行ったの?」
ナツキ兄さんには聞けなかったことを、カイトはシオンに尋ねた。ジュリとリノとは、兄さんたちの面倒をみていた育児アンドロイドのことだ。
「ナツキ兄さんたちが18になったから、次の子供のところに行ったんだよ」
シオンはあっさりと答えた。
18歳。
その年になれば、育児アンドロイドの補助は受けられなくなる。家事全般と育児を担う高度なアンドロイドの貸与期間が終了するわけだ。
「そうなんだ」
カイトは暗い気持ちになった。
18になったら、シオンパパも行ってしまうのか。自分ひとりで生きるしかいないの?
「パパは、行かないよね」
不安な目をシオンに向けると、
「カイトが貸与の延長を申請すれば、そばにいられるかもしれない」
希望はあるのだ。カイトは笑顔になった。
「そうするよ」
この街は平和だ。
ほとんどの家庭は父親と息子ひとり、たまにふたりで構成されている。残りは男性の一人暮らし、または共同生活、同性婚のカップルもいる。かつては育児アンドロイドが小さな子供の手を引く姿が見られたが、現在は皆無である。
父親のサポートとして育児アンドロイドが貸与されてきたが、子供たちが次々に18歳を迎える中、姿を消していった。
成人男性も、ときどき消える。何があったのか、今まで普通に暮らしていた人が、急に言動が乱暴になったり、酒ばかり飲んでトラブルを起こしたりする。そしていつの間にか、姿を見かけなくなるが、何処に行ってしまったのかカイトには見当もつかない。
疑問は他にもあった。
お兄さんたちと自分は、どこか違うようなのだ。
はじめから父親がいないのも自分だけだしばん年の近いナツキ兄さんtとも7歳違い。7年の間に、他に子は産まれなかったのだろうか。
学校にも、カイトは通ったことがない。同世代が全くいないためか、学習はすべてオンラインで行われた。そんなこともあって、カイトのシオンへの依存度は高くなる一方だったのである。
「パパは何歳なの?」
ふと気になって、カイトは質問した。
「私も14歳」
と、シオンは微笑んだ。
カイトの誕生時、作られたばかりのシオンが割り当てられた。
育児のための知識はしっかりインプットされていたが、当時hsカイト同様0歳。その時からカイトを見守り、頼られ、愛されてシオンも14歳になったのだった。
「泣いているだけの赤ちゃんが、14歳になったんだね」
感慨深そうにシオンが言う。
「泣いてばかりだったの」
カイトはちょっぴり恥ずかしかった。
「それでいいんだよ。赤ちゃんは、泣くのが仕事」
やさしくシオンが言う。
「僕はもう、赤ちゃんじゃない」
でも大人でもないな、とカイトは思う。
「パパとずっと一緒にいたい」
「ありがとう。私もだよ」
厚い信頼の眼で、ふたりは見つめあう。
20年ほど前、女性が死に絶え、男たちは貴重な冷凍卵子を慎重に扱い、人工子宮で新しい命を誕生させていった。望まれたのはもちろん女児だから、カイトは不要な存在として扱われたのかもしれない。
これ以降、カイトがどのような生を歩むのか、それはまた別の話である。
【あとがき】
お読みくださり、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
本作は、連載中の「ミラージュ〜AI共棲共生社会」の番外編となります。カイト18歳の物語です、よろしかったら下記からどうぞ。
2222年、カイト&シオン14歳 チェシャ猫亭 @bianco3
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