第十五話 負の感情

 グスッ……


 宿屋『羽休め』の裏道で一人の少女がうずくまっていた。泣き腫らした目から涙は頬を伝い、地面にシミを作る。

 何を間違えたのか。何がいけなかったのか。何でお父さんに殴られたのか。


 きっかけはあの冒険者だった。



 来店を告げるベルが冒険者を歓迎する。わたしはいつものように、ランクを確認した。Eランクだった。Eはいらない底辺冒険者。

 わたしがため息を吐くと、近くの冒険者達が底辺冒険者を残念そうに見ていた。

 だからわたしは断った。


 すると、その人はわたしに言った。


 「紹介状の有無を尋ねること無く、ギルドカードだけで判断した挙句、ため息を吐いて客の気分を害す。それがこの宿屋の総意なんだね?」


 あっ、と思った。紹介状の確認してない!で、でも、底辺冒険者なんだから持ってないよ、絶対。見栄を張ってるだけ。

 そしたらいきなり、尖った耳の綺麗な人と時々宿に来てお父さん達と話してる女の人と、金色の髪の人が現れた。

 底辺冒険者の人が指をパチンとしたら現れたから、この人が呼んだんだとわかった。


 店内の色んな人が驚いてた。

 大きな声で皆が叫ぶから、耳がキーンとしてた。

 急に現れたからビックリしたんだと思ったら、お父さんがふらふらとわたしのとこに来て、わたしの頭を押さえつけた。

 痛かった。

 前に、お金を払わずに宿に止まり続けた人がやってたように、土下座というのをお父さんにさせられた。凄く恥ずかしいことだと、見たことがあるからわかってた。


 女の人が強めの声でお父さんに何か言っていて、扉が閉まって顔を上げたら、お父さんが目をギュッとして歯をギリギリ鳴らしてた。


 お父さんに服を掴まれて、手の平で叩かれた。

 痛かった。頬がジンジンした。

 冒険者の人達は怖がってて、でもお姉ちゃんの近くにいた冒険者の人達がお父さんを止めてくれた。

 お母さんが言ってた。


 「この宿に先はない」「宿は出来ない」




 普段立ってる守衛の人達が城壁門にいない。今なら、外に出られる。


 「お薬飲んだら治るかな」


 お母さんが飲ませてくれたポーションって言うのは、森に生えてる薬草から作られるってお姉ちゃんが言ってた。


 わたしは遠くに見える森へ、薄暗い中を走った。

冒険者の隣を走り抜けても、止められることはなかった。

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