下宿「タンポポ」の大家さん

地理山

高校1年目

第1話

日本首都東京・・・の街の一角にポツリと建っている下宿。名前は「タンポポ」という。

「うしっ・・・と。これで掃除は完璧っと!」

額に流れる汗を拭い、一息つく一人の男。この男がこの下宿の大家である。

「今日から新しくガキどもが入る・・・!盛大に出迎えてやろうじゃねぇか!」

大家はそう言って腰に手を当てて笑った。

「おい、オッサン。」

「あん?」

後ろから声が聞こえ、大家は後ろを向いた。そこには褐色肌でショートヘアの女子が不機嫌そうな顔をして立っていた。

「下宿『タンポポ』の大家ってアンタか?」

「そうだけど、お前は?」

大家がそう聞くと、その女子はさらに不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。

「あ?てめぇ、自分のところに入るガキのことも知らねぇのかよ?」

「ってことは・・・お前が新しく入るガ・・・いや、学生さんな!」

大家は危うく「ガキ」と言いかけたが、慌てて言い直した。

「ほら、中入りな!もうすぐ他の奴も来るから、その時自己紹介しな!」

大家はそう言って背中を押し、女子を下宿に入れた。


それから30分ほど経ち、褐色肌の女子だけでなく、3人の学生が下宿に集まった。

4人の学生と大家は下宿内の談話室に集まった。

「よし、全員集まったな!名前と入学する学校を教えてくれ!」

大家はそう学生たちに呼びかける。すると、真っ先に優等生そうな男子生徒が手を挙げた。

「はい!なら、僕がやるヨ。你好リーホー。台湾から来た志明ヂーミンです。来週から世野道高等学校に入学します。」

「なんだ、留学生さんか!日本語上手いな。ちょいと訛ってるけど・・・」

「はい、頑張って勉強したヨ。」

ヂーミンはそう言って笑顔を浮かべる。パッと見、努力家で好青年な印象だった。

「じゃあ、次・・・時計回りで、お前な。」

大家はヂーミンの隣にいたスマホばかりいじっている髪が明るい色に染めた女生徒を指さした。

「え~、私~?自己紹介とかめんどいンですけど~」

見るからにギャルっぽい女生徒で、めんどくさそうにため息をついている。

「まぁいいけどさ・・・私~、名前は吉良希来里きらきらりで~す。キラリって呼んでくださ~い。学校は乃生平のうひら高校に通いま~す。」

「おおっ、乃生平!俺、そこの卒業生なんだよ!わからないことあったら聞けよ!」

「プライベートに関与してこないでくださーい。」

「えっ、お、おう・・・」

大家は快くキラリに協力しようとするも断られ、大家は口ごもった。

「じゃ、じゃあ次、向かい側の・・・」

「はい・・・」

キラリの向かい側に座っている眼鏡でポニーテールの女生徒。ゆっくりと自己紹介を始める。

喜田恵海きだえみです・・・同じく乃生平高校です・・・」

「なんだ、同じ学校か。よかったなぁ、キラリ!すぐ友達出来たじゃねぇか!」

「気安く呼ばないでくださ~い。」

「わ、悪い・・・」

キラリの肩を叩こうとしたが、ひらりとかわされた。

「で、残りは・・・」

大家は恵海の隣に座っている先ほどの褐色肌の女生徒をちらりと見た。

「・・・ンだよ。言わなきゃいけねぇのかよ?」

「そりゃあ、みんな言ってるからよぉ・・・お前だけ言わないわけにはいかねぇだろ?」

「チッ・・・神崎海里かんざきかいりだ。通うのは武凪たけなぎ高校。これで満足かよ?」

「おうおう。これで全員だな?」

海里に睨まれるも、大家は気にせず自分の自己紹介を始めた。

「俺は大家の滝沢真一たきざわしんいちだ!お前らの世話を任された分、責任持って守ってやるからな!」

真一は大見得を切って、高らかに叫んだ。だが、談話室内は静まり返っていた・・・

「あ・・・あれ?」

「ねぇ、おじさーん。私らの荷物、もう部屋に届いてるんでしょー?」

「あ、ああ・・・届いてる・・」

静まり返った空気の中、真一は少し焦りながらキラリの質問に答えた。

「じゃ、明日から学校だし、準備しよーっと。」

キラリはそう言って席を立つ。それに続くように他の3人も席を立った。そして4人は上の階へ上がっていった。

「す、少しは愛想よくしろやー---!!後、俺はまだ28歳だ!おじさんじゃねぇー---!!」

真一は叫んだ。が、4人は無視を決め込んだ。

こうして、下宿「タンポポ」の毎日は始まった。


「おーい、お前らー!!朝飯出来てンぞー--!!」

翌朝、真一は鍋の底をお玉で叩きながら4人を呼んだ。

「うるさいなぁ・・・昭和の人間かっての・・・」

「前時代的・・・」

「う、うるせぇな!早く仕度して飯食えっ!」

怒鳴られながらも、4人は顔を洗い、歯を磨く。そして食卓についた。

食卓には鮭の塩焼きに卵焼き、野菜の入ったみそ汁、納豆に白飯が置かれていた。

「わぁ、本で見たオーソドックスな朝食だネ。食べるの初めてだヨ。」

ヂーミンは初めて食べる料理に胸を躍らせた。それを見て、真一も嬉しそうに笑った。

「でも、これはいらない。」

しかし、ヂーミンは一緒に置かれていた納豆をテーブルの真ん中に寄せた。

「えっ」

「私もいらなーい。」

ヂーミンに続き、キラリも納豆をよけた。

「私も・・・納豆臭くなるのは嫌・・・」

続いて恵海も。さらに海里も納豆をよけた。

「な、なんだよお前ら。納豆嫌いなのかよ?」

「別に嫌いじゃないけどぉ・・・臭くなるのは嫌。」

「僕も・・・前に初めて食べた時、匂いがダメでネ・・・」

「や、休みの前の日だったら食べても・・・」

「俺は純粋に嫌いだからヤダ。」

4人はそれぞれ食べない理由を告げ、

『いただきまーす。』

朝食を食べ始めた。

「お、お前らなぁ!発酵食品は体にいいんだぞ!特に納豆はいい!お前らの健康を考えてだな・・・!」

「あー、はいはい。そういうのいいから。」

力説しようとする真一をキラリは一刀両断し、そのまま食事を続けた。

「・・・ったく。」

真一はため息をつきながら、食事についた。


数十分後、

『ごちそうさまー。』

4人は食事を終えた。

「お粗末様。あっ、お前ら今日入学式だから、早く終わるだろ?昼飯どうする?」

真一は食器を片付ける4人に昼食のことを尋ねた。

「私ー、テキトーに済ませるからー。」

「私も・・・その辺で済ませます。」

「僕は・・・街を見ていきたいから、外食するヨ。」

「そっか・・・海里、お前は?」

真一はまだ何も話していない海里に尋ねた。すると、海里は突然睨みつけてきた。

「あ?なんで話さなきゃいけねぇんだよ。俺は俺で勝手にやる。」

海里はそう言って食器をシンクに置き、荷物を取りに部屋に戻った。

「嫌な奴~。」

「おいおい、これから一緒にやってくんだから、そんなこと言うな。」

「はーい。」

キラリは空返事をした。そして、食器を片付けた3人は学校へと向かった。


「えー、今日から新入生となる皆さんですが・・・」

入学式・・・それは学生生活のスタート。4人の学生生活は今日ここから始まる。通う学校は違うが、4人は校長の挨拶のある入学式、クラス内での生徒と担任の自己紹介、施設内の見学・・・等々を終えた。

終わった時刻は12時ぐらい。4人はそれぞれ、自分が計画していた予定通りに行動を始めた。

「うーん、ネットの評判通り!ここのパフェめっちゃ良さ気じゃん!」

キラリは巷で有名なカフェで、人気のパフェを写真を撮りながら食べ・・・

(私にはやっぱり、こういうとこが落ち着くなぁ・・・ラーメン屋とか一人でいけないし・・・あっ、後でプラモ屋寄ろ・・・)

恵海は大手チェーンのハンバーガー屋で食事し、

「ここにも台湾料理の店あるのか!ここにしよ!」

(普通の中華料理なんて食べたくないし、寿司は高いし、ラーメンやハンバーガーってのもありきたりだしなぁ・・・この店があってラッキー!)

ヂーミンは駅の近くにある台湾料理の店に入り、

「あー、つまんねぇの・・・ゲーセンいくか。久々に格ゲーやってスカッとするか!」

海里はコンビニのパンをすぐに平らげてゲーセンに向かった。


それから時は経ち、午後5時・・・

「あー、遊びすぎた・・・もう5時かよ・・・」

ゲーセンで遊びつくした海里は帰路につく。そこに・・・

「あっ・・・」

道の向こう側からヂーミンが歩いてきた。

「あっ、海里ちゃん。」

「チッ、勝手に下の名前で呼ぶんじゃねぇよ。」

下の名前で呼ばれ、海里はヂーミンをにらみつけた。

「ああ・・・ごめんごめん。」

「あれー?ヤンキーに留学生じゃん。」

その時、後ろから声が聞こえた。後ろを向くと、そこにはキラリと恵海がいた。

「あれ?二人とも一緒に帰ってたの?」

「冗談!途中で一緒になっただけ。」

「そ、そうです・・・」

「ふーん、じゃあ皆で一緒に帰ろうヨ。どうせ帰り道同じだし。」

4人は「タンポポ」に向けて足を進めた。

「ねぇ、あいつさ・・・なんかウザくない?」

道中、キラリが突然声を上げた。

「えっ、誰?」

「あの大家!なんつーの?あの熱血キャラみたいな性格?私には合わないし、ぶっちゃけ古臭いし、ダサいじゃん?」

「う、うん・・・私もあのノリ苦手・・・」

「でしょでしょ!」

俯きながら答える恵海に、キラリは彼女の顔を覗き込みながら言う。恵海は驚き、さらに俯いた。

「あー・・・まぁ、好みは別れそうだよネ。僕は嫌いじゃないけど。」

「ケッ、俺はあんな奴どうでもいい。ただ舐められなきゃいいんだ。」

「うーわ、一触即発?」

こうした雑談を交わしたのち、4人は「タンポポ」へ帰宅した。

「おっ、ちょうどいいところに帰ってきたか!」

4人が玄関に入ると、キッチンから真一が顔を出してきた。

「来いよ!晩飯作ったぞ!」

キッチンに向かうと、テーブルには5人分のから揚げが皿に盛られていた。

「おっ、今日の晩ご飯はから揚げなんだ。」

「わ、私、から揚げ好き・・・」

4人はさっそく着替えて食卓についた。

『いただきまーす。』

4人はから揚げを一口食べ、

『?』

揃って違和感を覚えた。

「何?なんか変な食感・・・」

「ネバってる・・・?」

「まさか・・・」

噛んだ時の食感に口の中で粘る感触・・・食べた瞬間、そのから揚げが何でできていたのか、4人は察することができた。

「おう!朝にお前らが残した納豆をから揚げにしたんだ!」

『やりやがった・・・!』

真一の一言を聞き、思わず声に出して呟く4人。しかし、すぐに笑みがこぼれた。

「はぁ、やられた~!」

「まさかこんな手で来るとはネ・・・」

「で、でも、これはこれで美味しいかも・・・」

「まぁ、やるじゃねぇか。」

4人の反応を見て、真一は腰に手を当て、鼻高々に威張った。

「だろ!?俺の下宿でお残しは許さねえかんな!残したら、あらゆる手を使って食わせるからな・・・!」

『脅すな!子どもを!』

4人は一斉に声を上げた。

「息ピッタリじゃねぇか。へっ、これからここも楽しくなりそうだ!」

真一はニカッと笑ったかと思うと、突然窓を開けた。

「向こうにいる親御さん達ー---っ!!」

すると、夜空に向かって大声を上げた。

「あんた等のお子さんは!俺が責任持って守ってやらぁ!大船に乗った気でいろよー---っ!!ガーハッハッハッ!!!」

近所にも聞こえてしまいそうな大声で叫ぶ真一。それはこの下宿で暮らす子ども達を守るという使命感によるものだったが、当の4人は・・・

『はあ・・・』

ため息をつきながらその様子を見ていた。

「マジでバカなの?あのオジサン?」

「このノリが毎日続くのか・・・」

「あ、頭痛くなってきた・・・」

「ケッ、舐めやがって・・・」

前途多難・・・下宿での共同生活は始まったが、この先の不安は多いだろう。

今後、彼らの人生がどう動くかは、まだ誰にもわからない・・・



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