噛ませ犬戦

 丸一日かけた長丁場になると思っていたのだが、そもそも大会に出場できるチームが4チームになってしまった。

 私たちの初戦はイコール準決勝だ。

 だが、この場外戦が行われたということにどうやら外野は湧いているらしい。

 今回の麻雀大会はVR内通貨による勝利者予想もされているというのもある。

 麻雀が強いとされていた有力チームが一気に脱落したことで、それこそジョーカーがほぼ総取りに近い勝ち方をする可能性もある。


「あ、新しいオッズ出ましたよ」


 私は仮想ウィンドウで残った4チームの予想を見る。


「オッズ?」

「どこのチームに賭けたら、幾ら貰えるかっていう倍率のこと。たとえば、みんなが同じチームに賭けたら成立しないから、1倍っていうことになっちゃうわけ」

「あー、なるほどー。誰も賭けてないチームに賭けてたら、多くの人が賭けたチームよりいっぱい取り分があるわけだ」

「そういうこと。で、私たちは……」


 ニコ&リンチームは意外にも二番人気だった。

 ぴーちゃんが抜けても、私の知名度と人狼配信などでの実力が考慮されたらしい。

 ジョーカーが幾ら賭けたのか知らないが、優勝しても単勝だとせいぜい2倍か。


 一番人気はあの反社会的組織の幹部ジョニーと相棒の名前は「雀妖鬼」とある。

 雀妖鬼て! 怖い怖い。たしか、元プロって聞いてるけど、どんな登録名よ。

 ぜったいヤバイやつ。


 そして、初戦の対戦相手ゴールデンファミリーのハム&ラビは圧倒的不人気。

 このチームが優勝したら賭けた人は一躍億万長者だ。

 そもそも殆ど誰も賭けてないからこんなオッズになっているわけだけど。


「ゴールデンファミリーはなんで不人気なんだろうね? 麻雀強くないのかなぁ?」


 リンちゃんがもっともな疑問を呈する。


「それは多分ね。この人たちが自力で場外戦を回避して参加してるからじゃないってことなんじゃないかな」

「どういうこと?」

「つまりね。ゴールデンファミリーっていうのはアメリカが拠点のマフィアなわけじゃない?」

「うん」

「だから、触覚グローブの支給が間に合わないから、そっちで用意してってなっただけなんじゃないかなって」

「あー。アメリカにいたから居場所もバレなかったし、脅迫もされなかっただけなんだね」

「運の良さっていう意味ではトップクラスかもね」


     ※


 そして一回戦。


「おうおう、一回戦目はこんなお嬢ちゃんたちが相手か」

「楽勝だな。ボコボコにしてやるぜ」


 VRヘッドセットの自動翻訳でほぼタイムラグなしに会話ができるが、すごい翻訳だ。おそらく相手のニュアンスを完璧に汲み取っている。


「かわいー」


 リンちゃんは相手の風貌のおかげでまったく緊張していない。

 これならイケそうだ。


 そして――。


「ロン。12000点」

「くそが!」


「ツモ、6000オール」

「なんだ、こいつら! やべぇぞ」


 勝者――ニコ&リン!


 噛ませ犬との対局の描写なんてこんなもんだ。

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