決戦会場へ。あと一方その頃。

 VR空間グリモワールのスラムの中に聳え立つカジノタワー。

 前に来た時よりもちょっと高くなってる気がする。

 そんなわけないけど。いや、本当にそんなわけないか? VRだしなぁ。ありえんこともないかぁ。

 ともかく私とリンちゃんはエントランスに入る。

 中も豪華絢爛で赤い絨毯に煌びやかなシャンデリアが輝いている。ホストクラブもなかなかのものだったがやはり格が違う。


「緊張するね!」

「しないですよ。絶対勝つのに」


 いや、めちゃめちゃ緊張する。麻雀に絶対とかないし。くそぅ、胃が痛いし、うっすら吐き気もするよう。

 でも、私が緊張を表に出すとリンちゃんまで不安に思ってしまう。

 最後まで歯を食いしばって、余裕のフリを貫き通すのだ。

 がんばれ私。


「お待たせしてすまない」


 青白い顔にひょろりと長い手足の不気味な女が現れる。


「私たちも今来たところですよ。ジョーカー」

「初めまして、リンさん。今日はよろしくお願いしますね」

「あなたがジョーカーちゃん! よろしくね! あたし頑張るから」

「期待してますよ」


 ピンク髪ギャルは意外とお嬢ちゃんで夜遊びとかもしたことのない真面目っ子だ。

 ジョーカーも参加費を自腹で出してくれているのに特に変なプレッシャーをかけたりせず和やかな雰囲気を醸している。


「リンちゃんにはお土産を持ってきたんだ。これを観てやる気を出してくれたら嬉しいな」


 ジョーカーは仮想ウィンドウを表示する。

 そこに映っていたのはあの借金ホストのエラ君だった。


『リンちゃん、僕と妹のために麻雀大会に出てくれると聞きました。ありがとう。本当はすぐにでも駆けつけたいし、近くで応援したい。でもまだ僕には君に会う資格はないから。僕たち姉妹が自由になれたら、僕の残りの時間は君を幸せにするために使うって誓うよ。頑張って』


「エラ君……ジョーカーちゃん、ありがとね。気合い入ったよ」

「それは良かった。試合に出ない私にできるのはこれくらいしかないからね」

「あなた、意外と気が利きますね」

「ありがとう、ニコちゃんに褒めてもらえて嬉しいよ。メッセージを録ってきた甲斐があった」


 ジョーカーは見た目は変だし、金の亡者だけどなんだかんだ優しいところがある奴なのだ。とはいえ、全面的に信頼したりはしないけど。


「さ、エントリーの受付をしよう。なんでも今日の大会は最上階のVIPルームで開催されるらしいよ。VIPルームは私も入ったことないから配信でも見られるのが楽しみなんだ」

「ジョーカーでも入ったことないんですか?」

「私がやってるレートよりさらに桁が一つ違うからね。一晩で100億くらい動く日もあるらしいよ」

「ひえー」


 最近は耳にするお金の桁がめちゃくちゃ過ぎる。


 私たちは受付カウンターでエントリーをすると最上階直通のエレベーターに乗り込む。

 ジョーカーとはここでお別れだ。


     ※


 一方その頃。

 リアルの某映画館。


「みんなー、今日はニコちゃんリンちゃんの麻雀大会パブリックビューイングに集まってくれてありがとー!」

「今日ここに来てくれた皆んなの応援はきっと届きマス!」

「私たちみんなで二人に良い配牌とツモが来るようおまじないかけましょうね!」


 裸眼立体ディスプレイに映し出されるのはエルフアイドルのフローラ、サイボーグアイドルP2015、呪い系Vのじゅじゅである。


「二人とも頑張れー!」


 そして客席には明らかに素人離れした元モデルの美人がまだ対局が始まってもいないのにテンションマックスで声を張り上げている。


「あれ、牧村由美じゃね?」

「本当だ。ニコちゃんのファンなんだ」

「後でサイン貰おうかな」

「もう引退してるから声かけるのダメじゃね?」


 などと密かに注目されているのにも本人は気づいていないが、結局サイン会は後ほど開かれることになるのであった。

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