ギャンブルで解決すればいい

「小規模だけどハイレート麻雀大会がある。それに出たらいい」


 ジョーカーがニヤリと笑う。

 真っ赤なリップとあいまって口裂け女のようで不気味だ。


「麻雀ですか……」

「あぁ。そこで勝ってきてくれ。私が君のスポンサーになるから参加費は出そう」


 なるほど。

 そういうことか……。


「スポンサーですか。うまいこと考えましたね」

「そういう形なら気兼ねなく私にお金を払わせてくれるだろう? 君が持ち帰ってきた優勝賞金から2億を返済に充てて、後は私がもらう」


 たしかにそれならジョーカーに対して借りを作ることもないし、誰も損しない。

 私は他人の金で大会に出場できる、リン&エラ姉妹は借金を返せる、ジョーカーは参加費のリスクは負うが私が勝ったら大金を手にできる。


 ……ん? 私だけなんも得してねーな。別にリスクも負ってないけど。まぁ、いいか。


「ふーむ、参加費と賞金はそれぞれ幾らなんですか?」


 ジョーカーは飲めもしないワインをあおって、もったいつけてくる。

 私も入店時に頼んでおいたカフェ・ビーノを飲む"フリ"をする。

 最新のVR味覚センサーを付けると、ちゃんと味のステータスが設定されている食べ物を口にいれたらリアル側でもなんとなく近い味を体感できるらしいが、私は飲食はリアル側だけでいい派だ。

 既にリリース前から問題視されていたが、VR上での飲食で味覚を刺激することでリアルの肉体の食欲が減退し、摂食障害が起こったりという事例が多数出てきている。


「賞金は参加人数によって変動するけど最低10億。参加費は1億だね。2人1組のコンビ打ちだよ」

「コンビ打ちですか……」

「あぁ、私が出てもいいんだが、もっと適任がいるだろ?」


 彼女の言わんとするところはわかる。


「ぴーちゃんに出てもらいますか」

「ふふふ、君とP2015のコンビなら最強と言っても過言ではないね」

「いやー、まぁ期待値上はそうかと思いますけど、囲碁や将棋と違って運が絡みますからね」

「だとしてもさ。これがコンビ打ちというのも大きい。一人だと配牌次第ではどうにもならない展開というのが絶対に出てくるが、二人ならお互いの手牌を推理すれば相互にフォローが可能だからね」


 実際にジョーカーの言う通りだろう。

 麻雀は不完全情報ゲームだ。完璧に相手の手を読むことはできない。だが、推理力で完璧に近い読みを入れることはできる。


 ぶっちゃけ私は麻雀はポーカーより得意だ。

 ネット麻雀では最上位ランクまでいったことがある。


 AIのぴーちゃんと組んで相互に牌を鳴かせあえば、相手が同等の計算能力と推理力を持たない限りはかなり分があるだろう。

 もちろん、天和(配牌時に既に上がりの状態の役満)などもはやどれだけ上手くても避けようのない事態というのは起こりうるわけだが……。


「でも、ぴーちゃん出てくれますかねぇ」

「きっと出てくれるさ」

「アイドルですからね、言っておきますけど」


 ホストクラブの次は合法とはいえハイレート麻雀に連れていくのはけっこう気が引けるんである。

 ぴーちゃんオタとしては。


 しかし――。


『いいですよ。ワタシ、麻雀も得意です』


「出てくれるそうですよ」

「だと思ったよ。勝負は1週間後だ。こんなに期待値が高い10億円勝負なんてそうそうできないからね。今から楽しみで仕方ないよ」

「そう上手くいきますかねぇ」


 私はなんかちょっと嫌な予感がするのであった。

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