私は悔しい

「良い服買えたねー」

「悔しいがマッキーのセンスを認めざるをえまい」

「素直にありがとうって言えよ」


 私は悔しかった。

 どうせマッキーはバカ高いモデル様御用達ブランドで私の財布に壊滅的なダメージを与えてくるものばかりだと思っていた。

 だが、私の好みかつそこそこリーズナブルな価格に抑えてコーディネートしてくれたのである。

 そんなことでいいのか。そんなツッコミどころのない振る舞いをしてマッキーだと言えるのか。


「ありがとう……」

「なんで悔しそうなんだよ!」

「なんかもっと変な服とかバカ高い服とかを選んで、私がツッコむ余地があると思ってたらすごくちゃんと選んでくれたから」

「じゃあ、普通に感謝するでいいじゃん。TJ、言ってること意味わかんないよ」


 わかってもらえなくていい。

 これは私がマッキーに対して抱く歪んだ友情ゆえのやつである。


「TJもたいがい変な子だねー」

「変じゃないわい」


 リンちゃんが言うが、私ほどまっとうな人間などいないのである。

 どいつもこいつも事件を起こして他人に迷惑をかける中、私だけがその事件を解決して平穏をもたらしているのだ。

 それがまっとうでないわけがない。


「マッキー、ありがとね。この服、一生着るー」


 リンちゃんが洋服が入った袋を大事そうに抱える。


「一生は着るなよ。ちゃんと古くなったら新しいの買って」

「でも、せっかくマッキーが選んでくれた服だから……」

「いや、じゃあまた次のバーゲンとかで選んであげるから」

「やったー。でも、そうなったら捨てられない服でクローゼットが爆発しちゃう」

「爆発はせんやろ」私がリンちゃんにツッコむ。


 そうそう、これこれ。

 マッキーが変なことをやらない時はこういう奴がいると実に助かる。

 思わず、地元のノリが出てしまう。


「そういえばさー、OIOIでマルイって読ませるのセンスとんでもないよね。これは読めない」

「あー、あたしも最初「ぜろいちぜろいち」ってなんだろって思った。これ地方出身者あるあるだよねー」

「あれ、二人って地方出身?」


 そういえば、私はこれまで自分の出身地を明かしてこなかった。

 というか、友達なんていなかったし、VR上の藤堂ニコの出身はイギリスである。

 私、イギリスとか行ったことないけど。


「そうだよ」

「うん」

「知らなかった。わたし、東京出身だからマルイは最初からマルイだわ」

「出たよ、都会っ子。リンちゃん、二人で田舎あるある話そ」

「やっぱり、マッキーはちょっと洗練されてるもんね……ちょっと距離感じちゃうよね」

「いやいや、なんかちょっと疎外感与えてくんのやめて。わたし泣いちゃうから」


 マッキーが私とリンちゃんの間に割って入ってくる。


「冗談だよ。でも私は関西出身で親の反対押し切って東京の大学に家出同然で出てきたから」

「あたしも関西だよ」

「ホントに? リンちゃん、方言全然でないね」

「TJもイントネーションは標準語だよね。ツッコミの時はちょっと出るけど。なんか一気に親近感湧いてきたー」

「私もー」

「いいないいな。わたしも今から関西で生まれ直せないかな」

「無茶苦茶言うなよ。あとマッキーは都会が似合うよ」


 なんか急激にリンちゃんへの親近感が湧いてきた。

 これからも仲良くやっていけそうである。

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