解決編 神様の正体(前編)

 私はグリモワールのネオシブヤで西園寺さんと待ち合わせをしている。

 VR上でも渋谷は渋谷という感じでかなり街並みは正確に再現されている点でカブキとはかなり違う。

 歌舞伎町はそのままだと近寄りがたい人もいるだろうということでサイバーパンクアレンジがされているのだろうが、渋谷は逆にそのままの方がVR上でも観光に適しているという運営判断だろう。

 スクランブル交差点はリアルと同じくらい人混みで溢れている。


 私はTJアカウントの姿で忠猫パチニャン像の前で彼女を待つ。

 普段決して近づこうとしない渋谷だが、VR上でもなんとなく苦手なムードが漂っている。

 なんとなくみんな明るく、場違いに感じる。

 今の私は委員長っぽい風貌ということもあって遊びの街に馴染んでいない。


「東城さん?」


 私に話しかけてきたのは……ゴリゴリのギャルだ。

 なんかオーバーサイズのカーディガンに超ミニスカート、ピンク髪派手メイクのこれまでに接して来なかったタイプの人種が目の前にいる。


「え、え? 西園寺……さん?」

「そう、リアルと全然違うっしょ」

「違うけど、まぁ納得。そっちの方が本質なんだよね」


 私がそう言うと照れくさそうに頭を掻いた。


「ありがと。私、平成ギャル文化が好きなんだよね」

「あー、そうなんだ。私、ギャル文化にはあんま詳しくないから、平成がどういう風にカテゴライズされてるのか知らないんだけど」

「ルーズソックスとかね」


 彼女はそう言って、足元を指差す。


「へぇ。まぁ、流石に制服はともかく大学でもそういう風にしとけばいいのに」

「そうしたいのは山々だけど難しいよねー。こういうカッコしてるとさ、文芸サークルとかじゃみんな引いちゃってたぶん誰も相手にしてくれないから。本とか読まなそうじゃん?」

「人は見た目で判断するからねぇ」

「そういうこと。かといって、ビジュアル的にギャル文化が好きなだけで、飲みサーみたいなとこは苦手だし。地味キャラ演じてたんだ」

「でも、マッキーも本読まなそうだけどね。結構読んでるけど」

「そうなんだよね、牧村さん浮いてた。本人は気にしてないと思ってたんだけど、急に辞めるって言い出して焦ったよねー」

「マッキーはコミュ強っぽいけど、実はコミュ障だからね。勝手に浮いて、勝手に傷ついて怒って辞めちゃうんだろうね」

「そんなの全然知らなかった。いっつも一緒にいる子がいるって聞いてさ、まぁ東城さんのことなんだけど。東城さんみたいにしてたら、仲良くしてくれるかなって真似してみたけど全然ダメだったね」

「西園寺さんも人を見た目で判断しちゃってたわけね」

「そうだねー、なんかごめんね」

「いいよ、別に。……あの……その……友達でしょ」

「……うん」


 照れるわ、友達になりたての子に言うの。

 あと、マジで全然キャラ違うじゃん、コイツ。二重人格かよ。


「今度、リアルで会った時はさ、そういう感じでいてよ。なんかこわいから」

「ははは、そだね。もう素でいくよ、大学でも。あたしもサークル辞めようかな。牧村さんもいなくなっちゃったし」

「自分が一番楽しいって思えるところにいるのがいいと思うけどね。でも、その前に神様のことを解決してからだけどね」

「潜入取材でしょ?」

「まぁ潜入取材でもあるんですが、これ以上被害者を出さないためにできることはやるつもり」

「被害者……?」

「西園寺さんはセミナーに参加しただけで具体的な活動にはまだ参加してないの?」

「うん」


 彼女は私の言うことがまだ呑み込めていないらしい。


「そっか……じゃあ、先に説明しておくけど、私はたぶんその神様っていうのを運営や警察に突き出すことになると思う」



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