なになに何の話?

「マッキーは今日なんでこんなところウロウロしてたの? 授業あったっけ?」

「サークル辞めてきた」

「またかよ」

「もうね、記念受験みたいな扱いが嫌になっちゃったのね。今日は最終日だからって行列できてたよ」

「告白の?」

「他になにがあるのよ」


 マッキーは溜息交じりに言った。


「牧村ちゃんってモテるんだねー。そりゃ、そうかリアルでモデルだったんだもんね」


 三橋お姉ちゃんが感心したように言う。

 たしかに元地下アイドルの三橋さんも相当に可愛いがそれでもクラスで一番とか二番とかそういうレベルだ。

 リアルのマッキーは格が違う。

 性格はなんか変だが、見た目はそれこそ同年代で一番二番とかそういう次元だ。

 雑誌とかテレビに出ていたマジもんの芸能人様である。


「そうなんですけど、そのモデルって肩書きに告白してきてない?って思うわけですよ。だって、名前知らないやつまで告白列に並んでるんですよ。そんなのOKなわけなさすぎるじゃないですか」

「私もいっぱい『好き』って言われてきたけど、そういうガチめの告白って感じではなかったな」

「みんなのアイドルですもんね」

「そうそう。誰とも付き合ってないってことに価値を見出してくれてるファンもいるわけだし」


「へー」私にとってはマジもんの他人事である。


 直近で会話らしい会話を交わした男性はぴーちゃんパパの瀬戸教授である。

 付き合うもなにも推しのお父さんだし、年齢的にはもうおじいちゃんに片足突っ込んでた。

 男子の方が多い大学にいるのに、私の周囲だけ女子高みたいである。

 なぜだ。

 そういう世界観なのか? 世界観ってなんだ?


「で、なになに何の話してたの?」


 マッキーのためにもう一回同じ話をする。やさしい三橋お姉さんが。

 最初からもう一回話し直すのはダルいので。


「かくかくしかじかで――」


「あー、はいはい。なるほどなるほど。わたしもさっき聞いたな、それ」

「どこでも流行ってんだね、神様」

「流行ってる……まぁ、流行ってるのかな」


 こういう時にあまり社交的な性質じゃない私の耳にはこうして数少ない友達経由でしか情報が入ってこない。


「というわけで、この名探偵藤堂ニコちゃんが神様の正体とやらを暴いてやろうかと思ってるわけ」

「お、楽しみー」

「みんな喜んでくれるし、やっぱ歌よりこっちでしょ」

「うんうん。でもTJの歌もわたしは好きだけどねー。くくく」


 ――これがデジャブか。


 こいつは完全に半笑いで言っている。


「そうやってバカにする人にはもう聴かせない。一緒にカラオケにも行かないし、なんなら今度歌企画やるときはマッキーのアカウントブロックする。もうこれからご飯もふぁんたすてぃこのみんなと行く」

「ごめんなさい! ホントにバカにしてないから! ごめんね、そんなに怒ると思わなかったの。冗談だよ。わたし、本当にTJの歌かわいいなって思ってるから」


 マッキーが大慌てで言い訳を重ねてくる。

 絶対バカにしてたけど、こんなに必死になられるとちょっと悪いことをしている気がしてくる。

 いや、絶対私の方が傷つくだろ、普通に考えて。

 別に歌をイジられたくらいで傷ついたりしないけど。

 これまでどんだけアンチとかに誹謗中傷されてきたかっつー話ですからね。

 スパチャめっちゃ貰えるし、お金もらってるんだから本心を言えば歌イジられるくらいは全然平気。


「嘘だよ。そんなにショック受けないでよ」

「嘘なの?」

「嘘だよ。バカにしてきたからちょっと仕返ししただけでしょ」

「いやー、焦ったー」

「焦るのこっちだわ」

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