そろそろ名探偵

「いなくなっちゃったんですか?」

「そうなの。ちょっと様子がおかしかったから気にしてたんだけど……」

「心配ですね」

「うん」


 三橋さんとソフィアの表情が曇る。

 私もいつもコメントをくれるファンが急にいなくなったら嫌だ。

 私の独特の歌とかガチ恋がいないことをイジってくるような連中でも大事なのだ。


「その人は神様を見たって言ってたんですか?」

「ハッキリそう言ってたかは記憶が曖昧だけど、確かそんなことは言ってた」


 フローラが言う。


「ふむ……」

「特典会の制限時間ってだいたい1分だから突っ込んだ話って難しいからね」

「ですよねぇ。1回で使えるチェキ券って、2枚までだから最大でも2分しか喋れないのにそんな意味わかんないことに時間使えないっていうのはありますよね。大抵はどういうところがよかったとか可愛かったとかライブの感想を凝縮して伝えておしまいです」

「だから、逆に覚えてたっていうのもあるよね。神様って本当にいるんですね、みたいな言い回しだったかな。それでなんて返せばいいのかちょっと困ってるうちに時間終わっちゃって悪いことしたかなって思ってたの。次はもっといっぱいお喋りするつもりがその日を境に来なくなっちゃったんだけど」


 なるほど。

 私はぴーちゃんにDMを送り、彼女のファンで神様を見たという人について質問するも『現場に来てくれなくなっちゃって、もう話聞けないんです』という返事だった。


 神様を見た人間が姿を消す。

 ますますわけがわからない。


「ちょっと調べてみますか」

「ニコちゃんの推理ショーまた観れるの?」

「まぁ、そういうことになりますかね」


 現状まだ事件というほどのことも起きてないので、推理ショーというよりVR空間内の都市伝説を追う企画ということになりそうだ。


「やったー。私はニコちゃんの最初の事件から追ってる古参なんだよ、ソフィア」

「真琴ちゃんちょいちょい古参マウント取ってくるよね。自分のファンには『古参アピールとかしないでね、みんな仲良くね』とか言うのに」


 ソフィアがフローラ中の人のドヤ顔に呆れている。

 既に新参のソフィアの方が私に推されている気配を感じてのことかもしれない。

 なんだか可哀想になってきた。

 私もぴーちゃんに塩対応されたらちょっと悲しいし。

 いや、でもそのくらいでは別にだな。

 存在やパフォーマンスを尊いと思っているのであって、私自身は一貫して「その他大勢」で構わない派なのだ。

 とはいえ。


「実際、三橋さんは初めて私に声かけてくれた最古参ですからね。私の才能にいち早く気づいたという点では高く評価できます。その最古参の子のファンがわけわかんないこと言って失踪したのです。調べてみますよ」

「ニコちゃん!」

「今の私は東城ですよ」

「そうだった、ごめんなさい」

「別にいいんですけどね」


 そんな話をしていると私は背筋に寒いものを感じた。


「なんで?」


 私はゆっくりと背後を振り返る。


「なんで私は誘われてないの?」

「あら、牧村さんではありませんか。どうなさったの?」

「なによ、その喋り方。みんなで楽しそうにしちゃってさー。いいないいなー」

「面倒くさいやつだなー。たまたまだよ。仲間に入りたいならマッキーも隣座りなよ」


 私は隣の椅子を引いてやる。


「ありがとー。あ、ちょっと私もご飯取ってくる!」


 そう言ってマッキーは荷物を置いて駆けていった。


「仲良さそうでいいなー」


 フローラがそんなことを言ってくるけど、私は「そうかぁ?」って思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る