魂は帰ってくるのか

 私たちはアバター墓場に足を踏み入れた瞬間からその異様さに圧倒された。


「これは……怖すぎる」


 目の前には等間隔で直立不動のアバターが配置されている。

 このゴツゴツとした岩場でできた出島一帯がこうなのだろうか。

 誰も動くことなく一様に海の方を見つめている。

 その数はいかほどであろうか。数えきれない。

 見渡す限りを埋め尽くす死んだ目のアバターは独裁者が支配する国の軍隊や兵馬俑のようだった。

 それらと違うのは全員が課金アバターであり、整った容姿に煌びやかな服装をしていること。


「勿体ないね。すごくお金かかってそうなアバターもあるのに」

「そうだね。私の本アカアバターが何かの事故でここに並ぶと思ったら悲しくなってきちゃった」

「マッキーの本アカは子供っぽい見た目だから悲壮感エグいね」

「うん。大事にしよ。ここの人達の魂、いつか帰ってくるのかな」

「どうだろうね」


 魂……か。別にグリモワールにログインしなかったからといって中の人が亡くなっているとは限らない。

 だが、ここにいるアバター達は既にみんな死んでしまっているかのように見えた。


「ぴーちゃん、いるかな」マッキーが言う。


 いるはずだ。


「でも……いたとして声をかけるかどうかはちょっと考えたいね」

「なんで? そのためにわざわざ探しに来たんでしょ?」

「そうなんだけど、私はまだ何もわかってないからね。ただ、何もわからずに見つけて、声かけて何もわかりません、とは言いにくいかな」

「じゃあ、どうするのさ?」


 どうするのか?


「しばらくはぴーちゃんの様子を見守りながら、なんでここにいるのか、私への依頼の真意はなんなのか。少し推理してから声かけたい」

「ぴーちゃんがこの場所離れちゃったらどうするの?」

「尾行かな。でも、それはない気がする。きっと何か意図があって私をここで待ってるんだよ」

「TJ……ニコちゃんがそう言うなら、そうなのかもね」

「とりあえず、ぴーちゃんに見つからないように探してみよう」

「探しに来たのに今度は隠れるなんてね」

「ま、気づかれたら気づかれたで構わないというか、その時はその時でしょ」


 ここには無限に魂の抜けたアバターが所狭しと並んでいる。

 木を隠すなら森の中ではないが、ただ立っているだけで隠れるなら楽勝だ。


「ん?」


私達は入り口に停まった一台のトラックに気づく。

 トラックの中から人型ではないドラム缶にアームが付いただけのようなロボットが数体出てきた。

 そのアームで直立不動のマネキンのようなアバターを抱えて。


「運営のロボットだね。他人のアバターに触れて移動させられるんだ」

「ホント、マネキン運んでるみたいだね」

「しばらくここに置かれて、いつかアカウントと一緒に消えちゃうんだ」

「ここにいても気が滅入るだけだね。先まで見渡せるように少し高いところ行こうか」


 私達は岩場を登る。

 アバターでも登りきれるような設計になっていて助かった。


「ねぇ、あれ」


 マッキーが海岸の方を指差す。


「うん、あれだね」



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