情報提供、そして――

 そして翌日、私がのんびりベッドでくつろいでいると、DMの通知が来る。 

 早速の情報提供だ。

 目撃情報が幾つか来ているのだが、どれも内容は同じようなものだった。


 ――夢の島スラムかぁ。


 【グリモワール】の中でも治安が最悪とされているエリアだ。

 VR空間から地続きのゲームエリアなどもあるのだが、残虐性が高いゲームのプレイエリアやR18のゾーニングされた商品の店舗、VR風俗、そしてログアウトしないままVR空間に置き去りにされたアバター(死体と呼ばれている)置き場などが隔離されている。


 ちなみに私は怖いから行ったことがない。

 そんなところにぴーちゃんがいるのだという。


「ということらしい、マッキーよ」

「夢の島スラムねぇ。行ったことないなぁ」

「私もよ。ってかさ、昨日も来たのに今日も来るのかよ。暇なの?」


 マッキーは今日も私の家に入り浸っている。


「いいじゃん、TJも暇でしょ? それにお土産も持ってきてるじゃない」

「このお土産は最高であるな」


 マッキーが持ってきたケーキは見た目はアートとしか言いようがない。本当に載っているフルーツが宝石に見えた。

 味も繊細でこれ以上ない完璧な組み合わせだと感じる。単純に甘いとか酸っぱいとか美味しいとかいう語彙では説明できない複雑さを内包していた。

 一個幾らするのか恐ろしくて訊けない。


「たまに差し入れでもらってたのよ。まぁ、モデルやってたからあんまり食べられなかったんだけどね」

「これが楽屋とかにあるのにちょっとしか食べられないの拷問じゃない」

「そうなのよ。で、久々に食べたいなって思ったんだけど、せっかくだから食べさせてあげようと思って」

「また買ってきて」


 私はこのケーキの虜になってしまった。

 なんならマッキーは来なくていいから、ケーキだけ毎日来てほしい。


「高いから毎回は買ってこないけど、たまには買ってきてあげるよ。で、話戻すけど、夢の島スラムにぴーちゃんいるんでしょ? どうするの?」


 私はちょっと悩んでいた。

 もう少し情報を集めてもいいかと思っていたのだが……。


「行こうかな、スラム」

「大丈夫?」

「もちろん、サブアカの方ね」

「なんかあそこってアバター盗られたりするって噂だもんね」

「技術的には不可能なはずなんだけど、アバターのデータ譲らざるをえないような脅迫をする連中が根城にしてたりするんだろうね」


【グリモワール】ではデータの改竄などはできないが、なにかしらの手段でアカウントを乗っ取ったりという犯罪行為は横行している。

 さすがにそこにニコちゃんの姿で行く気はしない。


「危ないからマッキーは待ってなよ。金髪ロリに何かあったら大変だからね」

「使い捨てのアカウントでついていくよ」

「ま、それならいいか」

「じゃ、すぐ作っちゃうね」


 ――マッキーが捨てアカ作ってる間に飲み物でも持ってくるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る