なんか面倒くさいやつが出てきた

「なんかTJの推し、怪盗にイジられてたじゃん」

「あー、そうね。なんか言ってたね」


 マッキーと二人で講義の後に学食でダラダラしていた時に唐突にその話題を振られた。


「あ、観てた? 大林大樹の暴露回」

「一応ね、途中まで見せられてちょっと気になってたし。でもなんかニコをライバル視してるとかいう話始めたときに観るのやめた」

「なんで?」


 マッキーが心底驚いた風に尋ねてくる。


 ――なんで? って言われてもなぁ。


「なんかもう観なくていいかなって。あの後なんか面白いこと言ってたの?」

「ニコちゃんに対決申し込むとかって言ってたよ」

「へー、でもニコは無視しそうだけどね」


 ――ってか、無視するし。しそうとかじゃなくて、確定で。


 なぜ私があんな面倒くさいナルシスト女の相手をしなくてはならないのか。

 そんな奴はマッキーだけで十分である。

 別に相手をしても何もいいことなさそうだ。


「えー、でも探偵バーサス怪盗とか面白そうじゃん。ロマンじゃん」

「知らんけど」

「なんかあんまりハマってないね、TJ」

「うーん、そうね。あんま好きじゃなかった。ニコの話する前からなんか嫌な感じしたよ」

「ニコ推しだもんねぇ。ニコちゃんのライバルとか言われたらやっぱり面白くないもん?」

「推しってほどじゃないけどね」

「出たよ、頑なに認めないやつ」

「だから本当にちょっと観てる程度なんだって。ぴーちゃんとフローラは推してる。それは認める」

「地下アイドルはハマってるんだ?」


 ライブは結構行くようになった。もちろん、新しく作ったメガネっ子サブアカの方でではあるが。

 そしてあくまでTJとして振舞っており、ニコと同一人物であることはフローラにも告げていない。たまにニコの姿でも行くのだが、自分の知名度を利用してちやほやされようとしていると他のファンに思われたくないので基本はサブアカだ。


「よく観てるよ」

「VRでライブとか行ってる?」

「行ってる行ってる。そういえば私もアカウント作ったのよ」


 私は自分のサブアバターを彼女に見せる。

 黒髪ロング黒縁メガネの真面目っこアバターをスマホに表示させる。


「お、いいじゃんいいじゃん。知的な感じ。また一緒に行こうよ」

「いいよー」

「地下ってすぐに認知もらえるでしょ?」

「そうね。2回目でもうステージの上から指さしてもらったり、手振ってもらったりして、特典会でも『TJちゃん、いつも来てくれてありがとう』って言ってもらえる」

「嬉しいよねー。でも売れて箱が大きくなると特典会とかやらなくなっちゃってつまんなくなって、また次の新人探すようになっちゃうのよ」

「私はぴーちゃんは引退するまで推し続けるけどね。どれだけビッグになっても」

「フローラも引退まで推してあげなさいよ」


 そして、Vの話はそこで終わったのだが、ルパンが私になにかしら仕掛けてくるらしいというのは無視すると決めていても心の奥底に澱のようなものとして残り続けた。

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