他人の秘密は極上のエンターテイメント

「皆さん、お楽しみいただけたかな?」


 怪盗系Vtuber有瀬ルパンが大げさに両手を広げ、視聴者たちに語りかける。


 楽しいものかよ、と私は思わず口に出してしまう。人間が人間でなくなり、ただの快楽で中身を満たした肉塊となるサマを見せられて愉快な気分でいられるわけがない。


「大林大樹は通称サファイアと呼ばれる違法薬物の常習犯だったらしい。若手の女優やモデルに仕事を回すとかうまいことを言って呼び出し、一緒にドラッグを使わせて依存させるというのが手口だったようだよ」


 ルパンはまるで映画の解説でもするかのように語り続ける。


「サファイアというのはそれ自体でもかなり強力な薬物なんだが、視力や感覚が研ぎ澄まされVRへの没入感が爆発的に高まるという点でVRとの相性が抜群らしいね」


 今のままでもかなりの没入感だと思うが、先程の映像を観るに、おそらく現実とVRの区別がつかなくなるほどなのだろう。


「ドラッグと相性がいいVR映像データはダークウェブで販売されているみたいだね。ちなみに今回はチャンネルが凍結されたりBANされるのを避けたり、なにより視聴者のみんなの心を守るために出しはしなかったんだが、彼が新人モデルにドラッグを無理やり注射した後にホラー映画を観せた映像もある。彼女は恐怖で発狂してしまったようだよ」


 コメント欄は凄まじいスピードで流れていく。とても目で追うことはできない。

 スパチャの金額も相当なもののようだ。

 大林大樹のイメージダウンは相当なものだ。表のメディアには戻ってこられないかもしれない。


「さて……彼はどうやら逮捕されるようだ。通報してくれたみんなご協力ありがとう」


 彼女は一つ伸びをして、再び話し始める。


「せっかくだからこのまま少し雑談配信でもしようか。他人の秘密というのは極上のエンターテイメントだよね、みんなもそう思うだろ?」


 なんだか、とても嫌な感じがする。

 まるで私に向けて言っているような。


「ボクは思うんだよ。他人の秘密を暴いて、お金を稼ぐというのはまるで盗みのようだってね」


 果たして本当にそうだろうか?


「ボクは自身の悪に自覚的だからね。こうして怪盗スタイルでやってるんだが……世の中にはどうやら善人ぶって他人の秘密を暴いているやつがいるらしい」


 ――ふーん、そんな奴もいるんだなぁ。


「探偵Vtuber藤堂ニコというらしい」


 ――え? 私? まぁ、半分くらいそうかなって思ってたけどね。


「いつか彼女とは一度膝をつきあわせて話してみたいと思ってるんだ。ボクは彼女をライバルだと思っているからね」


 ――へぇ。そっすか。


 私はタブレットの電源を落としてしまった。

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