呪いが解けた後――

「あー、疲れた。あー、しんど」


 私はVRヘッドセットを外して、ベッドに転がった。

 なんとか息も絶え絶えの報告動画を上げたところだ。

 

 今回もめちゃくちゃ炎上すると思って覚悟を決めていたのだが、予想外にも私は褒められていた。

 自分のごく僅かなファンにも呪井じゅじゅのファンにもじゅじゅが消してしまったもう一人――正確には10人――のVのファンたちにも今回のことは好意的に受け入れられた。


 私にスパチャを投げてくれたじゅじゅのファンもけっこういる。


[じゅじゅを解放してくれてありがとう]

[ナイス推理]

[アンチだったけど、ファンになったわ]

[《¥2525》]

[《¥2525》]

[《¥2525》]

[《¥2525》]

[《¥2525》]


【スズキ】[《¥25000》ありがとう]


 ――私の推理力も捨てたもんじゃないね。


 ふと気が付くと一件のDMが届いている。


【スズキことサトー】

『約束のスパチャ投げたけど、気づいてくれただろうか? 本当にありがとう』


 私はスパチャのお礼と気になっていることを質問することにした。


『いえ、私も気になっていたことなので。じゅじゅ本人にもファンの方にも、あとサトーさん……まぁ、もうスズキさんでいいですか。喜んでもらえてよかったです。でも、スズキさんが好きだった平和ナオちゃんって中身はじゅじゅだったわけだけど……どうするんですか?』


 送るとほんの一分足らずで返事が返ってきた。

 彼も端末の前にいるようだ。だが通話をする気は起きないので、このままテキストでのやりとりを続行する。


【スズキことサトー】

『それに気付けなかったのは恥ずかしいと思っている。じゅじゅの動画を観直したんだ。たしかに言い回しとか笑い方の癖とかナオちゃんの面影を感じたんだ。だから……じゅじゅを推したいと思ってるけど、罵声を浴びせた俺にはそんな資格ないよな』


『推すかどうかはスズキさんの気持ち次第だと思いますよ。じゅじゅだって嘘を吐いてたわけですし、許してくれるんじゃないですか。別にじゅじゅはスズキさんがサトーさんだって知らないわけですし』


【スズキことサトー】

『いや流石にあのことを隠して推すことはできないから謝りたい。どうやったら謝れるかな。スパチャ付けてコメントっておかしいよな』


『お金と一緒に謝られてもっていうのはありますよね。私が転送しましょうか?』


【スズキことサトー】

『最後の最後まで面倒かけてすまない』


『いいですよ。乗りかかった船なんで。仲裁料は追加で25000円スパチャでいいです。なんてね、嘘ですよ。ここまで無料サービスにしておきます』


【スズキことサトー】

『ありがとう』


     ※


 この後、私を仲介してどんなやりとりがあったか詳細は割愛するが、スズキことサトーは今は楽しく呪井じゅじゅを推している。


 ――いや、私のことも推せよ。

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