逆転の発想

 私は平和ナオと呪井じゅじゅの麻雀対決を観た。

 結果的に負けた方はVとしての命を落とすことになる死のゲームだったわけだが、対決動画自体はどこにでもある和気藹々としたコラボ動画だった。

 トークは正直ぎこちなく、なんというか間が悪いやりとりで、麻雀の内容とは特に関係ない――イカサマ防止のため当然だが――ものでわざわざ麻雀をする意味があるのか首を傾げたくなるようなものだったが、このナオちゃんが引退するきっかけになったとは到底思えない。


「別にこのコラボそれ自体が引退の原因ではなさそうですね。私、麻雀に詳しくないですがじゅじゅもナオちゃんを執拗に狙うとかダーティなプレイをしたわけでもないですし」

「そうなんだよな」

「まぁ、面白くはなかったですが」

「じゅじゅって暗くてトークは面白くないからな。今はコラボ相手が引退する呪いが話題でちょっと人気出てきてるけど、この噂が出るまでは本当にパッとしなかったんだ」

「そうなんですか? けっこう可愛いですけどね」

「可愛いだけのVなんかいくらでもいるだろ」


 それは一理ある。

 さっき会ったエルフのお姉さんもキャラ被りが多くて目立つのが難しいと言っていた。


「ナオちゃんは違ったんですか?」

「ナオは違った。たしかにまだ上手くなかったしミスもあったが真摯に麻雀に取り組んでいたし、俺たちファン一人一人のことを大事にしてくれてたんだ」

「まぁ、ファンが少ないうちは……」

「わかってるよ。人気者になったら離れていっちゃうってのは。俺みたいなのの名前も忘れちまうかもしれない。でも、そこまで一緒にがんばって押し上げるっていうのは大事な思い出になるだろ」


 牧村さんもそんなようなことを言っていた。

 私のファンもそう思ってくれているのだろうか。


「そうかもしれませんね」

「でも、じゅじゅはその未来を奪ったんだ」

「最初から決めつけてますけど、じゅじゅがやったって根拠があまりにも少なすぎると思うんですよね」


 私はどう考えても呪井じゅじゅがコラボ相手を呪って引退に追い込んでいるとは思えなかった。

 非科学的だし彼女は炎上して目立つ以外にメリットがない。


「いや、状況証拠が揃い過ぎてるんだよ」

「状況証拠ですか……?」

「コラボ相手がかれこれ10人も引退してるんだぞ。おかしいだろ」

「10人はたしかに多いですけど……どういう人たちだったんですか? ナオちゃんは急にいなくなったみたいですけど、残りの9人も引退を匂わせるようなことがなかったのにじゅじゅとコラボした瞬間にいなくなったんですか?」


 私はここまで自分で話していて、ふと逆転の発想で考えてみると違う真実が見えてきそうな気がした。


「これがじゅじゅと絡んだ後に引退した10人だ。チャンネルや動画はもう消えてしまっているがSNSで調べたところ引退はなんの前触れもなかったらしい」


 男が画面に引退したVの一覧を表示する。

 私はその一覧を記録する。


「確信は持てないんですが……じゅじゅサイドではなく、こちらの引退した人たちの方を調べて共通点が見つかれば、何が起こっていたのか――真実が見えてくるかもしれません」

「そうなのか?」

「いえ、まだはっきりと言語化できるところまで考えがまとまっているわけではないんですが……ちょっと調べるので時間をください。あぁ、でも多分その身体は今日限りとかですよね。じゃあ、私のチャンネルとか観てもらえれば」

「もし何かわかったらここに連絡をくれ。俺の本体の連絡先だ」

「いいんですか?」

「俺は真実が知りたい」


 なんとなく行きがかり上、呪井じゅじゅについて本格的に調べることになってしまった。

 だが、本当に何か一つの閃きで真実にたどり着けそうな気がする。


「もし私が真実にたどり着けたら……スパチャ25000円投げてください」

「あぁ、わかった……でも25000円でいいのか? もっと払ってもいいんだが」

「いいですよ。25000で。多分、真実を明らかにしたらまた死ぬほど炎上して再生数は稼げますからね」


 お互いに笑っていいのかどうか微妙な感じになってしまった。

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