【改稿】異世界ドラゴンヒーロー戦記 ~龍の巨人になるのはいいけど、美少女お姫様達に囲まれたいと誰が言った!?~
金時める
【改稿版】第一部
1. 龍人誕生(飛牛巨獣ヒギュードン 登場)
第1話 ヒーロー願望
ヒーローなんていない。
二十五年ばかりの俺の人生で、たった一つ見出せた教訓がそれだった。
弱者は救われないし、戦争もなくならない。ブラック企業のイヤミ上司すら、誰も咎めてくれやしない。
俺だって何者にもなれないまま。将棋の飛車にちなんで「
二流大学を出て、流れで入った中小企業に三年目。「とりあえず三年」の三年が過ぎたけど、転職できる勇気もなし。彼女もなし、貯金もなし、このままブラック企業に食い潰されて疲弊していくのが俺の人生なのか――
そう思っていた。目の前でトラックに轢かれそうな子猫を目にする、その時までは。
子供の頃に見たヒーロー番組の主人公。命をなげうって子供を助け、その勇気を認められて宇宙の超人と一体化した彼の姿が、脳裏にフラッシュバックして。
気付けば俺は、猫を助けにトラックの前に飛び込んでいた。
龍になれなくても。ヒーローになれなくても。
せめて小さな英雄になりたかった。
***
「もしもーし。
雲の中に寝ているような不思議な浮遊感。どこか間延びした声に呼ばれて
西洋人っぽい金色の髪と青い眼に、ギリシャだかローマだかの女神を思わせる白い衣装。これが死後のお迎えってやつか、と思った矢先、その女が安堵した顔で口を開く。
「あぁ、よかった。魂は無事でしたね、飛成さん」
「……俺、死んだんじゃ?」
聞き返しつつ、
服装は元のスーツのままで、体も見た感じ傷一つないけど。でも、確かにトラックに
周囲は見渡す限り純白の世界。ここが天国ってやつなのか。
「ええ、立派な死にざまでしたよ。猫ちゃんを助けた代わりにトラックでグッチャグチャになって。映像見ます?」
「いや、見ないけど」
反射的に突っ込むと、ギリシャ・ローマ風の彼女は「えー」と口をとがらせた。
「見ないんですか? まさに英雄的、ヒーロー的、スペーシアン的な最期だったのに」
「スペーシアンって。通じるの?」
「モチロン。あなたの世界のヒーロー物はこっちでも人気ですからね。あ、こっちって、天上界のことですけど」
「天上界と来たよ。じゃあアンタ、女神か何か?」
「女神っていうか、天国テレビの者です」
「天国テレビ」
「あなたみたいに不慮の事故で死んじゃった人を別世界に送り込んで、そこでの活躍をドキュメンタリーにしてるんですよ。あなたの世界のラノベやアニメでも、そういうお話よくあるでしょ?」
「いや、俺は特撮ヒーロー専門だから二次元はあんまり……」
「それですっ!」
女神改め天国テレビのクルーとやらが、いきなりビシッと俺を指差してくる。
「な、なに」
「時代はヒーロー物ですよ。最近、転移・転生もマンネリしてて、オーソドックスな勇者だの魔法使いだのじゃ視聴率が取れなくなってきてるんですよね」
「視聴率……」
「だから、ヒーロー願望のある人が、英雄的死を遂げてくれるのを待ってたんですよ。しかも飛成さん、龍に成りたい願望もあったんでしょ?」
「いや、それは願望っていうか、親が名前に込めた意味っていうか」
「そんなあなたのヒーロー願望とドラゴン願望を両方叶えられる、お
「ドラゴン願望は別に……」
俺の言葉を華麗にスルーして、彼女はパチンと指を鳴らす。
どこからともなく現れた大スクリーンに映し出されたのは、闇夜の中、大地を踏みしめ咆哮を上げる真紅のドラゴンの姿だった。
「おぉ……」
怪獣映画さながらの光景に、俺は思わず目を見張る。
ドラゴンは何物かと戦っているらしかった。月明かりに照らされるもう一つの巨体の影が、山の木々を
ドラゴンが巨大な翼を広げて空に逃れようとしたとき、敵の巨体もまた宙に舞い上がり、ドラゴンの腹部に強烈な頭突きを食らわせていた。
噴水のような鮮血が噴き出し、苦しげな咆哮とともに、巨龍の体が大地に叩きつけられる。
「おいおい、いきなりドラゴンやられてんじゃん」
俺が言うと、傍らの彼女は「ええ」と神妙な面持ちで答えた。
「あのドラゴンは、長きにわたってあの世界を守ってきた
「それってヤバイんじゃないの!?」
「ヤバイですよ。あのドラゴンを、いえ、あの世界を救えるのはあなただけです」
「えっ、俺!?」
「右手を出して、飛成さん」
言われるがままに差し出した右手首に、彼女がそっと触れてくる。ドキッとした次の瞬間、かっと熱い光が
「何これ?」
「この
「二つの命……って、えっ、俺とあのドラゴン!?」
スクリーンを見れば、敵の獣の前足で何度も踏みつけられ、巨龍は息も絶え絶えだった。
女神もといテレビクルーがもう一度指を鳴らすと、スクリーンとの間に光の輪のようなゲートが現れる。ブレスレットを通じて、どくん、と巨大な脈動が俺の体を揺らした。
「あのドラゴンと一体化して、あなたは龍の巨人になるんです」
「いや、待って待って、心の準備とかそういうのが――」
「ヒーローになりたかったんでしょ。しっかり頑張ってくださいね、飛成さん!」
どん、と彼女に背中を押され、俺はなすすべもなく光のゲートに叩き込まれる。
どこまでも果てしなく落ちていく感覚に続いて、俺の体は炎のような熱さに包まれた。
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