夜ノ華

登魚鮭介

第1話 助けたのは妖。

 夕方、大学の部室で帰宅時間を過ぎても、トレーニングをする一人の男の姿があった。

 男の名は新垣浄斗。筋トレが趣味の一般大学生だ。整った顔立ちをしており、筋肉質な体を持ち合わせているので、女子人気は高い。


「新垣くんて、本当にイケメンだよねー」

「ねー。マジで付き合ってくれないかなー」

「え、でも、噂だけど、彼女いるみたいな聞いたことあるよー?」

「え、マジか。噂でもショックだわ」


 部室の前を通り過ぎる女子大生がそんな会話をしながら通り過ぎる。

 あと1セットで終わろう。

 冷房の涼しいかぜと、自分の汗の匂い。


「ふぅー」


 疲れた。スーパーに寄って帰るか。

 夏の夜の少し暑さが残る風を浴びながら、大学の門をくぐる。


「あ、あの。先輩!これ、もらってくれませんか!」


 門をくぐり、そのまま行こうとした所を、面識のない女子生徒から声を掛けられた。

 よくみると、大事そうに手紙を握っている。


「えっと、どこかでお会いしましっけ......?人違いじゃ......」

「いや、あの......その......。先輩を一目見た時から......。その......なんていうんですか......?取り敢えず、気になってしまって......」

「いやあの本当に、人違いじゃないですか......?」


 女子生徒は持っていた手紙を無理やり、新垣に押し付けて、すごい量の涙を浮かべて、化粧をぐちゃぐちゃにしながら走り去っていった。

 新垣は「?」という顔をして、立っている。


「おい!浄斗!なにやってんだよ!」

「え?」

「その手紙は!?早く開けろよ!あの子泣きながら走ってったぞ!」

「え、これ?悪口とかの手紙じゃないの?」

「わざわざそんな手紙を手渡しするヤツがどこにいる!?しかもあの子、門の前でまってたじゃねぇか!」


 そうは言われたが、新垣からすれば面識のない人に急に手紙を渡されたというのは、不審な行為でしかないのだ。

 何もわからないまま、スーパーに寄って食材等を買い、家に帰った。

 その時、店内で流れていたラジオでこんな事が流れた。

 最近、変死体や急な失踪事件が連発している。

 被害者の身元や、個人情報については分からない事が多く、捜査が難航しており、何か知っている情報があれば、どんな些細なものでもいいので、至急警察まで連絡しろとの事だった。

 しかし、家に帰っている途中、新垣は美女が倒れているのを見つけた。

 美女は着物を着ており、倒れている割には、汚れや掠れが全くなく、まるでそこに召喚されたかの様に倒れていた。


「あ、あのー。大丈夫ですか?」

「ここが人間界か」

「え?」

「おまえ、使えそうだな」


 新垣は心配になり恐る恐る声を掛けた。

 だが、返ってきた声は張りがあり、どこか威圧を感じさせる声をしている。

 倒れていたとは思えないほど、ピンピンしていた。


「へ?なんのことですか?取り敢えず警察か、病院に行きましょう。倒れていたんですから」

「その必要はない」

「え?」

「おまえの家に連れて行け」

「どういうことですか?ま、まぁいいですけど」


 出会ったばかりの倒れていた女性を家に連れて行くのは気が引けたが、有無を言わせぬ空気を纏っていたので、やむを得ず新垣は美女を自分のアパートに案内した。

 そして、新垣のアパートに着くやいなや、その美女はいきなりこう語り出した。


「私は華格院げかくいんあやかしの最上級、四大妖の一番上だ」

「な、なるほど......?」

「知っているか?最近連発している怪事件の真相を」

「いえ......。知らないです......」

「なら教えてやろう。あれは全て、妖の仕業だ。全て私以外の四大妖が、低俗な三下共に命令してやらせている」

「は、はぁ?で、どうなるんです?」

「やがては、百鬼夜號で日本の総人口の約半分が死ぬだろうな」

「そんな!警察に情報提供しなきゃ!」

「待て。こんな非現実的な事を言って、警察が信じると思うか?」

「そうですけど......。でも、スーパーのラジオで言ってたんですよ!」

「黙れ」


 新垣は、華格院の覇気に気を押されて黙った。


「今日はもう寝ろ。明日の朝の3時から、ある場所に行く」

「えぇ!?まだ夜の八時ですよ!?いくらなんでも寝るのには早すぎるお思うんですが!?」

「うるさい。黙れ」


 新垣は再び黙った。


「おまえには私に無理矢理にでも協力してもらう」


 華格院はドスを効かせた声でそう言った。


「拒否するなら、無理矢理にでも肉体関係を持ち、警察に『レイプされた』と、出頭してやっても良いんだぞ?」


 新垣は完全に降参し、大人しくベッドに横になった。


「床は硬いから、横を借りるぞ」


 華格院は新垣の横に寝た。

 新垣からすれば今日会ったばかりの女性が横に寝ているので気が気ではなかったが、仕方なかったのでそのまま何も言わなかった。


「変な気を起こした瞬間殺すからな」

「絶対起こさないんで大丈夫です」


 二人は眠りに落ちた。


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