第2話 人間モテすぎるのも苦になるみたいだ。
鈴葉が脱ぎ捨てた靴を揃えた後、鈴葉はジャージを出しに洗面所に行き、俺は食卓に戻り席に座った。
今日もかと思いつつ、俺は頭を抱える。
如何せん、俺は告白何て受けた事は無い。
だから鈴葉には申し訳ないが、アドバイスも慰めてあげる事も出来ない。
一緒に過ごし、少しでもストレスを軽くしてあげる。
それが俺に出来る事だ。
今日は着替えずにそのまま学校から出て来たのか、鈴葉の服装はジャージのままだった。
多分、ジャージバックに入っていたのは制服。
またヨレヨレになっていると思うから、後でアイロンだな。
「どうした」
「お兄ちゃんも見てたでしょ、他クラスの子に急に話しかけられて別室で告白。もう、うんざり」
「可愛いとかカッコいいって思われてる証拠じゃん」
「別に、私にはそんなの関係無いし。私はただ、好きな事さえ出来れば良いのにさ、『付き合ってください』だの『バレーしてる姿がカッコ良くて、惚れちゃいました』だの正直だるい」
まあ、そうだよな。
これが一回とか二回なら『私、モテてたんだ……』で済むかもしれないが、鈴葉は入学してから男女問わず6回ほど告白を受けている。
もっと受けてるかもしれないが、俺に相談してきたのは今日で7回目。
メンタル的にもそろそろ限界か。
「ほんと面倒臭い。何なの恋愛って、付き合ったら何になるのかさっぱり」
「そうだな、俺もそれは分かる。俺は恋愛するんだったら、鈴葉とこうやって話してたりゲームしてた方がマシだわ」
「お兄ちゃん、分かってるじゃん」
「だろ?それで今日もするか、配信」
「あたりめぇだろ!」
鈴葉は嬉しかったのかバクバクと炒飯と中華スープを食べ「私、風呂入って来る!」と言い食器も片付けずに風呂場に行ってしまった。
ほんとだらしない。
でも、俺の中でこれが普通になってしまっているのだから、これでも良いと思ってしまう。
もっと、教育しないとな。
さて、話の中に出ていた配信についてだが。
高校に入学して少しした時、プログラミングの授業があるからパソコンが欲しいと親にねだった。
両親は将来のためならと許可を出してくれて、二人してスペックの高いゲーミングパソコンを買ってもらった。
まあ、そっからは想像通りプログラミングを勉強することなくスペックが高いのでどんなゲームでも出来てしまう、だから二人してゲームの沼にはまってしまった。
そして俺と鈴葉が行きついたのが『HEROX』というFPS。
三人一チームで一マッチ60人、つまり20パーティで敵を倒し合う。
約20種類のオリジナルキャラクターが登場し、キャラ一人一人に特別なスキルがあり、そのスキルやアビリティを駆使して戦っていくというゲームだ。
そして、ただの銃の撃ち合いではなくスキルを上手いように使えば、形勢逆転も狙えるのがこのゲームの面白い所。
そして配信についてだが、パソコンを買ってもらったと同時に鈴葉と話し合い、配信の仕方を研究。
【義兄妹のゲームチャンネル】という安直なチャンネル名にし、いざデビューしてみたのだが。
なぜか上手いように行き、昨日は同時接続数2000人という過去最多の記録を叩き出した。
一週間ほど前にデビューしたのにも関わらず、俺のチャンネル登録者数は1万人を超えた。
因みにだが、配信は個人でのチャンネルでやっており、先ほど説明した【義兄妹のゲームチャンネル】では配信上で良かった場面や面白かった場面を切り抜き、鈴葉が空き時間を利用して投稿している。
そして鈴葉のチャンネル登録者数は2万人と俺の倍だ。
普通に凄い。
そしてゲームの腕前だが、これも中々良いほうだと思う。
このHEROXにはランクマッチというものが存在していて下から順にブロンズ、シルバー、ゴールデン、プラチナム、ダイアモンド、マスター、エクシャスという順でランク付けされている。
このエクシャスというランクはマスターの中でも上位千人に入らなければいけないもので、エクシャスの人は大体強い。
そして今の俺たちのランクはダイアモンド、しかもあと300ポイントほどでマスターに行けそうなとこまで来た。
初めてFPSをやり、そして初めて一カ月ほどでここまで来られるのはかなり凄いらしい。
これは視聴者に教えてもらったことだが。
配信の話もこんなとこにして、俺は炒飯を食べ終え鈴葉が置いて行った皿と自分の皿を台所に持って行き、そのまま皿洗いに移った。
昨日の配信も面白かったが、今日はどんな風になるのか楽しみだ。
しかし、明日あたりは休みにしないと鈴葉の体が心配だ。
~~~
食器を洗い終え、俺はスマホをいじっていた。
友達も出来ていないため、スマホで誰かとやり取りもしない。
そんな中、俺の連絡用アプリ「LIMU」から通知が来た。
まあ、前に登録した公式LIMUか何かだろうと思いLIMUを開いてみると『ジナイダこと山之内』という意味の分からない人に追加されていた。
トーク画面を開いてみると謎の生物のスタンプが送られてきていたので、迷惑LIMUだと思い俺はブロックした。
鈴葉が風呂からあがった。
サラサラなショートボブが丁度いい感じに濡れていて、大人な感じが出ている。
ドライヤーで乾かすのを忘れているのか知らないが、タオルでそのままびしょびしょの髪を拭いていた。
せっかくの髪の毛がとも思ったが、そういうわけではないらしい。
「お兄ちゃん、ドライヤーやって」
んーむ、最近は自分でやるようになっていたんだが、甘えたい時期に突入したんですかね。
まあ、別に暇だしなんでも良いけど。
「ああ、良いよ。脱衣所行くか」
「嫌がらずに引き受けてくれるお兄ちゃん、好き!」
「そうか、良かった」
別に好きなんて言われても何も心は揺るがない。
まあ、流石に抱き着かれたりそれ以上の事をされたら多分揺らぐと思うけど。
なんでも良い、ほんと。
一緒に過ごすことが出来れば。
脱衣所に行き、ドライヤーを点けて適切な温度で鈴葉の髪を乾かす。
こうやって髪を乾かしてあげるのも中学生振りか。
余韻に浸っていると鈴葉が話しかけてきた。
「お兄ちゃんさ、高体連見に来れる?」
「いつだ?」
「来週の日曜日、私的には見に来てくれると頑張れる」
「日曜か、暇なら見に行くよ」
「えー、いつでも暇でしょ?」
「俺はニートじゃないんだ、お前や母さんの服を洗濯したり家の掃除だってしなきゃいけないんだ」
「ぶー、それでも時間作ってよ」
「分かった、作るから」
「やったー!」
ふふっ、やはり鈴葉と話すと嫌な気持ち一つ無く、楽しく話せる。
俺の学校での会話なんてほとんど挨拶とお礼くらい。
それも席替えする前までは鈴葉が前の席だったが、今は席替えをして向島さんという女子。
特に接点も無いので、話すことはないからな。
髪を乾かし終え、俺は風呂に入る準備をする。
鈴葉は「ゲームしたい!」と言っていたので、配信の準備をしておくように言い俺は風呂に入った。
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風呂に浸かりながら俺は思う、よく一カ月間誰にもこの関係がバレなかったと。
危うい時もあった、例えば席替え前「鈴葉ちゃんって、伊藤くんと兄妹?」と半笑いで聞かれてた時は流石に吹きそうになった。
真面目に聞かれているのなら鈴葉が「いや、全然」と言って回避できた。
しかし、半笑いな事によってもしかしたら勘付いて聞いてきているのか?と錯覚してしまって、本当に危なかった。
因みに鈴葉にはそういう風に聞かれたら否定するように伝えてある。
そして誤発お兄ちゃんを回避するために、なるべく関わらないようにしている。
言い聞かせるのが大変だったが、家では多少甘えても良いと伝えたらなんとかなった。
風呂から上がり、部屋着に着替えた。
俺は鈴葉の制服を取り出してアイロンをかけた後、鈴葉の部屋に向かった。
「準備できたのか?」
「あ、もう遅い!」
「悪い、アイロンかけてた」
「もう出来てるよ、早くやろ!」
「ああ、分かった」
「全員ブチブチにブチしてやるぜぇ!」
鈴葉が部屋に消えて行ったので、俺も自室に入った。
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