クラスのお前らは知らないだろう。男女問わずモテるクール系美少女が、家では俺の義妹で屈指のゲーマーで俺の助けがないと生きていけないという事を。
竜田優乃
第1話 とにかく俺はバレたくない。
帰りのHRが終わり、クラスメイトは帰宅の準備をしている。
この感じ、一か月も過ごせば慣れたものだ。
俺の名前は
いわゆるボッチだ。
そして急に俺の話をするが、俺はこの伊藤という苗字に感謝している。
なぜかと言うとな、クラスの皆には知られていないが俺には同い年の義妹がいる。
義妹って言うのは血の繋がってない妹の事で、どうしてこんな話をするのかというと――
「あ、鈴葉ちゃん……ちょっと話があるんだけど……」
「どうしたの?」
「あっ、えっと……ちょっとこっち来て……」
またかと思ってしまう。
今、目の前で話をしていた二人の女子生徒。
話しかけていたのは他クラスの女子で名前は確か、山内さんだったはず。
そして、話しかけられていたの女子は先ほど話題に出した義妹、
鈴葉は俺みたいなボッチと違って友達が沢山いる。
一部ではクール系女子やボーイッシュと呼ばれていて人気も高く、告白もされるらしい。
あ、男子だけじゃなくて女子からも告白されるらしい。
きっとさっきのも告白なのだろう。
俺は気の毒だと思いつつ、教室を出た。
特に挨拶を交わす友人も居ないし、一緒に帰る人もいない。
「義妹と帰れば良いじゃん!」って言うかもしれないが、鈴葉はバレー部に所属している。
一方で俺は帰宅部、運動はあまり得意ではないのだ。
さて、なぜ俺が伊藤という苗字に感謝しているかだったな。
まず初めに伊藤という苗字の人はこの日本におよそ100万人いる。
そして伊藤さんが100万人いる事によって、担任には兄妹という事は知られているがクラスメイトからしたら「確かに苗字は同じだけど、顔似てないし全然喋らないから兄妹じゃない」という感じになっていて、兄妹だと思われない。
そしてなぜ俺が兄妹という関係を隠したいかというと、まず年齢。
普通に考えて双子ではないのに同い年で兄妹となるといちいち関係を説明しないといけない。
俺と鈴葉が双子でもないのになぜ兄妹かというと、俺が生まれて間もない頃に母が死んだ。
母は体が弱い方で、俺を生むときも体調があまり良くなかったらしい。
それでも頑張って俺を生んだが、俺を生んだ数日後に体調悪化によって死んでしまったとのこと。
それこそ父は悲しんだが、母の死に際「もし私が死んだら、この子を立派な子に育てて欲しい」と言っていたそうだ。
母との約束を守るために、父は仕事をしながら乳幼児の世話の仕方などを調べたり、教育実習に行ったりしていたらしい。
そして教育実習に行く中、出会ったのが今の母親であり鈴葉の実の親。
名前は
明美さんも鈴葉を生み、幸せ絶頂期だった時に夫を事故で亡くしたという。
聞いた話だが、当時は相当病んでしまい幼い鈴葉にも当たりそうなったんだとか。
それでも鈴葉の泣き声を聞くと、もっと心が痛んでしまいしっかり育てようと思ったとのこと。
それで父が行っていた教育実習会に参加し、似たような境遇の父と出会い、そのまま意気投合してお互いに話し合った結果結婚したという。
それが俺たちが兄妹になった時の話だ。
今でも仲は良いが、小さい時は今以上に仲がよくて一緒に遊んだり、風呂に入ったり、抱き着きあって寝たりもしてた。
でも、俺が小学3年生になった頃からこの関係がおかしいと思って父に聞いた。
それで俺たちが義兄妹ていうのを知ったっていうわけ。
一応、俺の方が誕生日が早いから鈴葉は今でも俺の事を『お兄ちゃん』と呼んでいる。
別に恭吾と呼んでも良いと言ったのだが「昔からお兄ちゃん呼びだから、もう変えられない」と言っていた。
年が離れてないのに、お兄ちゃん呼びはちょっと照れ臭い。
嫌ではないから良いんだけどさ。
それと、一番重要な事なんだが別に俺は鈴葉に恋はしていない。
当たり前だろ、15年間ずっとに居るって言うのに急に恋心が芽生えるわけがない。
俺が鈴葉に対して思っている事は、一緒に居て楽しい、兄妹として守ってあげたくなる。
そんな事しか思っていないから、恋はしていない。
まあでも、可愛いと思ってしまっているのは本当だ。
鈴葉のやつ、中学生に上がった頃から急に美容とかに手を出し始めて、髪も今までボサボサだったくせして「サラサラが良い!」とか言ったと思ったら、コンディショナーとかシャンプーとか色々調べて使い始めたと思ったら、すぐサラサラになってた。
中学生三年まではロングだった髪も、高校入学と同時にバッサリ切って今ではショートボブ。
中学生の頃もショートの方が似合うなとか思ってたけど、いざショートヘアにしてみたら見事にドストライク。
犯罪です、これは。
しかも、顔立ちも元から良かったから一重だった目を二重にしてみれば、もう完全体。
目は大きいしまつ毛はしっかりと手入れされていて長く、毎回巻かれている。
肌も毎日ちゃんと手入れしているからか、中学までは荒れている時はあったがここ最近は荒れている姿は見た事がない。
それに、恥ずかしいが胸だって他の女子と比べたら……
この件はもう良い。
そう、とりあえず義妹はとにかく可愛すぎるのだ。
だから、たとえ義理でも兄妹という関係がバレてはいけない。
バレたら絶対イジられるし、鈴葉にも迷惑がかかる。
それに義理だが、妹は妹だ。
変な輩がよりついて、鈴葉が傷ついたりするのは見たくない。
だから俺は、兄妹という関係がバレたくないのだ。
守る時は守り、見守る時は見守る。
そんな感じだ。
俺は家に帰り、部屋着に着替えた後、ベッドに潜り込んだ。
今日は体育で持久走があり、とても疲れた。
てか、入学して一カ月しか経ってないのに持久走やるとか鬼畜だろ、マジ無理。
俺は静かに目を閉じた。
~~~
「チリリリ~~!」
派手なアラーム音によって俺は目覚めた。
時刻は5時前、俺は階段を駆け下りると急いで洗濯機を回し、風呂を沸かし始めた。
家の家事は基本俺がやっている。
明美さんはBARの仕事のため、基本夜中に帰って来て昼頃にまたBARに向かう。
父も最近は転職して、少し遠めの会社に勤めているため帰ってくるのは11時過ぎ。
ブラックかと思うかもしれないが、その分父は出社時間を少し遅めにしてもらってるとの事。
基本家には俺と鈴葉の二人、だから家事に関しては帰宅部の俺がやるしかないのだ。
風呂を沸かし始め、洗濯機を回した後はご飯の準備。
最近鈴葉は6時前にはもう帰って来る。
だから、その前までにはご飯の支度は終わらせておきたい。
前に鈴葉に「帰って来てすぐにお兄ちゃんのご飯が食べたい」と言われたので、なるべく守るようにはしている。
それに鈴葉は最近高体連のスタメンに選ばれたと嬉しそうに話していたので、あまりストレスになるようなことは避けたい。
俺は冷蔵庫から食材を取り出し、手を洗い作業に取り掛かった。
作業開始から一時間経つか経たないか、とりあえず一通り完成した。
今日のメニューは炒飯とワカメの中華スープ。
我ながら思うが、中学三年生から料理を作り始め、よくここまで成長したと思う。
最初の方は色んな物を焦がしていたが、今ではほとんど焦がさない。
たまに目を離した隙に卵などを焦がしてしまう事もあるが、鍋やフライパンはここ数カ月焦がしていない。
作った料理を皿に盛り付け、食卓に並べる。
4人で囲むはずのテーブルに二人分の食事を並べる。
なんだか悲しい気分になる、最後に4人で食事をしたのはいつだっただろうか。
記憶に無いな、記憶にあるのは鈴葉と二人で楽しく話しながらご飯を食べる。
そんな記憶だけ。
時計を見てみるともう6時過ぎ。
今日は帰って来るのが遅いなと思っていると玄関の方から「ガチャ」とドアが開く音がした。
玄関の方に行って見ると、脱力した鈴葉が居た。
鈴葉は俺を見るや否やジャージカバンを手から離し、靴を脱ぎ捨てると俺の前で俯きながら口を開いた。
「もうやだ、今日も告白された……」
人間、モテても過ぎても困るものなのだなと思った。
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