第7話 編入

あの後、グリアナさんは兵士の人に本を運ばせ、馬車に積み込めるだけ積み込むとホクホク顔で帰っていった。地下に置いてあった本は四分の一ぐらい減った。あれらの本にハイネに関することか、記憶を取り戻す方法について書かれてれば良いんだけどな。


「そうだ。カイル」

「なんだ?」

「ハイネが明日学園の編入試験を受けるからついていってくれ」

「ハイネが学園に通うのか?」


父さんがなんでもないかのようにすっと言ってきたので思わず聞き返してしまった。学園だって通うのに金がかかる。そんな余裕がうちにあるのか?


「ええ、ハイネが興味があるって言ったからね。私たちで話し合って通わせることにしたの」

「いや、だからって」

「金の心配なら不要だぞ。うちにもそれぐらいの蓄えはあるからな」


父さんと母さんがそう決めたならいいか。子が口出すようなことでもないし。


そういえば、ハイネは戦えるのか?見た感じあまり強そうには見えないけど。

そうきくと、「……大丈夫」と自信ありげな答えがかえってきた。本人がそう言うのならきっとそうなんだろう。



ーーーーーーーーーー


「今日からこのクラスに編入したハイネちゃんでーす。皆さん仲良くしてくださいねー。」

「……お願いします」

「「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」


ハイネが挨拶をすると、クラスの奴ら、主に男どもが叫び上がった。うるせえ。朝からテンション高すぎだろ。確かにハイネは美少女といっても過言ではないから、テンションが上がるのはわかるが。


ハイネは相変わらずの無表情を貫いている。もっと笑ったりすればさらに可愛くなりそうなんだけどな。ハイネの表情筋はかたくなに動かなかった。


「ハイネちゃんの席はカイル君の隣が良いですかねー」


瞬間、男子生徒の首がグリン!とこちらに向き、全員が殺気のこもった視線を送ってきた。お前ら怖すぎだろ。今のは人間ができる動きじゃなったぞ。


そんな嫉妬にまみれた雰囲気に構わず、ハイネはスタスタとこちらに歩いてきた。そして、俺のとなりの席に座ると、更に殺気と嫉妬の視線がきつくなった気がする。本当に人を殺しそうなくらいの殺気なんだが。大丈夫だよな?俺、クラスメイトに嫉妬で殺されたりしないよな?


その後、連絡事項を伝えた先生はさっさと教室を出ていった。相変わらずせわしない人だ。授業は地頭の良くない俺でも理解できるぐらいにはわかりやすい。先生が引っ張りだこなのも頷けるってものだ。


先生がでていくと多くの生徒がハイネのもとに集まった。


「なあ、どこに住んでるんだ?」

「……カイルの家」

「「「「「は?」」」」」


ハイネの言葉を聞いた男どもがまた殺気を俺に向ける。すごい反射神経だなお前ら。「カイr」ぐらいでこっち向いたやついたぞ。


「カイル〜、どういうことだ?」


馴れ馴れしく肩を組んできたのは、チャラ男。名前は忘れた。俺が言うのもなんだが、こういう常にめんどくさそうなノリをしてるやつとはあまり関わりたくない。


「そのまんまだぞ?ハイネは俺の家族だ。義妹とも言える」

「なあ、俺の妹と交換しないか?」

「家族は大事にしなさい」


最低な一言を放ったチャラ男の腕を振り払う。まあ、冗談だとは流石に分かるが。


「はい!婚約者とかはいるんですか!」

「……婚約者……いる、かも?」

「?」


ハイネのなんとも曖昧な答えにみんなが首をかしげた。


「ああ、ハイネは記憶喪失でな。俺と会った時より前の記憶がないんだ」


ハイネの過去には俺も気になっているところだ。家族や大切な人がいるなら、一刻も早くその人達を探さないといけない。きっとハイネのことを心配し、探しているだろうから。


「じゃあ、ハイネさん。俺と結婚してください!」

「……いや」


何言ってんだこいつ、アホだな。ハイネが一蹴して撃沈した貴族の馬鹿をみて俺は呆れ果てた。色々手順を飛ばしすぎだし、今日初めて会った人に求婚されても困るだけだろ。そもそもハイネが婚約者がいるかもって言ってんのになんで求婚してんだよ。


「ほら、もう授業の時間になるぞ。ほら、早く席につけよ」

「クソッ!ハイネさん、絶対振り向かせてやるううううう!」

「いや、多分無理だぞ。諦めろよ」


告白して秒で玉砕したやつが捨てゼリフをはきながら席へと戻っていった。それを皮切りにして、周りに集まったクラスメイトたちも続々と自分の席へと戻っていく。

その直後に歴史を担当している先生が教室に入ってきて、生徒の数を数え始めた。


「よーし、編入生含めて全員いるな。じゃあ、そろそろ授業を始めるぞ」


授業内容は魔王との戦争のこと。戦時に活躍した勇者や、この国から選ばれた勇者の話が延々と続いた。だが、俺たちにとって魔王との戦いについて学ぶのは大事なことだ。なぜなら、魔王軍を倒すことが何百年も前からの人類の悲願だからだ。魔王軍は十年に一度、こちらの大陸に侵攻し、多大な被害を与えてくる。人類が滅ぶのも時間の問題とさえ言われている。


だから、みんなこの授業は熱心に受けている。しかし、この大陸の人間にとって大事な授業をずっと寝て過ごすやつがいた。


「ハイネ、起きろ。授業終わったぞ」

「……ん」


ハイネは気づいたら寝ていた。うん、多分最初から寝てたな。

まあいいか。居眠りするかどうかは本人の勝手だ。いざとなったら、俺がハイネに教えればいいしな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る