第6話 グリアナ

今、俺がいるこの場所は武闘場という。簡単に言ってしまえば、戦うための場所だ。正方形の広い台があり、観客席まで完備されている。読んで字の如く模擬戦を行うための場所である。ここは武闘祭の予選にも使われる場所であるため、そこそこ大きい。


「始め!」


アラドリア先生の開始の合図とともに俺は相手に向かって走り出す。ちなみに相手の生徒は、成績で言えば俺と大して変わらない男子だ。だが、俺とは違って魔法のほうが得意な生徒。しかし、この模擬戦は魔法の使用は禁止となっている。つまり、俺の方が有利ではある。


一息に相手との距離を詰めて両手に持った木剣を横に振るう。だが、いくら武術が苦手と言ってもこれで終わる程度の雑魚ではない。しっかりと木剣を防ぎ、さらに反撃してきた。流石にこのままの体勢で木剣を防いだら追撃を食らってしまうので、後ろに飛んで避ける。


「スキルは使わないの?」

「バカ野郎。初手からスキルを使ったら後が続かねえだろ」


地味にこいつに話しかけられたのは初めてかもしれない。いや、今そのことはどうでもいい。とにかく、あれは挑発だ。俺がスキルを使用した後にその隙を狩ろうとしているのだろう。今スキルを使えばあいつの思うつぼだ。スキルは使うタイミングを考えなければいけない。


再度、相手との距離を詰め、木剣で打ち合う。ほぼ互角のようだが、俺の方がやや優勢だ。攻撃したら、防御する。その動きが無意識のうちに刷り込まれているころではないだろうか。次に相手が攻撃してきたタイミングで……ここだ!


相手の攻撃を防いだとともに、俺はスキルを発動する。


「全てを切り裂け!『デレイト』!」 

「うわっ、しまった!」


無意識のうちに刷り込まれている行動をしてしまい、相手はスキルを木剣で防いでしまった。もともと力の差がある上に、スキルを使用した一撃だ。まともに防ごうとすれば間違いなく体勢がくずれる。尻もちをついた相手に木剣突きつける。


「そこまで!」


すぐにアラドリア先生の合図があった。模擬戦は急所への一撃と認められるものをすん止めすれば勝ちだ。結構、安全には気を配っているだろう?


「ほら、大丈夫か?」

「うん、ありがとう」


手を差し伸べて尻もちをついた相手を起こす。そこへ、先程審判をしていたアラドリア先生が俺たちの元へ来た。


「アシル、お前はまだスキルは来ないだろうと思い込み、考えることを放棄したんじゃないか?」

「はい。すぐ撃ってこなかったのでまだ大丈夫だと思っていました」

「うむ、戦いにおいて何時いかなるときでも思考を停止することは死を意味する。これを忘れるな」


次に、アラドリア先生は俺の方へ向いた。


「お前は……まあ、よくアシルの思考を見抜いたな。だが、攻撃が単調すぎる。次はフェイントを絡めるなどしてみろ」

「はい」

「では次行くぞ!」




ーーーーーーーーーーーー


「あー、眠」


ふわぁ、と大きなあくびをしながら帰路を歩いていた。が、家の前に何故か騎士が二人、入り口を守るように立っていた。なんだ?何があったんだ?まさかハイネが本当に極悪人で、捕まえに来たとかか?


「すいませーん。うちで何かあったんすか?」

「ん?ああ、君がカイル君か。いや、私達はただの護衛だよ」

「護衛?だれのっすか?」

「グリアナ様という研究者だよ」


ふーん、聞いたことないな。まあ、護衛を連れられるんだから、さぞかし相当すごい人なんだろうな。


とりあえず騎士にご苦労様ですと労って家に入る。


「ただいまー」

「わー!なんですかこれは!ここは宝物庫ですか!?」


ドアを開いた瞬間に知らない女性の声が聞こえてきた。

うるさっ。多分、この声の人がうちに来ている偉い研究者だろう。


というか、リビングに誰もいないのか。研究者の言葉からして地下にいるのか?荷物を置いたら行ってみるか。


「……カイル」

「ハイネ、ただいま」


すっとハイネが廊下の方から顔を出した。昨日の夕飯ぐらいに気づいたのだが、ハイネはだいぶ表情が乏しい。さらに、声にも抑揚がないから感情が読めない。なんともコミュニケーションが取りづらい相手なのだ。


「……おかえり」

「研究者の人って地下にいるのか?」

「……うん」

「わかった。じゃあ、ちょっと見に行こうかな」


まずは、荷物を置いてきてからだな。さっきの声を聞くに、あんまり絡みたくはなさそうなタイプだが、本に何が書いてあるのかは気になる。


「ハイネはどうする?」

「……あの人苦手」


ああ、ハイネはうるさい人苦手そうだもんな。ここに来たのも研究者の人から逃げてきたのかもしれない。仕方ない、俺だけで行くか。






例の地下室には母さんと父さん、あと白くて丈が長い服を着た女性がいた。


「ただいま」

「あら、カイルおかえり」

「ああ、やっと来たかカイル」

「お、あなたがこの地下を見つけたというカイルくんですね!私はグリアナと言います」


俺がただいまというと、三種三様の答えが帰ってきた。この人が解読してくれるっていう研究者の人か。なんか想像してたのと違うな。もっと不健康そうな人かと思っていた。実際はだいぶ健康そうに見える。


「それにしても、素晴らしいですねこの場所は!」

「これ解読できるんすか?見たことない文字ですけど」


挿絵がある本もあったからできるかもしれないが、この文字量だ。解読するにしても結構な時間がかかりそうなものだが。


「文字を解読するのに一ヶ月。本一冊に一ヶ月程度掛かりそうですね。ですが、私も研究者です。必ず、すべて解読してみせましょう」


と、なんとも頼もしい答えが返ってきた。へぇ、そんな早くできるもんなのか。あ、そうだ。ハイネが封印されてた結晶に貼ってあった紙ってどこいった?探してみると、部屋の隅に落ちていた。それを拾って、グリアナに渡す。


「じゃあ、これも解読してくれないっすか?」

「メモ書き……ですか?これはどこに?」


ハイネまで研究対象にされそうだし一応、ハイネのことは隠してたほうがいいかもな。そう思い、メモがどこにあったかは適当に話した。


「俺が落ちてきたときに部屋の真ん中に落ちてたんすよ」

「そうですか。分かりました。一番文字数が少ないですし、これを最初に解読しましょう。これ渡しておきますね」


グリアナさんに渡されたのは、『グリアナ研究所』と書かれた金属製のカード。このカード何に使うんだ?俺が不思議に思って眺めていると、グリアナさんが説明してくれた。


「それがあれば、王城にある私の研究所に自由に出入りできます。王城の門番に見せれば研究所まで案内してくれるでしょう」


俺は図らずしも王城へ入れるようになった。



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