幼馴染が義妹になった。しかも二人も

日本海のアジ

よくある典型的なはじまり

「「ねえお兄ちゃん!」」

「お兄ちゃんはやめろよ。同い年だろ?」


 目の前には、天使が二人、舞い降りている。

 その背中には燦燦と輝く純白の翼が……。あるわけもなく、目の前にいる二人の妹……義妹は、俺と同じ高校の制服を身に纏い、俺の向かいに並んで座っている。

 互いの息がかかりあう距離。目の前の二人の天使は、俺の目をじっと見ていた。


「「私たちの、どっちが好きなの!?」」


 二人して一言一句違わず、俺にそんなことを言ってきた。


「そ、それは……」


 二人の天使から向けられる視線のせいで、俺は言い訳が出来なくなってしまった。こんな二人に嘘をつくことなんてできない。

 だが……。俺はなんて答えればいいんだろうか。だって俺は。


 ◇◇◇


 俺の名前は鬼塚慎吾。ちょっと名前が怖いけど、普通の高校一年生。得に秀でた才能が無ければ、勉強も並。運動も並。彼女いない歴=年齢のどこにでもいそうな青年だ。

 と、物語の主人公のような自己紹介を俺の心の中でしたのは、なぜだろうか。俺にも分からない。


「おはよう!オニちゃん」


 学校に行くのがだるくなる月曜日。突然隕石が降って来て学校休みにならないかなと考えながらリビングでパンをスープに浸して食べていると、突然鍵が開いて家の中に天使が走ってきた。


「和葉。毎日言ってるだろ。勝手に入ってくるなって。第一どうやって入って来てるんだよ」

「合鍵!ってー、オニちゃんそう言いながら私の分もスープ用意してるじゃん」


 天野川和葉。ハッキリとした色の綺麗な茶髪ロングな天使で、隣の家に住んでいる幼馴染。ここ二年くらい、学校がある日には毎朝うちに勝手に入ってきて一緒に朝食を食べてる。

 最初はインターホンを押してたが、そのうち押さなくなり、最近はどこからかうちの合鍵を手に入れて勝手に入ってくる。ま、どうせ父さんが勝手に渡したんだろうが。


「し、シンちゃん……。おはよう。い、いつもごめんね和葉が」

「いいんだよもう慣れたし。それに、雫も食べるだろ?」

「う、うん。ありがとう」


 天野川雫。和葉の双子の妹で、宝石のように輝く銀髪をショートにしている天使で、いつからか勝手に俺の家に来る和葉についてきて一緒にいるようになった。双子なのに、和葉はブレーキのついていない新幹線のような奴だ。それに代わって雫は田舎を走る一両編成の電車のような奴だ。正反対。その一言が最も似合う双子だろう。


「オニちゃん、今日の放課後買い物行こ!実は行きたい場所があるんだ」

「どうせ断ってももう一回聞いてくるんだろ」

「うん!絶対行くよ!」


 こいつからの質問に対する答えは一つ。イエスだけだ。ノーというと、選択肢のないRPGのように同じ質問をもう一度される。


「雫も行くだろ?」

「う、うん……行く」


 他愛もない話をしながら、俺たちは家を出て、学校に向かう。

 天使のような二人と一緒に登校すると、変に目立つせいで一緒に登校したくないんだが、拒否権のない俺。NOと言えない日本人代表鬼塚慎司は、すぐに毎日当然のように一緒に登校するようになってしまった。


「今日の買い物って、幸子さんの誕生部プレゼントだろ?」

「うん。よく覚えてるね」

「まあ、毎年買ってるしな。今年は何にするんだ?」


 二人の母親である幸子さんは、女手一つながら毎日頑張っている。朝だって二人より早く起きて仕事に行っている。まあ、そのせいで二人が朝家に来るんだが。いや、おかげと言った方がいいか。


「うーん……。無難にネックレスとかにしようかな。最近お母さん、仕事以外で出かけるのが増えたの。だから、もしや春が!?ってね」

「そうか。その春とやらが来てくれるといいな」


 幸子さんは二人が小さい時に事故で夫を失って、それ以来独り身だ。そんな幸子さんに春が来れば、負担も減るだろうし、二人との時間ももっと取れるようになるだろう。


「雫は何を買うんだ?」

「わ、私は……エプロン」

「エプロンか。いいじゃないか!」

「そーゆーオニちゃんは何か買うの?」


 何か……。

 俺も毎年幸子さんには贈り物をしている。普段二人からお世話になっているし、隣同士で古くからの仲だしな。


「今年は……。せっかく高校生になったんだし、ちょっとお高いものでも買おうかな。バックとかさ。幸子さんあんまり自分にお金使わないから」

「た、確かにママはいつも私たちにばかり……。い、いいと思う。ママ喜ぶと思う」


 結果。俺たちは家から学校に着くまで、ずっと幸子さんの誕プレ談義で盛り上がった。ちなみに幸子さんの誕生日は明後日だ。プレゼントを買うには少々遅い気もするが、まあ早すぎてもせっかちだし、これくらいが俺はいい。


「じゃあ雫。また後でな」

「う、うん。シンちゃん。お姉ちゃん。ま、また後で」


 俺と和葉は一組で、雫は三組だ。一緒に四階まで階段を上るが、そこからは別々になる。

 少し悲しそうに、雫は自分の教室に向かって歩いて行った。


「なあ」

「ん。なに?」

「雫って、可愛いよな」


 雫の後ろ姿を見ながら、言った。雫は可愛い。美少女という器には収まりきらない可愛さを持っている。天使だ。いや、天使の中でも大天使だろう。女神だ女神。ゴッド。

 そして双子ということは、二人の顔は一緒。和葉も雰囲気は違うがそれはそれで可愛い。さすがに本人には言えないが。


「な、ななななに!?オニちゃん、雫のこと好きなの?」

「…………どうだろうな。よく分からん」


 ○○が好き。○○に好きだと言われた。なんて話題は、健全な学校生活を送っていれば自然と耳に入ってくる。

 特に天使二人と一緒にいると、二人に関する事で余計言われてきた。

 好きかと聞かれれば、好きなのかもしれない。でも、俺が雫に抱いているような感情は、全く同じ感情を和葉にも抱いていた。


「和葉は好きな奴いるのか?」


 聞かれたら聞き返すしかない。やられたらやり返す。倍返しだ!これは昔から伝わる偉大な言葉だ。

 倍返しとはいかないが、同じ質問くらいは返せる。


「い、いいいいい、いるけど!?」


 何故か少し機嫌が悪そうに、そう言ってきた。そうか。和葉もそういうことに興味があったのか。これまでずっと幼馴染として一緒にいたが、和葉……。いや、二人のそんな話は初めて聞いた。

 俺としてはメッチャ気になるんだが……。ちょっと複雑かもしれないな。


「いるのか?そいつは羨ましい」

「え?」

「大天使和葉様の寵愛をその一身に受けられる男なんて、この世界の勝者。いや、その男もまた神だろう。俺も一度はそんな経験したいよ。ま、無理なんですけどね」

「な、なにその格好つけた言い方……。そ、そーなんだ。羨ましいんだ。ふ、ふーん。へーん。ふふ、ふふふふふふ…………」


 その後和葉は、チャイムが鳴るまで廊下から一歩も動かなくなってしまった。



 学校という面倒くさいものを終わらせて、直ぐに雫と合流した。

 と言っても、雫は毎時間の休み時間に会っているし、帰りのSHR前にも会った。ほんの十数分ぶりの再会だ。雫は休み時間に必ずうちの教室に来る。最近もっと自分のクラスの人と仲良くなった方がいいんじゃないかと心配になるくらいだ。

 ちなみに俺の休み時間は二人と一緒にいる以外何も無い。というか、俺が一人になろうとしても必ずどちらかが着いてくる。

 そのせいで、俺に友達はいない。誰も二人の天使による壁を破壊できず、俺に話しかけられない。

 ……。そう信じたい。嫌われてはいないはず。二人のイージスの盾が強すぎるだけなんだ。うん。何度か俺から話しかけて無視されたが、あれもきっと耳が遠かっただけなんだ。そうだ。


「どこで買うんだ?」

「決めてないよ。適当にぶらぶらしてさ、ビビっ!と来たお店で買おうよ」

「そう言って、そのビビっと来るお店とやらを見つけるのに夕方までかかるんだろ?」

「いいじゃーん。ぶらぶらするの楽しいよ?ねー雫」

「……うん」


 はい。拒否権はありませんでした。



「……はぁ。ったく毎回このフードコートでの出費がどれだけ痛いか……」

「まあまあ。いいバック買えたんだからさ」


 学校の近くにあるショッピングモールを漁って、何とか全員が思い思いのプレゼントを買うことが出来た。俺の買ったバックはブランド物という訳じゃない、ちょっといいくらいの物だったが、落ち着いた雰囲気で幸子さんに合うなーと思って一目惚れするような形で購入した。

 和葉はシルバーが美しく輝くネックレス。

 雫は猫の刺繍が入った水色のエプロンだ。多少雫の趣味が入ってる気はするが、子供からのプレゼントってそういう所がいいんだろう。

 ま、母親になにか送るなんて全く想像つかないが。


「雫。どれがいい?」


 そう言いながら、俺の後ろにある有名ドーナツチェーン店を親指で指さした。


「え、い、いいの……?」

「ああ。いつも世話になってるし、これくらいは」


 そう言うと、雫は顔をぱあっと輝かせて立ち上がった。

 おお……我が神が笑顔を……。

 雫は甘いものが好き。基本的に自分のことを話さない雫からこの情報を知るだけでも、かなり時間のかかることだった。

 ま、朝にスイーツ系か普通の朝食かで若干機嫌がいいと言うか、表情が明るくなった気がしただけだが。俺の予想は正解だった。


「ちょっとーっ!私のは?」

「はいはい。お姉ちゃんは我慢我慢」

「生まれた時間ほんのちょっとしか変わらないし、というか正確には同じだし!」

「……いやあ。金がねぇ」


 金がないということは本当だ。幸子さんへのプレゼントで俺の一ヶ月分のお小遣いが消し飛んだ。まあ二人分のドーナツ分くらいの金はあるんだが。

 ……普段の仕返しだ。


「…………むぅ」

「シンちゃん。ありがとう」

「むしろ礼を言うのは俺の方だよ。いつもありがとう」

「ちょっとぉー……。私はぁ?」

「感謝カンゲキ雨嵐」

「浩二さんに、雫を甘やかして私の事いじめてるって。言っちゃおっかな」

「ま、まて!父さんだけは勘弁してくれ。父さんにバラされた情報は何故か直ぐに幸子さんの所へ行って会う度にからかわれるんだ!」


 父さんと幸子さんは、昔から仲がいい。俺がなにか恥ずかしいことをすると、親父→幸子さん→和葉→バカにするというルートで俺の恥ずかしい話が早便で届く。早い時じゃ次の日には和葉に笑われたりした。


「じゃあ、私に何をすればいいか、分かってるよね?」

「……なにがいい?」


 どうも。勝てない男、鬼塚慎吾です。


「あっりがとーオニちゃん!」

「ほんと、和葉には勝てないよ」

「んー。なーにー?」


 球体が輪っかのように繋がっているドーナツを全部ばらして、一つ一つ口に入れながら幸せそうに食べていた。

 その横で雫はシンプルなドーナツを一口一口ちぎって食べていた。ドーナツをこんな食べ方するのって、雫くらいだよな。他に見たことない。


「ん?」


 二人の天使が俺の目の前で美味しそうに食べているのを見ていると、突然ポケットが振動した。

 俺のポケットが振動する理由なんて、ゲームの通知か連絡先が三件しかないメッセージアプリだ。だが目の前に三人中二人はいるし、ゲームの通知も基本的に夕方に来る。そして残った一つの連絡先は、俺の父さんだ。


『明後日、暇か?』


 ポケットからスマホを出して確認すると、そこには俺の予想通り、父さんからの連絡が来ていた。

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