第15話 

その電車は、全席が対面式になっていた。


最終目的地が県外となっていたためか、早朝の時間とはいえかなりの客が乗車していたが、たまたま一人分の空席を見つけて、そこに座った。


これだけ人が多ければ、もし仮に男が乗車してきても見つかりにくいし、安全なはずだ…私はそう考えた。


あくまで「仮に男が来たら、の場合」だ…

今日はきっと大丈夫…そんな気がする。


なぜならあの男は、

ちょうど今、ホームに立っているくらいの時間だから…。


私が半ば安心して、音楽を聴くためにイヤホンを取り出した、その瞬間…


…ザッ…ザッ…


また…あの音が…遠くから…聞こえた…。


ただ、あの男と同じように、足を引きずるように歩く、特徴のある歩き方をする人間はごまんといる。


きっと、別人だ…


私はそう、なんとか思い込み、そちらに目を向けることなく、イヤホンを耳に差し込んで、音楽をセットした。


ザッ…ザッ…


その靴音は止むこともなく…段々と近づいて来る…


これだけ満席状態の車内だ…

移動しても状況はさほど変わらない…。


普通なら、あまり移動せずに、通路に留まる方がいいと思うのだが、その人間は、どうやら人をかき分け、こちらへ移動してきている…ようだ…


知らない、私には関係ない、


今日は多分姿を見られていないし、あの男はいなかった…


きっと別人だ…


そう思い込んで、下方を向いて座ったままでいると、


引きずるような音がピタリと…突然とまり、


…私の足元に、男の足が…靴が、こちらを向いてとどまった…。


恐る恐る、顔を上げると…


…やはりあのサングラスの男が…つり革を握り、私の目の前に立ちはだかっていた…明らかにこちらを見下ろし、微笑んでいる…


私は恐怖で…すぐに顔を逸らす…


他にもたくさん…空いている通路はあるのに…私を探して…ここまで移動して来たのかもしれない…

つまり乗車のときから、いつもより早いこの電車に私が飛び乗るのを…見られていたということ…


ああ…やはり、この男はおかしい…


私はきっと、

顔を覚えられ、目をつけられている…


なぜだかわからないけれど、


      漠然と確信した…


    


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