美少女探偵・高天原シオンは挫けない

奇印きょーは

エピソード3・消えた白銀竜を追え

私は高天原たかまがはらシオン、この町一番の探偵だ。

残念なことに周囲で私の力を必要とするほどの事件がそれほど起こらないため、解決件数は…そう、トップシークレットだ。

それでも私の力が必要とされた事件はいくつかある。

今からその話をさせてもらおう。


--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--


「お、お、俺の≪審判の白銀竜ジャッジメント・シルバードラゴン≫が無いっ!!」


夕刻を迎えようとする駄菓子屋兼文房具屋兼雑貨屋その他諸々を営む八百万天国堂やおよろずてんごくどうのフリースペースに英太の叫び声が響き渡った。


「いやー、ちゃんと探せばあるでしょ。昼にバトってたときあったじゃん」

「いつもの紛れでしょ。英太って持ってるカードを全部持ち歩く割にデッキ毎に管理とかしてないしさ」

「つか、キラ加工のレアカードをスリーブで保護してない時点でバトラー失格じゃね?」

「ポテチ食いながら汚い手でバトルするしさぁ。≪白銀竜シルバードラゴン≫に愛想つかされたとかありそうw」


そう声を上げるのは英太のカードバトル仲間達。

英太いわく、「俺のカードのおこぼれに群がる金魚のフン」

少なくとも英太にとっては対等な関係と言うわけではないらしい。


「お前ら、もし帰ってから探しても≪白銀竜シルバードラゴン≫が見つからなかったら、お前らの誰かがドロボーしたってことだからな!

 センセーにも言いつけてやるからな、覚悟しとけよ!!」

英太の口から突然飛び出した大人の介入を匂わせる周囲は口々に反論する。


「お前が勝手に失くしただけなのになんで俺らがドロボーになるんだよ!」

そういったのは尾山、英太いわく一番の子分。

「そもそも最後に≪白銀竜シルバードラゴン≫を見たのはいつなんだ?バトル中はあったんだろ?」

落ち着いて話すのは椎野。眼鏡をかけた英太軍団の参謀役、らしい。

「それに俺達だって≪白銀竜シルバードラゴン≫付きの特集号買えたから自分の≪白銀竜シルバードラゴン≫を持ってるしな」

「みんなスリーブ使ってるから間違って持って帰るとかもないぜ?」

「つうかさ、お前の名前の書かれたカードなんて持ってたらすぐバレるじゃん。

 レアカードにマジックで名前直書きしてるとか低学年かよ」

取り巻き代表の園田を筆頭に他の仲間たちも声を荒げる。

普段から金魚のフンとか言われてることもあってか、うっぷん晴らしも兼ねているのだろう。

英太を攻める声は途絶える様子がない。


「お前ら、今日だって俺からジュランのカード貰っておいてなんだよっ!」

次第に英太は涙目になっていく。

「…オレの、オレの≪白銀竜シルバードラゴン≫返せよ…、ウウッ…」

ついに泣き出してしまった。

その場の男子たちは居心地悪そうに互いに顔を見合わせるも次の言葉が出てこない。


その時だった。

「いい加減にしないか、君たち。私は君たちが仲良くするためにフリースペースを作ったんだ。

 喧嘩の原因になるようなら、ここはもう閉鎖する!」

手洗いから戻った八百万天国堂やおよろずてんごくどうの店主、村上春之(41歳・バツ1)の一喝である。

これにはその場にいる子供たち全員が震え上がった。


ここ、八百万天国堂やおよろずてんごくどうはいわゆる子供のオアシスである。

夏はそこそこ涼しく、冬もそこそこ暖かいという準冷暖房完備。

駄菓子のほかにも雑誌や漫画、今回の騒ぎの原因となったトレーディングカードゲーム『カードバトラー・ジュラン』なども手広く扱うおもちゃ屋の側面もある。

遊びはもちろん飲食自由、なんなら上級生が下級生の宿題を見てあげるなど地域の子供コミュニティの中心地でもあった。

無くなるのは非常にマズい。

最悪の場合、英太のグループは学校内でつるし上げを食らうことだろう。

…それはそれでいい気はしたが、ここが無くなるのは本当に困る。


「ここで仲直りするか、仲直りしないで明日からここが使えなくなるか、今選びなさい」

店主はハッキリとそう告げた。


私は親友のミチコに目配せすると、お手洗いに行くフリをして八百万天国堂やおよろずてんごくどうを抜け出した。

普段、学校の遠足では忘れて置いていかれそうになり、英太達のグループからも『ジミ子』と言われる私である。

隠密行動は得意であった。

私がいない間は親友のミチコがうまくやってくれるはず。

そう信じて、今は自宅へ向かうのだった。


--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--


親友はどうやらお手洗いに行くフリをして家に戻ったようだ。

何らかの解決方法を思いついたらしい。

となれば、この場に英太たち男子グループを足止めするのがワタシの役目というところか。

ワタシってば、チョー親友思いで出来るオンナなのよね。


「ちょっと男子ー!幼稚園じゃないんだから、たかがカード1枚で騒がないでよ。

 天国堂が使えなくなったら、みんなが迷惑するんだからね!」


八百万天国堂やおよろずてんごくどう店主はワタシの言葉にうんうんとうなづいて見せる。

目の奥に輝くのは子供たちを見守る父性。

だからこそ地域に愛される八百万天国堂やおよろずてんごくどうなのであった。


--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--


家に到着した私はお姉ちゃんの本棚から『カードバトラー・ジュラン』の特集号を抜き取ると、特典の≪白銀竜シルバードラゴン≫があるかを確認した。

「あ、あった!」

これが今回の解決のカギである。

お姉ちゃんは主人公のジュラン大好き少女ではあったがカードゲームに興味がなかったのが幸いだった。

あとはいつもの変装である。


派手な登場と華麗な推理。

みんなの憧れる美少女探偵とはかくあるべきものなのだ。


--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--


「みちみちウンコのミチコに男のロマンがわかってたまるか!」

「「そーだそーだ!」」

「くぉーらー、男子ども!全員金玉蹴り飛ばすぞ!!」


…ヤバい、遅くなった。

八百万天国堂やおよろずてんごくどうは混沌の場所と化し、店主である村上さんはひどくため息をついている。

これを吹き飛ばすにはいつも以上の気合と根性が必要だね!


「にゃーはっはっはー、美少女探偵・高天原たかまがはらシオンの登場にゃー!

 皆のもの控えーい!!」


…私の声もむなしく混乱は続いていた。

救いを求めて店主の村上さんの方を見ると目が合った。

子供を助けてくれるのはいつも大人なのだ。


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「今回の事件は簡単にゃ。≪白銀竜シルバードラゴン≫はこの八百万天国堂やおよろずてんごくどう内のどこかにゃ!」


店主・村上の活躍により混乱を収めて貰うと私は『推理』を披露しはじめた。

すかさず英太の声が上がる。


「それって、この場にいる誰かが盗んだってことだよな。誰だよ、返せよ!」

焦る子供はお菓子をもらえない…そんな言葉があったような…

「焦るにゃ焦るにゃ。お話を聞くにゃん」


私の披露した『推理』はこうだ。


1.本日この場にある、は『英太のカード』と『本日みんなに配ったもの』だけである。

2.英太の≪白銀竜シルバードラゴン≫はマジックで名前こそ書いてはいたが表面保護の関係でポテチなど油まみれの手で触った場合、油性マジックであっても文字が消えてしまう可能性があった。

 ※これに関しては別の不要なカードで目の前で実演し文字を消して見せた。

3.全員が特集号を買い≪白銀竜シルバードラゴン≫を持っていることから、レアカード欲しさではなく、白銀竜シルバードラゴンである。


かなり苦しい言い分だが、今はこれがベストだと判断した。


「…というわけで今日、みんなが英太に貰ったカードと英太のカードを混ぜてグルグルしたら…みんなで≪白銀竜シルバードラゴン≫探しにゃ!」

みんなのカードケースと英太のカードケースから裸のカードをぶんどると、机にぶちまけて誰が誰のものかわからぬようにシャッフルした。


「コスプレ女!そんなことしたらどれが誰のカードかわかんないだろ!」

尾山が吠えた。

だが今回はそれが一番いい方法なのだ。

「じゃあ、誰かのケースから≪白銀竜シルバードラゴン≫が出てきたらどうする気にゃ?

 今回は『事故』なのにみんなで『犯人』を捜す『事件』にしたいかにゃ??」

「…んなわけねぇだろ…事故なら事故の方が良いに決まってんだろ…」

「じゃあ、みんなで手分けして≪白銀竜シルバードラゴン≫探しにゃ」


表裏バラバラのカードを一枚一枚みんなで揃えつつ、中にあるであろう≪白銀竜シルバードラゴン≫を探す作業。

もし見つからない時はお姉ちゃんの≪白銀竜シルバードラゴン≫を出して私が見つけたことにすればいい。

そして、≪白銀竜シルバードラゴン≫は見つからなかった。


「…や、やったにゃ!最後の一枚に≪白銀竜シルバードラゴン≫が埋もれてたにゃ!」

「マジかよ、すげぇ!」

「コスプレ女、やるじゃん!!」

私の名前は高天原たかまがはらシオンなのだが、男子どもはなぜ名前も覚えられぬチンパンばかりなのか。


「ポテチの油ってすごいんだなぁ…新品みたいにピカピカじゃん!」

「…ま、まあ、油だからにゃ…ピカピカするものだにゃ…」

目を光らせて喜ぶ英太を見ると、新品なのでピカピカなのはとてもじゃないが伝えられなかった。


パチパチパチと手を叩く音がした。

八百万天国堂やおよろずてんごくどう店主の村上さんだった。

事件は解決したが、今後もここで遊べるかは店主次第だ。

自然とみんなが注目する。


「よくみんなで解決したね。それに協力してくれた探偵さんもありがとう。

 そうだ、もしり、なカードがあれば、オジさんのところに持ってきてほしいんだ。

 今はカードを買えない小さい子にも人気が出てきたからね」


「はーい」「わかったー」「おっちゃんありがとー」

などの声と共に男子グループは帰っていった。

少し元気のない声が混じっていたのは気のせいだっただろうか。


「まーた事件を一つ解決しちゃったわね、美少女探偵シオンちゃんw」

ミチコがからかう。

「ううぅ…本当に恥ずかしいから、そういうこと言うのやめてよぉ…」

「…いや、それが恥ずかしい人間はそんな恰好でにゃんにゃん言わないだろっ!」

美少女探偵・高天原たかまがはらシオンは気難しいお年頃なのだ。


--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--


後日、ミチコと二人でフリースペースで遊んでいると、店主の村上さんが声をかけてきた。


「先日はありがとうね。これは私からのお礼のお菓子と…こっちは探偵さん宛の預かり物のお手紙だ」

村上さんから素っ気ない茶封筒を受け取ると中に手紙とカードが入っていた。

これは…≪白銀竜シルバードラゴン≫?


「申し訳ないが先に中味は確認させてもらったよ。

 その汚れ具合だと、それが本物の英太くんの≪白銀竜シルバードラゴン≫なんだろうね」


手紙には拙い字でこう書いてあった。

「たんていさん、かばってくれてありがとう。それに、ごめんなさい」


「先に言っておくけど、その手紙を受け取ったときは私は忙しくてねぇ。

 どんな子が持ってきたかまでははっきり覚えていないんだ」

八百万天国堂やおよろずてんごくどうに出入りする子供の顔と名前をすべて覚えている店主がそういうのだから、それは本当のことなのだろう。


大人はいつも嘘つきだ。

子供を守るためなら、いつだって優しい嘘をつく。

「まあ、探偵さんもそれが一番だと思って、あの時は必死で頑張ったんだろ?

 英太君も何か感じるところがあってか、お山の大将からいいお兄さんに変わりつつあるよ。

 ああ、子供の成長する姿を間近で見れるこの店は本当に最高だなぁ」


「私も店長さんみたいな大人になれますかね?」

「なれるさ。今でも立派なお姉さんだよ」

「くぉーらぁー、バツイチー!うちの親友に粉かけてんじゃねぇーっ!」

「ミ、ミチコ…言い方…」

店主は肩を落とし店の奥へと消えていった。

人は誰しも、触られたくない部分があるのだ。


「ところでさー?あんた、あの時の≪白銀竜シルバードラゴン≫、どっから出してきたの?」

「…あっ!」


お姉ちゃんの部屋から勝手に持ち出してきたのだが、事件が解決したことでここ数日の間、頭から完全に抜けきっていた。

家庭内部の犯行のことはバレているであろう。

気づいていないのか、謝るまで黙っていてくれたのか。

姉心、妹にはわからず…


「ひ、ひとまず…この≪白銀竜シルバードラゴン≫を持って謝罪してきます…」

「おう頑張れ!骨は拾うぞ!!」


肩を落とし家へ向かう私を、ミチコはずっと応援してくれていたのでした。

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