第38話




「失礼しますっ!!」




校長室のドアを勢いよく開け入って来たのははじめさんだった。

勢いよく入って来たことには正直驚いたが、ここにはじめさんが来たこと事態には驚きはなかった。

担任であるはじめさんなら私が校長室に呼び出さた事を把握していて当然だ。


だが帰りのホームルーム前に居なくなった事に疑念を抱き慌ててここへやって来たのだろう。


私は金森先生やはじめさんがここに来る前に話しを終わらせたかった為、六時限目を受けずに来た。

だから私の意思は既に校長に伝えてあるので、急いで来てくれた所申し訳無いがもう手遅れである。


そんな勝手な行動に後ろめたさがあり遠慮がちにはじめさんへ目を向けているとすぐ目が合ってしまう。




「やっぱり居たな!!

本郷、なぜ何も言わずにここへ来たんだ!一人で突っ走るな!」




荒々しい口調と合致しない自分自身を責めているような苦しそうな表情。

以前私が体調不良を隠した時と同じ、いやそれ以上の苦しそうな表情に心の奥底が痛くなるがなんとか堪える。

これははじめさんの為なんだと自分勝手な押しつけを自身で肯定する。




「ーーー噂についての呼び出しだったので山田先生には関係ないかと。」




「いや、関係あるだろっ!

元々俺が!ーーー」




「ストップ。そこまでですよ。まだ先客がおりますので少々お待ちいただけるかな、山田先生。」




その言葉に床で項垂れた状態の金森先生に気付き鋭い視線を向ける。




「まぁこの状態じゃ暴挙に出そうに無いですが、念には念を。」




そう校長が言えば続き部屋から警備員らしき人達が入って来て金森先生の両脇を抱えた。

金森先生を見下ろす形で校長は話し出した。



「さて、君の処分ですが、、、君は他の人達を巻き込み過ぎた。

善良であった生徒を、教師をも悪事に引き込み手を染めさせた。

彼女達は善良で有るが為に自分たちが犯した罪を白日の下に晒そうとするだろう。

だが、未来ある彼女達には酷な話だ。

だから別の形で君だけ・・・に制裁を与えたいと思う。

既に君の偉大な・・・父親には了承を得ている。ーーーこの意味は理解できるね?」




その瞬間、抜け落ちていた表情に色が戻る。




「父さんが、見切りをつけた、、、?嘘だろ?

もう、、ダメだダメだダメだダメだダメだ、、、。。」




言葉を発したかと思えば、今度は下を向いてずっとぶつぶつ独り言をつぶやいていた。

もう話しても無駄だと思ったのだろう。校長は警備員に顎で隣の部屋を差し移動の指示を出す。

そして先生はそのまま警備員に抱えられ隣の部屋へ連れていかれる。


でもその前にせめて一言言いたくて私は先生の進路に割り込んだ。




「いい様ですね。

あなたがはじめさんを貶めようとしたことだけは絶対に忘れないし許さない。

そして貴方にいい様に使われた人達も同じ気持ちだと思います。

ーーーでももし貴方が自分のして来た行いを悔い、いつか改心する時が来たとしたら、、、私はその手伝いが出来たら良いと思っています。」



下を向いてぶつぶつ言っていたリクさんがこちらを恐怖心に満ちた目で見る。



「ーーーもういいだろっ!!俺はもう終わったー!!!

やめてくれっ、やめてくれーー!!」



私がまた何か企てていると思ったのか錯乱状態になっている。

だから私はリクさんを抱き締め背中をさする。



「これ以上私は何もしません。

でもこれからしっかりと自分が何をしてきたかを相手の立場で考えて下さい。裏切られる気持ち、今なら分かるんじゃないですか?

でも大丈夫です。私は先程した約束を守りますから。」



そうリクさんの目を見て話すと彼は大きく目を見開いた。その後すぐ横に目を逸らし




「ケッ、偽善者が。」




と言葉を吐き捨てて行った。


リクさんがどんな反応でも、私は言いたい事は言ったしこれで満足だ。


遠ざかる背中を見ながらふと気になったのはリクさんと彼女達の処分についてだ。

校長の言い分だと世間へ公表せず内輪だけで処分を下すような話だったが、、、。



「ーーー校長先生、もしかして、、、隠蔽しますか?」




私が端的に聞けば校長はニッコリ笑うだけ。

多分、リクさんを庇って隠すと言うわけじゃないだろう。

ならば、、、




「学校の名誉の為?それとも彼女達の将来の為?

どちらにしろ今回の事は目を瞑るって事ですか?」




「ふふふっ、どうでしょうね~。」




はっきりと明確な答えはくれないようだ。

じゃあついでとばかりに以前気になったことも聞いてみる。




「金森先生が前に居た学校で聞いた話なんですが。

校長先生は金森先生の『人柄』と『疑惑』をしっかり聞いたのに『平気平気』といって態々・・そんな人物をうちに引き抜いたそうですね。

何ででしょうね?弱み?恩?

金森先生の偉大な父親か、またはあの学校の校長か、はたまた両方か。」




以前聞いた話しと先程の校長の話しから推察して鎌をかけてみるが全く笑顔が崩れない。

食えない人だ。今までの校長のイメージがガラッと変わってしまう。

これは聞くだけ無駄だったと一人納得した。

どちらにしろリクさんの件は校長に任せるしかない。私はただの生徒に過ぎないしね。




「いやぁ、本郷さんは面白いですねぇ。

まぁ私が言える事は彼女達には″お咎め無し″と言う事実だけです。

あちらの学校長の判断ですよ。

ーーーただ、代わりに彼女達には罰を与えないという罰が下った形になりましたが。

誰にも打ち明けられない、償う機会がないことはそれなりにきついものがありますからね。

まぁ背負った物は今後の活躍で返して行くしか無いでしょう。」




そう言う校長は先程までのニッコリ笑顔と少し違って居た気がする。




「さて、本郷さん。まだ話したいことがある様ですがどうしますか?」



校長は封筒をヒラヒラさせどうするか聞いてくる。

はじめさんの目の前で改めて『封筒』について話させようとしているようだ。

本当はしっかり受理されてからが良かったがそうもいかない、、、か。



「さぁ話すなら直ぐに。

ーーー先程から山田先生を放ったらかし状態ですしね、可哀想に。」




そう言われ後ろを振り向くとはじめさんと目が合う。

ごめんね、もう少しだけ我儘に付き合って。と目で謝り再度校長に向き直る。



「では校長先生改めて言います。

私、本郷ゆづ葉は本日を持ちまして退学させていただきます。」



あの時。

五時限目を終え校長室に向かった私は、退学届を提出していた。

はじめさんとの関係を正直に話し、そして金森先生の裏の情報を渡し、出来れば私一人の退学で何とかならないか交渉して居たのだ。

ーーーだがこうなってははじめさんから待ったが掛かるのは必然だ。




「待って下さい、校長。

本郷に非は全くない。どう本郷に聞いたか知りませんが以前・・お話した通り、全面的に私が悪いのです。

教師でありながら生徒の本郷に手を出した私が全ての元凶です。

ですから、退学届は受け取らないでください。」




「っ!!!」




そう言って私の隣に並ぶはじめさん。

私より前に校長に話していた事実に驚きが隠せない。




「何で勝手な事を。約束したよね?

一ヶ月は手出ししないでって。」




私は手紙の事を口に出すが




「ーーー確かにそう書いてあったが俺は″手出ししない″とは約束をして居ない。

仮に約束していたとしても″手″はだして居ない。ーー口や頭は出てたかもしれんが。」




自分も使った屁理屈を言われついカーっとしてしまうがここで校長の待ったが掛かる。




「やめなさい。

はぁ、、全く。痴話喧嘩は外でやって欲しい物ですね。

では話を戻しますが、私は今二枚の封筒を預かっています。」




校長が持って居るのは一つは私の『退学届』。もう一つは『退職願』と書かれた物。

あっ、と思いはじめさんを見ると分かりやすく目を逸らす。

もう一つの約束お願い″絶対に学校を辞めない事″を完全に無視した形だ。

抗議しようとしたが




「本郷さん、落ち着いて下さい。

私の話を聞いて?

えーっとここに二枚の封筒が有りますが、、。

まず『退学届』に関しては先程金森君の事が優先事項の為″後回しにする″と言いましたよね?

だから今これを処理する時間はありません。

また時間が出来たら対処しますので、えーと五ヶ月後?くらい?、なので本日付の物は不要です。と言う事で、破棄!」




「あっ!!!」




手を延ばしたが止める間も無くビリビリ破いてしまった。

五ヶ月後って卒業式過ぎちゃってますけど!?

そう心の中でツッコミを入れていると、次はもう片方の封筒を手に持つ。




「次に″退職願″の方ですが、『たった今一人教師が抜けて色々対応しなきゃならん大変な時に辞めるんじゃ無い!!!』by校長心の叫び。。コホンッ。

まぁつまりは″届″じゃなく″願″だから学校側の意向も考慮して欲しいって事で却下します。

ーーー教師として悪かったと思うのであれば、教師として挽回しなさい。、、はい、破棄!」




同じく止める間も無くビリビリビリビリ。


結局二通とも破棄されてしまった。

校長先生は私達の関係を否定しなかったし、全く責めなかった。

そして二人とも学校を辞めなくて良いと許してくれた。

どうしてなのか聞かずには居られなかった。するとキョトンとしたあとに、、、




「二人は本気なんでしょう?

なら良いじゃ無いか。

それぞれの立場をちゃんと理解した中で、二人ともがしっかり自立しながら愛を育んでいる。

相手が教師だからテストの範囲を聞こうとしたことがあるか?勉強を教えてとせがんだことがあるか?

相手が生徒だから甘やかして答えを教えた事があるか?特別枠を作って勉強を教えてあげた事があるか?

愛にかまけて成績か落ちたか?

愛にかまけて授業を疎かにしたか?

無いだろ?

君達はそんな事を絶対にしない。

学校とプライベートの境界線をしっかり守れる君達なら大丈夫だと信じているよ。

じゃあ話は終わりで良いかな?

全て他言無用で頼むよ。」




そう言って校長室から送り出された。


校長室の扉の前で二人並んで佇む。


《校長先生には頭が上がらないな。》


そう思いはじめさんを見上げれば同じ事を思っていたのか頷いてくれた。



これから校長の期待に添える様、より一層精進して行こうと決意したのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



カチャッ。



校長室の扉が少し開き校長の顔がぬるっとでできた。




「そうそう、言い忘れてたけど校舎裏の花壇でのイチャつきは控えめにね。

学校とプライベート云々うんぬんじゃなく、見てて恥ずかしいですよっ。

よろしく⭐︎」




パタンっ。




はい、精進します。


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