第12話



はじめ先生改め、はじめさんとお付き合いをすることになった翌日。


早速私たちは両家の家族に挨拶をする事にした。本日は我が本郷家だ。

昨晩私から両親に簡単な報告はしていたが、改めて2人で挨拶をする事に若干緊張していた。

なのではじめさんが来るまで家の外で待つことにした。

約束の時間5分前にスーツ姿のはじめさんがやってきた。顔には緊張と何故か殴られたような痕がある。

慌てて駆け寄り腫れている口元を見る。



「はじめさん、どうしたんですか?こんなに腫れちゃって。」



そっと腫れに触れると



「大丈夫だ。姉さんに本郷のこと話したら相手のご両親に挨拶する前にキスしようとするな手を出すなと叱られただけだ。全面的に俺が悪いから気にするな。」



そう言って頭を撫でられた。

あれは私が押し倒して襲った所為なのにと申し訳なくなった。



「私がはじめさんを押し倒してしまったからなんだからはじめさんの所為じゃ無いです。お姉さんには私が謝りますから。ーーーはじめさんも、ごめんなさい。」



そう謝りはじめさんを抱きしめた。はじめさんが抱きしめ返してくれたところで

「コホンッ」と咳払いが聞こえた。

そちらに顔を向けると私の両親が玄関先に立っていた。



「あらあら、熱いわね~。」


と母。



「玄関先で抱き合うとは。しかも『手を出す』『押し倒す』ですか。いや~詳しく聞きたいなぁ。ゆづ葉、山田さん。」


と父。



これは、、、初っ端からやってしまったかもしれない。

はじめさんを見ると真っ青な顔で滝の様な汗をかいていた。

はっと我に帰り頭を下げるはじめさん。

私も倣って頭を下げる。



「申し訳ありません。ご息女にこの様な真似を致しまして。ご挨拶が遅れてしまい重ね重ねすみません。私、山田はじ「ここでは何ですからお入り下さい。山田先生・・。」」



はじめさんの言葉を遮り家に入る様に促す父。いつも穏やかな父が静かに厳かなオーラを纏っていることに驚いた。



昨日はこんな反応じゃなかったのに。。これは許しを貰えないかもしれないと不安になり、はじめさんの袖の端を握る。

そんな私にはじめさんは微笑み手を握ってくれた。少し不安が和らいだ。



「ふふっ」


と母の声が聞こえた気がする。



そして改めてリビングにて挨拶をする。




「私、山田一と申します。ご存知かと思いますがゆづ葉さんのクラスの担任をしております。

教師でありながら、そしていい年をした大人でありながら未成年のゆづ葉さんに好意を持ってしまい申し訳ありません。1ミリたりとも弁解の余地は御座いません。

ですが、ゆづ葉さんへの気持ちは嘘偽り無く本気ですのでどうか結婚を前提としたお付き合いをしますことをお許し願いたいです。」


深く頭を下げながら言うはじめさんに更に惚れ直した。そして私も同様に頭を下げ両親に告げる。



「お父さん、お母さん、はじめさんが悪いんじゃないんだ。私がはじめさんを好きになって強引に頷かせただけで、はじめさんは教師としての立場を忘れて居なかった。だからはじめさんを責めないで。私が全て悪いし、責任を取ります。」



すると母が笑いだした。



「あっはっはっ、あなたもう抵抗やめなさいよ。ゆづ葉が口説き落としたみたいだから何言っても無駄よ。ゆづ葉の事だからもし反対でもしたら縁切って出て行くわよ。」



確かにとことん反対でもされたら縁を切る覚悟は出来ていたが、、笑い事では無いよ母さん。

そう心の中でツッコミを入れていると




「はぁ、分かってはいたさ。ゆづ葉は一葉かずはさんの血が色濃く受け継いでいるからね。これだと決めたら命懸けで欲しいものを手に入れる。どんなものでもね。

で今回偶々その存在が担任の教師だった、山田さんだっただけの事。反対はしないさ。

ただ山田さんの誠意は見たいじゃないか。ゆづ葉が惚れた相手なら心配は要らないが1人の男としてのケジメは大事だろ?

うん、良い覚悟、誠意だった。いや~いい子捕まえたねー。」



さっきの厳かなオーラは無くなりいつもの父さんの雰囲気に戻った。

突然の豹変ぶりに訳が分からずはじめさんと顔を見合わせる。



すると母さんが口を開く。



「つまりもう貴方達の事は認めてるってことよ。教師だから何?愛し合っているなら関係無いわよ。ただ私たちは良いけど世間はどうか分からない。だから引き裂かれるなんてことにならない様に卒業までは隠し通しなさい。

これが私たちからのお付き合いの条件かしら。」



両親が頷き合っている。

そう言われ力が抜ける。隣を見るとはじめさんも同じらしく「はぁー」と大きく息を吐いている。



「ふふっ、サプライズ成功ね。

でも本当に良かったわ。はじめさんと呼んでいいかしら?

はじめさんのお陰で孫の誕生に希望の光が差したわ!本当にありがとう。

ゆづ葉ったら女の子にしか興味無いから半ば諦めてたのよね。

だから悠二さんと改めて家族計画始めようとしてたのよ。ねっ、悠二さん?」



ウィンクしながら父に同意を求める母。



なんでだろう、私の事を理由にしていたけど近い将来弟が妹が出来きそうな気がする。

まぁとにかく両親のあれこれは聞きたくないな。



「一葉さん、子供達の前でそんな話しないの。また二人の時にね。

まあそう言う事だから孫は大歓迎だよ。安心して『手を出す』『押し倒す』をしてもいいからね。ただ出来れば卒業は無事迎えて欲しいから避妊はするんだよ。」



父よ。あなたも明け透けなく言わないで欲しい。はじめさんがこれでもかと言う程真っ赤になって可愛い可哀想事になっている。



「父さん、母さんお願いだからオブラートに包んで。はじめさんが真っ赤だから。

もうっっ、こんなはじめさんを見るのは私だけにしたいのに!

はぁ、、、全く。はじめさんに色々したくなっちゃうからやめてよね。ーーー本当に卒業を迎えられなくなっちゃうよ?」



そう両親に伝えると




「本郷!お前もやめてくれ!!無理だ!もう許容範囲超えてる。。孫とかひっ、ひっひにんとかもう、、、。常識はどこに?!俺がオカシイのか?

せめて卒業まで健全に!!と!」



「「「えっ?無理でしょ?」」」



家族みんな声が揃った。



「この家みんなこれか!!!」




はじめさんは吠えていた。





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はじめさんが(なぜか疲労困憊)帰宅した後の事。



「夕子ちゃんにはもう伝えてあるの?」



と母が聞いてきた。

一応告白後の現場を押さえられたので粗方報告していると言うと



「改めてきちんと話した方がいいわよ~。あの子ゆづ葉の事大好きだから、しっかり話さないと後ろから刺されちゃうわよ、もちろんはじめさんが。」



と言われたが刺される?はじめさんが?

背中を押してくれた夕子がそんなことするとは思えなかったが、大親友には全てを伝えたい気持ちがあったので素直に頷いた。







「はぁ〜本当に。。。ゆづ葉は分かってるのかしら。夕子ちゃんあの子ならーーーやるわよ。」



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