第6話 彼らはそれと旅をした (2)
集落に滞在して1週間程たった。彼らを観察していると、少年の言っていたように年齢で役割がはっきり分かれていることがわかった。12歳ぐらいまでの子供たちは、より小さい子供たちの世話をして、20歳ぐらいまでの若者たちは食糧や生活に必要なものを探しに外に出る。20歳以上の女は繁殖場で子を生み、男は外の警備をしていた。しかし、いくら探して見ても、壮年期半ば以上の人間は見あたらなかった。
「お兄さん大変!」
少女が彼女より少し年上ぐらいの少年をひっぱって走ってくる。体の小さな少年には少女の歩幅について行くのが精一杯のようだ。
「乱暴は良くないよ。」
息が荒れている少年を気遣うと、彼は大丈夫と笑って見せた。その顔には見覚えがあった。少女は少年の顔を両手で挟み、青年の前に突き出した。
「彼よ!7日前にここを案内してくれたあの男の子!」
あの日の彼はあどけなさの残る少年だった。今はもう立派な青年に見える。
「君たちが変わってないことが不思議だよ。もしかして、君たちは不老不死の種族なのかい?」
二人を揶揄っているわけでもないらしく、少年は本当に不思議そうな顔をしていた。彼らは異常なまでに成長が早いらしい。
「君はあとどのくらい生きられる?」
どう答えたらいいかと少年は少し考えた後、10回と言った。何の回数かと考えていると彼は続けた。
「明日から警備なんだ。だからあと10回警備に出られるぐらいかな。」
つまり、彼らの命は30日程度しかないということだろう。そう答えた後も彼の顔に悲観的なものは感じられない。彼らにとってはそれが普通のことなのだ。
さらに数日経った。あまりに様子が変わらない少女と青年の姿に村の人間は気味悪がり、あの日の少年だけが変わらず接していた。もう少年とも呼べないため、少女は彼をウィルと呼んでいた。彼らには名前が存在しないため、少女が自分の世界の言葉からつけたらしい。ある日ウィルは二人を村から離れた場所に案内した。そこはあの日、彼と二人が会った場所だった。まさかお別れなんて言わないでよ、と笑う少女に、青年は困った顔で笑い返した。
「多分そろそろ僕は動けなくなると思うんだ。二人と会うまではそんなことなんとも思わなかったし、周りも何も思ってないから、こんなこと誰にも言えないんだけど。」
眩しそうに川を見つめ、風で揺れる木々の音に耳を傾ける。少女はウィルと会うと、いつも森の様子について話をしていた。木漏れ日が眩しいのが美しい。透明な川の穏やかに流れる音が心地よい。そんな話を聞いているうちに、今まで何とも思っていなかった彼も美しいと感じるようになっていた。
「僕ももっとこんな景色を見たかったな。」
自分は変になってしまったのかな、と彼は寂しそうに笑って目を伏せた。
「それなら見に行こう。」
そう言ったのは青年だった。予想外の言葉にウィルと少女は青年の顔を見る。
「見たことない景色はたくさんある。見たいなら行こう。」
青年は彼らにそこで待っているように言うと森の中に消えた。一人で大丈夫かと心配するウィルをよそに、少女は嬉しそうに大丈夫と笑った。
青年の足は徐々に早くなった。これまで、年下と思っていた人間に歳を追い抜かれることなんて考えたこともなかった。自分にとってのほんの一分一秒が、彼にとってはずっと長く貴重な時間だ。数分走るとしばらく停めたままだった車に着いた。ドアを開けて鞄を掴む。何日の旅になるだろうか。それはつまりウィルの命の期限ということか。青年はそれ以上考えることはやめて適当に着替えや食事をカバンに詰めると、彼らの元に急いだ。息を切らして戻ると、少年は変わらず困った顔で待っていた。
「行こう。大丈夫、俺たちが一緒に行く。」
少女は自分の荷物を受け取り背負うと、まだ戸惑っているウィルの手を引き、行くぞーっと声をあげた。彼女たちが向かうのは、彼がまだ行ったことのない森の先だ。彼らの行動範囲は、二人にとっては決して広いものではなかった。彼らの寿命から考えると当然だろう。何があるかわからない、危険かもしれない、そんな不安がウィルの心に浮かんだが、青年と少女の言葉によって掻き消された。
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